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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第五章:めちゃくちゃダンジョン攻略(?)記
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ダンジョンプログラム



 それは、カイセが龍の里を訪れるちょっと前の出来事だった。


 女神のもとに荷物が届いた。

 天界にも運送を担う部署が存在し、そこに所属する天使がその荷物を運んできた。


 「……ダンジョン開発部からか」


 それは〔ダンジョン開発部〕という、文字通りダンジョン絡みの仕事を担う部署からの荷物であった。

 〔魔力世界〕つまりは魔力を軸にして構成される世界において、ダンジョンという浄化システム(・・・・・・)が担う役割は重要なものになる。 

 ゆえに各世界の管理を任される神が仕事の片手間に緻密な設計にも手を出すのではなく、専門の部署が全世界のダンジョン全ての構築と提供を任せられているのだ。


 「もうそんな時期でしたね」


 荷物を開くとそこには、天界において記録媒体となるクリスタルが収められていた。

 女神は自分の管理世界がまもなく新たなダンジョンの実装時期を迎える事を思い出し、これがその為のプログラムである事をすぐに把握したのだった。


 「まだ〔儀式〕の準備も終わってないのに」


 だがちょうどこの頃の女神は、まもなく誕生する新たな星龍の為の儀式準備のアレコレに忙しい時期であった。

 とは言えダンジョンも大事な仕事。

 どれだけ面倒で忙しくとも後回しにする訳にもいかない。


 「……まぁ基本は自動なのでマシではありますかね?まずはクリスタルをセットして……《情報開示(プロパティ)》」


 女神の眼前のモニターに、クリスタルに記録された情報の概略(・・)が表示される。

 内容は予想通り〔ダンジョンプログラム〕であった。

 

 「作成者は……聞かない名ですね?…なるほど、これが責任者としての初仕事ですか」


 そのプログラムの作成者として記された名に女神は覚えが無かった。

 だがそれ自体は珍しくも無い。

 この天界には有名無名を問わなければ多くの神が存在する。

 となれば無名の神が、下積みを終えやっとメインプログラマーとしての地位を獲得したような神がこうして担当になることだってあるだろう。

 正直言ってしまえばポカ女神のように、下積み無しにいきなり管理神の地位を与えられる神の方が異例なのだ。


 「ちょっと容量が大きめですが許容範囲内。それにちゃんと審査も通ってますし問題ないですね。――誰かさんにいつもポカポカ言われるのも癪ですからちゃんとチェックはしておかないと……というかあの人は私を何だと思ってるんですかね?私だってちゃんと学ぶんですよ?」


 途中から愚痴になっていたが、カイセに〔ぽか女神〕と呼ばれていた女神も、流石に何度も同じ愚は侵さない。

 きちんとマニュアル通り(・・・・・・・)に漏らさず確認項目をチェックし、そして問題が無い事を把握してから自らの世界に〔ダンジョンプログラム〕をインストールする。


 「それじゃあインストール開始っと……」


 後はとにかく完了を待ち、その後に調整を行うのみ。

 その調整が結構大変なのだが、今回のプログラムは容量そのものが大きい分、調整の開始にまでまだ時間が空いている。

 儀式のあれこれで絶賛忙しい女神には、このインストール待ちの時間が長くなる分には多少はあり難かったりもした。


 「さて、これでしばらくは待つだけ。今の内にこっちを済ませないと」


 ……この時に潜んでいた大問題(・・)に気付けていたなら、後の面倒には繋がらなかっただろう。

 だが今回に関していえば、女神に非があるとは言えない。

 何故なら今回は(・・・)きちんとマニュアル通り(・・・・・・・)に確認事項をチェックし、その上で問題が無い事を確認していたからだ。


 ――そして女神がその問題に気付いた切っ掛けは、カイセが龍の里土産を持ってきてくれた際に舞い込んだ〔ダンジョン開発部〕からの報せによるもの。

 既にダンジョンはインストール済みで稼働済み。

 これから実働データをもとにした最終調整を行う直前。

 その時には既に、動きの早い王国が派遣した〔ダンジョン調査隊〕が、正に調査を開始した後であった。



 「……え?今なんと?」

 「お渡ししたダンジョンプログラムに問題があったとお知らせしました。詳しくはこの中に」


 直々にやってきたダンジョン開発部の責任者の地位に居る神。

 担当者の上司が直々に顔を出してくる。

 それだけで相応の問題が起きている事は分かる。

 彼が渡して来た媒体には、事の次第の報告書が収められていた。

 

 「……これは事実なんですか?」

 「はい。こちらに残った履歴やバックアップも全て確認しました。つきましては管理神(貴方)にもすぐに確認を――」


 女神は慌てて端末を操作し、ダンジョンデータを一から十までフルチェックしていく。

 するとマニュアルに記されるチェック項目には引っ掛からなかった部分で次々とエラーが検出され、結果としてフルチェック項目の全体の三分の一が真っ赤に染まっていた。

 簡易チェックの表面だけ綺麗に問題無し。

 若干の悪意も感じるが、そんな事よりも大事なことに気付く。


 「そうだ!現地は……あぁ、もう入ってる!?」


 その時既に現世のダンジョンには、王国が派遣した調査隊が侵入していた。

 完全新品未使用のダンジョンであればまだ即時撤去の手段が無い訳ではなかった。

 だが一度人の手が及んだダンジョンは正式に世界に根付いてしまう為に、撤去や閉鎖などの対応には回りくどい大仰な手段を用いなければならなくなる。


 「あぁもうなんでこんなことに!?」

 「報告書にも記載しましたが、全ては担当した新人のミスによるものです」


 淡々と部下のミスを語る上司に若干イラッとした女神であったが、今は責任追及の時では無い。


 ――新人のプログラマーが組み上げたダンジョンプログラムは、未熟さはあれどしっかりと基準は満たし、上司から見ても何の問題も無い良い出来栄えだったそうだ。

 そのプログラム自体に問題は無い。

 ただし、事の問題はその後に起きた。

 チェックも通った完成データを記録媒体に移す際に、新人の手順ミスとデータの管理不手際により〔別のダンジョンデータ〕が混在してしまったそうだ。

 しかし誰もその事に気付かず、そのまま二つのデータが混在した記録媒体は女神のもとに運ばれ、何も知らない女神は媒体内のデータを一つのデータ(・・・・・・)としてフルインストール(・・・・・・・・)してしまった。

 結果、完成していたダンジョンデータに別のデータが加算や上書き(・・・)され、本来の仕様とは大きく異なるダンジョンが展開された。

 それが今の大問題。

 後に話を聞いたカイセが『そうはならんやろ』とツッコミを入れているが、なってしまったのだから仕方がない。


 「こちらが〔融合データ〕の調査の結果の報告書になります。展開されてしまった〔不正規ダンジョン〕のシミュレーションデータも付随していますのでご確認ください」

 「……ダンジョンとしての致命的欠損には繋がっていないようですね。基本機能はオールグリーン。それにダンジョン攻略が物理的に行き詰るような改変も起きてない。ですが……何ですかこれ?ドロップに聖剣!?水棲モンスターが陸地に出現?それにこの脅威度のチグハグさ……レベル1からレベル10まで幅広く、それもランダム要素が強いとか運ゲーの地獄ダンジョンじゃないですか!?」


 開発システム上で設定の指標となるモンスターの脅威レベル。

 下がレベル1で最高はレベル10。

 セオリーで踏むのなら、奥に進めば進むほど強くなる設定にすべきだろう。

 だが今の狂ったダンジョンでは、「レベル1の直後にレベル10が出て来た」なんてことがどの階層でも確率的には起こり得る酷い仕様になっていた。

 そんな脅威度のチグハグさ以外にも、本来のデータでは出現するはずのないアイテムやモンスターのデータの混在、正規ルートの改変など多くの変化も確認される。

 幸いなのはダンジョンの根幹施設や、保護システムなどの大事は正常稼働している点だろう。

 

 「とは言え、このまま放置してバランスを崩した要素が健全部位にも影響を及ぼさない保証もありませんよね?〔修正パッチ〕は?」

 「開発部総動員で作成中です。本日中には完全な物が完成すると思います」



 ――そして完成した〔修正パッチ〕をきちんとフルチェックした後に適用する女神。

 だがしかし……


 「……データそのものに問題は無かった。ですが反映されない?」


 その作業も最終段階で躓く。

 どうやらダンジョンの基部システムにも知らぬ間に異常が出ていたようで、適用した修正内容がダンジョンへと反映出来ずにいた。

 その原因と解決法を探ったところ、女神はその手段に行き着いた。


 「……天界(ここ)からの操作が出来ない?そうなればもう現地で直接――」

 

 そこで女神の脳裏に過ったのは、一人の人間の男の存在。

 言うまでも無くカイセの事である。


 「……駄目。ここでカイセさんに迷惑をかけ続ける訳にもいかない。それに『またポカか?』って言われるのも癪に来る。今回私は悪くないのに!」


 実際、今回の女神にポカは無い。

 ダンジョンデータの受領も、インストールも、全てマニュアル通りにこなした。

 この問題の責任はデータの混在を見逃した担当の別の女神(・・・・)と、その管理責任者である上司にある。

 これは断じてカイセの言ういつもの〔めがポカ〕ではない。


 「……あれ?でもお相手も女神であるなら、これも一応〔めがポカ〕になるのかな?……って、そんな事を考えてる場合じゃなかった!!」


 すぐさま手を動かす女神。

 カイセに頼らず解決する方法。

 遠隔での解決方法。

 最悪でもカイセ以外の、勇者や聖女を頼る方法。

 とにかくあれこれ模索を続け……そして現在のその決断に至る。





 「――カイセさんにお願いがあります。その新しいダンジョンの最深部の奥へ……ダンジョンを攻略してきて貰えないでしょうか?その、色々と模索したのですが、一番安全で可能性が高いのが、やっぱりカイセさんにお願いする案でして……お願いしますカイセさん!」


 見事な土下座を披露する女神。

 カイセには割りと見慣れた光景だが、同行していた天使シロは素直にドン引きしている。

 そしてカイセ自身も、これまでで一番胴の入った力強い土下座に気圧される。


 「ダンジョン攻略……その最深部、〔ダンジョンコア〕に直接アクセスして〔修正パッチ〕を展開して来てください!お礼はなんでも(・・・・)します!だから……どうかお願いします!」


 

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