王都叫喚 その7
「……来タカ、強キ者ヨ」
ジャバウォックは静かに降りてきた。
「お前が、あのトカゲどものボスか?」
「奴ラハ帰シタ。我ガ用ガアルノハ貴様ダケダ」
「恩着せがましいこと言ってんじゃねえぞ。好き放題やってくれやがって」
そういうと、蓮はこぶしを握った。
「とにかく、てめえは一回徹底的にとっちめる」
「来イ、我ガ宿敵ヨ!」
ジャバウォックは言葉と同時にこぶしを繰り出した。繰り出されたこぶしは蓮までたどり着くも、蓮の姿はすり抜け、どこにもない。
「ざ、残像!?」
思わず声を出したのはアイシャを治療していたエターナルだ。なお、彼女の補助魔法は、蓮にはこれまでも含めて一切かけられていない。
消えたか、と思った矢先、ジャバウォックの尻尾が動いた。背後にいた蓮の姿をとらえるも、それすら残像。
その瞬間、ジャバウォックの瞳が大きく揺れた。さらに身体が衝撃に揺れる。
その腹部には、蓮がこぶしを突き刺していた。それは鎧のような鱗をいとも簡単に突き破り、穴が開いている。
「グハァッ……!」
ジャバウォックはよろめき、吐瀉物を噴き出しながら後ずさる。その隙を見逃す蓮ではない。
上に飛んだかと思えば空中で横に一回転し、回し蹴りを繰り出す。思えばこっちに来てから、まともに蹴りを見舞うのは初めてのことだ。
蹴りはジャバウォックの横っ面に当たり、巨体を軽々と吹っ飛ばす。
だが、ジャバウォックもやられてばかりではない。
吹き飛ばされざまに、口から火球を吐き出した。
一発で町一つが吹き飛ぶ威力の火球は、まっすぐ蓮へと飛ぶ。
だが、蓮は避ける動作は取らなかった。
代わりに、手をかざしただけだ。直後、大爆発が起こる。
すさまじい爆発にエターナルたちもあおられる。バリアを張ってはいるものの、衝撃はすさまじい。
煙が晴れると、そこに蓮は立っていた。それも、かざした手のひらが少し赤くなっている程度で。
姿を改めて再び火球を吐こうとしたジャバウォックの顎に、すぐさまアッパーが叩き込まれ、開けた口が無理やり閉じられる。
それでも振り降ろされたジャバウォックの両腕を、蓮は真下から蹴り上げた。腕の方が威力負けし、上へと吹き飛ばされる。
最後の一撃は、勇者の刻印込みの右ストレート。
叩き込んだのは、先ほど穴が開いた装甲の隙間。
ズン、と大地にまで伝わる衝撃の後。
声も上げずに、ジャバウォックはその場に崩れ落ちた。
ジャバウォックが気が付いたのは、しばらく後のことだ。
王都からかなり離れたところに運ばれたらしい。
気が付くと自分の身体に蓮が座っていた。
「……ココハ……」
「町の近くに置いとくわけにもいかねえんだよ。みんな怖がるから」
「……我ヲ殺サヌノカ?」
「俺ぁそういうのはごめんなんだよ」
「ソレデ、ワザワザコンナトコロマデ運ンデキタノカ?」
「お前重いんだよ。もう少し軽くなれ」
「……竜ノ中デハ、我は平均体重ダト思ウガ」
「まじかよ。肉ばっか食ってるやつはこれだから」
「……植物モ食スゾ。我ハ」
そこまで話して、二人は少し黙った。
「……貴様ニ、勝チタカッタ。竜トシテ、敗北ハ恥ダト、ソウ思ッテイタ。ソレハ、今モ変ワラヌ」
「そうかよ」
「ダガ……同ジ相手ニ二度モ負ケレバ……認メザルヲエマイ」
「――――ああ、そうかい」
「……ナンダカ適当デハナイカ?我、本気デショックダッタンダゾ。オマエニ負ケタノ」
「俺に取っちゃそんな連中、しょっちゅうなんだよ」
自分が最強だと思ってるやつ。それで、自分に挑んできて負けて、プライドがどうだとか言ってリベンジしてくるやつ。それで負けるやつ。
つまり、こいつは自分にとって、チンピラの異世界バージョンだ。異様にでかくて空飛ぶトカゲであるだけの。
そして、こういう連中をとっちめた後に、蓮が言うセリフは大体一貫している。
身体に座り込んだまま、蓮はため息をついた。
「……よそに迷惑かけんなよなあ」
ジャバウォックは倒れたまま、その言葉を聞いていた。
蓮が何を求めているのか、なんとなくわかった。
その為に、彼はわざわざ自分を生かしたのだ。
「………済マナ、カッタ……」
ジャバウォックは、小さくつぶやいた。それでも元がデカいため、普通に聞こえる大きさの声だったが。




