第二階層/初戦闘
「ここが第二階層…それで、早速見えてるアレが《モンスター陣》ってやつか?」
階段を下りダンジョンの〔第二階層〕へと降りて来たカイセ達。
辿り着いたのは最初の部屋。
扉を開けた先には、広々とした真四角の空間が広がっていた。
そして早速目にしたのは、部屋の中央に浮いた球体の《立体魔法陣》であった。
「あぁ、まぁ当然と言えば当然だが、解析も何も出来るようなものじゃないな」
アレが何かはカイセも知っているのだが、だからと言って一目見て構成を読み解けるような代物では無かった。
「流石に人目に暴かれたらこっちが困るわよ。神々の術式なんだし」
「ちなみに、もっと別の呼び名は無かったのか?《モンスター陣》って、あんまりしっくり来る言葉じゃないんだが」
「正式名称は別にあるんだけど……やたらと長いから人の付けたそっちの方が単純で分かりやすそうだし良いんじゃない?」
――ダンジョンの構造はいくつかの形式に分けられる。
その中で、以前に〔ダルマ・アーロン〕が攻略したというダンジョンは〔自然型ダンジョン〕に該当する。
ダンジョン内部の構造が自然の地形に近く、モンスターも都度野放しにされたダンジョン。
対して今回の〔新しいダンジョン〕は〔遺跡型ダンジョン〕に属するそうだ。
まず、各階層内には複数の〔小部屋〕や〔広間〕などの、明らかに整備された空間が各所にいくつも存在しており、モンスターとの自然遭遇も基本的には起らない。
遺跡型ダンジョンでは、俗に《モンスター陣》と呼ばれる、今カイセ達の前にある《魔法陣》が各部屋にランダムに出現し、その《魔法陣》に接近する事によりその都度モンスターがその場で生成される仕組みだ。
目の前の立体魔法陣は、ダンジョンにおける重要事項の一つだ。
「あの魔法陣に人が接近すると陣が起動してモンスターが出現する。そして、それを倒さないと先の道や部屋には進めないって事で良いんだよな?」
「そう。この部屋だと…次に進むための扉は三つあるみたいだけど、モンスター陣を起動させて、出て来たモンスターを全滅させないと次への扉は閉ざされたまま。ちなみに来た道も塞がるから部屋に踏み込んだ時点で戦闘終了まで引き返すのも不可」
そんな仕組みのせいで、自然型では遭遇回避や逃げる選択肢もあったモンスター戦が、遺跡型では魔法陣を見つけた時点で回避不可能な状況になる。
自然型と異なり不意打ち闇討ちを受ける可能性が殆ど無い上に陣の起動…つまりは戦闘開始のタイミングをこちら側で計れるのは利点のある方式であるが、先のデメリットに加え、各階層で最低一度はモンスター陣に遭遇するように仕組まれているらしい面倒な方式でもある。
「確かに後ろも閉じてるな。なら素直に始めて行くか」
「第二階層に出るのは【ワイルドウルフ】か【オーク】、またはその両方」
「初手がゴブリンやスライムじゃない上に混合ありってだいぶ優しくない構成だけど、まぁ前衛は用意してあるから、このくらいなら任せっぱなしで問題もないだろう」
カイセの意志に反応し、警戒待機で控えていた二体が二人の前へと出る。
全身鎧の人型が二体。
その姿は見覚えのある、カイセの腰に携わる【神剣】と遭遇した時に敵対したあの《守護騎士ゴーレム》にそっくりな姿であった。
「(最終チェックは?)」
『――個体名【ウコン】、動作確認問題無し。次いで個体名【サコン】、動作確認問題無し。両ゴーレム共に不具合は確認されませんでした』
「(分かった。そんじゃ待機解除で)」
『了解です、マスター』
神剣のその言葉と同時に、待機状態で同行していた《二体のゴーレム》が完全起動する。
個体名:ウコン/サコン
種族:人造ゴーレム
年齢:―
職業:―
称号:―
耐久 350
魔力 ―
身体 350
魔法 ―
特殊項目:
剣術模倣 (ケンジ)
魔力接続 (カイセ)
カイセと神剣が前衛役として用意した新品の二体のゴーレム。
留守を任せる警備用や雑務用では無い……完全に戦闘の為に用意されたゴーレムだ。
以前に神剣の守護で対峙した《守護騎士ゴーレム》の劣化量産型。
厳密に言えば用途に合わせたマイナーチェンジの機体と言ったほうが良いだろうか?
【ウコン/サコン】は同型双子機。
同一デザインである双子機の間には、見た目の上での差異は〔剣〕を持つ手が右利きか左利きか、そして一本角か二本角かの二か所のみであり、全体のデザインも守護騎士に似通ったものになっている。
ただし、性能面はオリジナルとは大きく異なっている。
オリジナルにあった、稼働時間と引き換えの超強化は完全撤廃。
稼働も独立型ではなく、直接主人であるカイセと〔魔力の回路〕を繋いだ常時接続による魔力供給により、カイセの魔力が尽きぬ限りは永続的に動き続ける事が出来る。
その分基礎ステータスの低下や、接続距離の都合で一定距離以上カイセから離れられない制約も付いているが、正直350もあれば大概の敵は問題無く屠れ、距離も余程離れなければ問題ない事も確認済みだ。
その上で簡易なオプションも持たせているので、順当に行けば後衛役のカイセに出番はないまま終われるはずだ。
「もっとこう、派手なスキルの付いた剣でも用意するかと思ってたのだけど、案外シンプルな剣を持たせてるのね」
「安全万全を期すならもっと色々込めたかったけどゴーレムに材料喰われた上に、凝ったのだと万が一の時に問題ありそうだったからな」
シロの指摘する剣。
それは双子ゴーレムに持たせた剣だ。
【魔剣ムラサメ/魔剣ムラマサ】
〔物理ステータス+100〕
二体の主武装である魔剣は、素材の理由以外にも万が一落とした時に備えてあえてシンプルに仕上げている。
シンプルとは言え、素人の大人の力が実質倍増するようなステータス増加など破格と言えば破格ではあるのだが。
この魔剣を双子ゴーレムにそれぞれ持たせることで、結果として物理ステータス450の、基礎だけならばオリジナル超えの性能となった。
バッチリ〔魔境の森〕でも通用するステータス、数字の上ではジャバとも張り合えるゴーレム達だ。
(……モノ自体には不満は無いんだけど、やっぱり名前はもうちょいどうにかしたかったなぁ。まぁゴーレムのは対としてはありだろうけど失礼承知で言うと何かダサいし、イーグルとかレオンとかにしとけば良かったか?合体はしないけど。――そして魔剣の方は悪くないけど確実にシンプルな性能が名前負けしてる)
ちなみにこれらの命名は全て神剣が付けたものだ。
カイセが命名を後回しにしていた為、神剣に記録された名称ライブラリーからの採用したらしいのだがこうなるのなら作った瞬間に自分で命名しておけば良かったとカイセは後悔している。
「……それで、準備は整った?」
「それはとうに。始めちゃっていいのか?」
「それはもうご自由に。私は付いて行くしかないのだから都合は気にしなくても大丈夫」
「了解。じゃあやるか」
そう言ってカイセは一歩二歩と踏み出し、モンスター陣の起動範囲に踏み込んだのであった。




