ダンジョン調査隊
ここから新章です。
章のタイトルは仮で付けたものですので、この章の完結までに変更する可能性があります。
「――リグ隊、第五階層へ先行します」
目の前の階段を降りて先行する部隊を、指揮官である男は静かに見送る。
「……次は私達だな。ラバ隊は後ろから続け」
「了解です」
彼らは王都から派遣された〔王国騎士団〕の騎士達。
四人一組の小隊三つ分、計十二名に選抜された〔ダンジョン調査隊〕であった。
彼らが挑む〔新しいダンジョン〕は最近発見された最新のダンジョン。
当然ながらダンジョンとしての固有の情報は手元に何も無く、この調査隊の仕事はそんな未知のダンジョンに足を踏み入れ進攻し、その情報を収集する事であった。
目標は第十階層。
そして彼らは第五階層に到達した。
「ここが第五階層ですか。見た目に大きな特徴は見えませんが……」
「ここまでを考えれば見た目など当てにはならんさ。第二階層でいきなり中層クラスの【ワイルドウルフ】と【オーク】が同時に出た時は随分と高難度なダンジョンだと思ったが……三階層ではただの【スライム】一種のみ、四階層では陸に上がった小型水棲モンスターだぞ?とっくに傾向やパターンは読めやしない。ここでいきなり【ワイバーン】が出て来ても俺は驚かんよ」
この部隊の副隊長と隊長は考えるだけ無駄なのではと思案する。
ダンジョン攻略における基本認識は、『進めば進むほどモンスターが強くなる』だ。
もちろんそれが全ての階層に当てはまる訳でもないのだが、大筋ではそれが現実。
ゆえに調査隊がワイルドウルフやオークを仕留めた後に揃って考えたのは、『次の相手はこれ同等か以上のモンスター』という認識であった。
そして『もしかしたらこのダンジョンは、過去最高難易度のダンジョンなのでは?』とも。
だが現実は肩透かし。
最大の警戒で挑んだ第三階層に待ち構えていたのは最弱の部類の【ノーマルスライム】。
最弱とは言えモンスターである以上は騎士として慢心する事は無かったが、誰もが少し安堵したのは事実だ。
その上で気を引き締め直し挑んだ第四階層。
ここではそもそも戦いすら起きずに、陸地で何も出来ずにぴちぴち跳ねるだけの些か可哀想な水棲モンスターにトドメを刺すだけの単純作業の場であった。
「ここは今までのダンジョンとは違う。むしろ常識に囚われ過ぎればそれが足元を掬うかも知れない。全員、何が出て来てもおかしくないと……魔境の森でも彷徨うような心積もりで警戒に当たってくれ」
何が起こるか分からない未知の未開拓領域。
騎士団の調査隊の面々は、再び歩みを進めたのであった。
……そして、彼らはソレを手にした。
「隊長!……この剣は!?」
「……全く。このダンジョンは本当に訳が分からないな」
彼らが驚いたのは、回収された〔ドロップアイテム〕にあった。
一般的なダンジョン攻略における一番の稼ぎ処。
〔ドロップアイテム〕とは、〔モンスターを倒した時に確率で出現するご褒美アイテム〕であり〔各階層に出現確率・配置場所ランダムで出現する宝箱の中から得られる開封アイテム〕であり〔最深部ボス部屋の先〔宝物庫〕から出現する攻略報酬アイテム〕をまとめて総称する言葉である。
騎士団の現在位置は第七階層。
そこに辿り着くまでに彼らは、討伐ドロップで三回、宝箱で二回分のアイテムを得ている。
そして今回の討伐ドロップで計六個目のアイテムゲットとなるのだが……その六個目は今までの中でも群を抜いたアイテムであった。
【水の聖剣 無名】
〔全ステータス+25〕
〔水魔法レベル+1〕
〔水中時活動時全ステータス+25〕
鑑定要員に明かされた手元の剣の詳細。
それは紛いなりにも"聖剣"の名を冠し剣としても相応の出来栄え、そしてステータス上昇の特殊効果まで付いている。
「これは普通なら宝物庫の攻略報酬クラスの代物じゃないのか?」
「そうですね……国一番の鍛冶師が最高の素材で最大の力を出しきった〔魔剣〕だとしても、精々が特殊効果は二項目が良い所でしょう。にも関わらずこの剣は三項目で、しかも剣自体の質も最高クラス。人の手では生み出せない代物……これはすでに国宝級の、勇者様の聖剣に次ぐ一品ですよ!」
実際、本物の勇者の聖剣と比較すると、それこそ特殊効果には雲泥の差があるのだが、それでもこの剣が人の世では常識外れの一品である事には変わりない。
隊長の言葉の通り、それこそ攻略報酬として最深部ボス部屋を越えた先にある〔宝物庫〕で手に入る最高報酬であるべき代物。
にも関わらずこの剣は、まだ上層である第七階層でドロップしてしまった。
「……このダンジョン、一般開放して大丈夫なんでしょうか?」
「それを判断するのはお偉いさん達だ。俺らはその検討材料ともなる情報を集めながら進むだけだ」
その翌日の昼過ぎ、彼ら調査隊は無事に今回の調査における到達点である第十階層に辿り着いた。
一泊二日の道中、負傷者はあれど死者は一人も無く、無事全員で十階層の〔帰還地点〕から地上に帰還、得られた情報と報酬を王城へと持ち帰る事が出来たのだった。
――そしてその数日後、たまたま王都を訪れていた一人の男は王様直々に呼び出され、王城へとやって来ていた。
「よく来てくれたカイセ殿。忙しなくて申し訳ないが、早速本題に入らせて貰おう」
誤字報告ありがとうございます。
頂いた指摘は確認次第適用させて頂いております。
毎度投稿前に確認してるはずなんですが、流石に主要キャラの名前を間違えてた時は頭抱えました……
今後とも気付いた箇所があればご指摘・ご協力を頂ければとても助かります。
7/6
水の聖剣に関する設定を一部変更しました。