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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第五章:めちゃくちゃダンジョン攻略(?)記
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忍び足




 「――ふぁあああ……」

 「お前なぁ…仕事中だぞ?隊長たちに見つかったらどうする?」

 「あぁわりぃ。だけど…やっぱ夜警は眠くって」


 真夜中の警備。

 敷地内への不審者警戒にあたる男達は言葉を交わす。

 

 「それにしても……〔ダンジョン(こんなとこ)〕に警備って必要なんですか?どうせ数日後には一般開放されるんだし、わざわざ立ち入り禁止を破ってまで侵入する馬鹿が居るんですか?」


 男たちが守るのは〔ダンジョン〕。

 少し前に発見された〔新しいダンジョン〕であり、既に調査隊が基本調査を終えた場所。

 そして数日後の一般への開放を待つ、今はまだ未開放のダンジョンであった。

 彼らの部隊の役目はそんな未開放ダンジョンへの侵入者の排除防衛。

 だがこの男はそもそもそれが必要なのかと疑問を感じる。

 しかし同僚が今の役目の必要性を伝える。


 「必要だよ。少なくとも、開放前の今の時期に〔盗掘〕する事で得られる利益(・・)がある以上は、そんな馬鹿を考える輩はゼロにはならない。実行するかは別だが」

 「利益ですか?」

 「開放された後は、時間が経てば流通も安定して一定の金額で出回るようになるであろう個々のダンジョンの〔固有ドロップアイテム〕品も、正式流通前の今なら希少価値やらで馬鹿みたいな高値で売れる可能性もある。勿論()やら個別取引でだが」


 そのダンジョンでしかドロップしない〔固有ドロップアイテム〕。

 内容に当たり外れはあるが、そこでしか取れないという限定の価値はとても大きなものである。

 ましてや市場に本格的に出回る前の時期となれば、一つ辺りの単価も上がる。

 その〔最初の時期〕が一部の者達にとって、とても大きな稼ぎ時になるのは間違いない。


 「ルールに則って初日や二日目にスタートダッシュを決めようとするする輩は健全なんだが、中にはフライング(ズルを)しようとする輩も居る。そして買い手側も『今すぐ欲しい』『誰よりも早く欲しい』なんてちょっとの我慢や自制が出来ない欲張りがゼロとは言えない以上、ルール破りの〔盗掘品〕にだって少なからず需要は出るはずだ。これはもう人の欲がある以上は絶対に無くならない可能性だ。まして数百年に一度の、人には一生に一度の機会ともなればな」


 だからこそ、そんな盗賊紛いの盗掘者の侵入を未然に防ぐために、彼らは交代しながら昼も夜も警備を続ける。

 彼ら二人以外にも、今もダンジョンの周辺各所には複数の兵たちが待ち構え見張っている。


 「ちなみに、もしも盗掘を許しちゃったら、俺らどうなりますか?」

 「国は勿論、〔ダンジョンの開放の式典〕は数百年に一度の国事で大規模なお祭りだからな。そこにケチを付けられたとあったら……まぁ減俸は確定。それだけで済めば軽い方だろう。だがまぁ逆にこのまま何事も無く完遂出来たなら、少しぐらいは上から臨時ボーナス(おこぼれ)があるはずだ」

 「え、マジですか?それ早く言ってくださいよ!」


 先程とは打って変わってシャキッと背筋を伸ばして周囲を見渡す男。

 ボーナスの話が出た途端にこれである。

 

 「……まぁその調子で息切れしない程度に張り切ってくれ。いざと言う時に戦えるだけの力はしっかり残しておけよ?」

 「了解です!先輩!」


 そうして二人は持ち場の警備を淡々と続けて行く。

 ……しかしその二人は、静かに背後を抜けて行く存在(・・)に、最後まで気付く事は無かった。






 「――私達の侵入(・・)がばれたら、あの二人はクビになっちゃうかもね?」

 「その時には俺らの女神(責任者)にどうにかして貰おう。これ全部上の(・・)せいなんだし。ただまぁ……この様子なら気付かれる事は無いんじゃないか?俺の方はまだ不安残るけど」

 「カイセくんなら問題ないとは思うけどね。今も完璧に消えてる(・・・・)し」

 「その分、維持するのがキツイんだよこの複合魔法。自分の存在を薄めたり消したり……軽くならまだしも、ここまでだとちょっと気を抜くと自分の境界線(・・・)を見失いそうで気持ち悪くて仕方ない」


 その存在の正体は二人。

 カイセとシロ。

 二人は各々の手段を以って、その存在や声も、他者に認知される全ての感覚を遮断させている。

 《隠密》系魔法の多重並行使用。

 しかもレベル10であるカイセの最大出力で。

 他者は勿論、自分自身の輪郭すら意識し続けなければ見逃しそうになる気持ちの悪さを、カイセは歩きながら感じ続けながら進む。

 ちなみに天使であるシロは、この手の行動はお手の物。

 何の苦痛も苦労も無く、カイセの横に並んで浮いている。


 「……ちなみに何だけど、向こうの方で何やらダンジョンの様子を伺ってる輩はあのまま放置でいいのか?あれが多分、噂の盗掘者だろ?」

 「今はまだ未遂だもの、特に私達が手出しする必要は無いんじゃない?それこそ兵士さん達のお仕事だし」

 「……まぁこの距離でも気付かれるようじゃ、実際動き出したら兵士達もすぐに気づくだろう。放っておいていいか」


 そう判断してカイセ達は道を進む。

 兵士を無視して静かに進んだ先に、目的の場所が姿を現す。


 「……で、目的のダンジョン入り口に辿り着いた訳だけど、もうこのまま入っていいのか?」


 辿り着いたダンジョンの入り口。

 洞窟の穴を、遺跡のような石造りのブロックで整えたような姿。

 その左右には警備兵が仁王立ちしているのだが、当然入り口の真ん前に居るカイセとシロには気付かない。

 

 「その姿なら問題無いけど……でも本当に良いの?そもそもこのお仕事引き受けちゃって」


 シロが問うのは今更な事柄。

 女神からカイセに与えられた依頼の受領。

 このダンジョンの攻略、最深部での行動。

 断る選択肢があったものをカイセは引き受け、そして今ここに立つ。


 「今更だなぁ……あれって何日前の事だと思ってるのさ?」

 「時間が経ったからあえて確認してるの。冷静になって後悔しているかもしれないし、何よりここが最期の機会だもの。進んだらもうやり抜くしかない」

 「それもちゃんと理解してるよ。引き受けた以上は最後までやり抜く所存です。少なくとも表面上では諸々のリスクも承知済み……それより時間がもったいないから行くぞ?早くこれ解きたいし」

 「……まさか、もしかして報酬の〔何でも〕で女神様に何かふしだらな事を――」

 「そんじゃ先行くわ~」

 「あぁ待って!?冗談だから置いて行かないでよ、もう!」


 下らない妄想を口にしようとしたシロを放置して、本当に先に踏み込んだカイセ。

 この時ちょっとだけ足元に仕掛け(・・・)をしておいたのだが、置いて行かれて慌てるシロは気付かずそのままカイセの後を追う。

 ダンジョンへの入場。

 何やら気の抜ける始まりとなったが――その境界を超えた先、待っていたのは全くの別世界のような空間であった。



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