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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第四章:世界の果ての七星龍
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別れの日



 旅館の前に送迎に携わる龍が群れを成し待機している。

 彼らはこれから帰路に付く客人を、安全無事に送り届ける使命を与えられた龍達だ。

 

 「――ところで、勇者たちは本当にあのままで良いのか?」


 今日、カイセら魔境の森組と、そしてジャンヌら聖女組は帰路に付く。

 だが勇者組はもう数日程この里に残る。

 当初の予定を多めに確保していたようで、せっかくなので龍人達の修行場を期間目いっぱいまで堪能していくようだ。


 「構わぬさ。他の宿の、他の種族の者もまだ帰らぬ組はおる。元より迷惑を掛けたのはこちらの方なのだから、我らはその時まで客人をもてなすのみだ」


 結局最後まで会う事の無かった他種族の客人達。

 種族毎に宿が異なる理由を推測して見れば、会わないに越した事はないのだろうが、それでも異世界の他種族には少し興味はある。

 興味はあるだけで首を突っ込むつもりもないが。


 「まぁ問題ないならいいんだけど」

 「何のお話でしょうか?」


 そんな話も区切りが付いたところで、準備を終えたらしいジャンヌが声を掛けてくる。

 

 「ただの世間話だな。ところで……その箱ってあれだよな?」


 ジャンヌは見覚えのある箱を持っていた。

 そしてそのまま光龍に差し出す。


 「光龍様。こちらを水龍様にお渡し頂けませんでしょうか?」


 見覚えのあるそれは、カイセが調達した〔ドリアンに似たフルーツ〕の納められた箱であった。


 「元々は招待頂いた水龍様への手土産として用意した物ですが、要望リスト(あの手紙)の事で機会を逸してしまいました。なので改めて、療養中(・・・)の水龍様への〔見舞いの品〕としてお渡し頂けないでしょうか?」

 「あ、そういう事なら俺も……こっちは火龍の見舞いとして渡してくれ」


 光龍は水龍が事前に用意していた〔手土産の要望リスト〕を咎めた。

 その為に渡す機会を失った代物であったが、元々水龍に渡すために用意した物だ。

 なのでいっそ先の負傷で療養中の水龍へのお見舞いとしてしまうというジャンヌの判断。

 カイセもそれに便乗し、水龍同様に療養中の火龍への見舞いとして差し出した。


 「……分かった。我が責任を持って預かろう」

 

 両方を受け取り納める光龍。

 ジャンヌとしてはこれで律儀な心残りが解消した事だろう。


 「だが…さてどんな反応をするのやらな」

 「カイセー!」


 そんな中、挨拶を終えたジャバがカイセのもとに合流する。

 一緒に居たはずの人物の姿はない。

 

 「お、ジャバも来たか……風龍はどうした?」

 「ウインディは来ないって、みんなに『お世話になりました』って伝えてって言われた!」 


 すぐにカイセと光龍は察する。

 ジャバと二人きりでお別れの話をしていた風龍。

 そこで何を話したかは二人にしか分からないが、少なくとも今の風龍は人前には出られない状況なのだろう。


 「気にせずとも良い。それに縁があるのならまた会う機会もあるだろう。買い物(・・・)の時にでも子龍も連れてくればいい」

 「まぁいつになるかは分からないけどな」


 指摘されたのはカイセの《アイテムボックス》に納められた、先程物々交換にて手に入れた大量のお土産。

 魔境の森由来の素材などを中心に手放しても構わない物をほぼ全て動員して得たこの里の特産品。

 醤油や味噌などの調味料、着物などの和服に布団一式。

 日本を思い起こさせる和風文化の品々を、手持ちで手に入れられるだけ手に入れていた。

 その中でも消耗品の補充は、この里を再度訪れる理由として充分であった。


 「〔龍紋〕は里への入場券以外にも我との連絡(・・)にも使える。招待客では無い故に迎えは寄越せぬが、来る分には好きにすると良い」

 

 そんな言葉を交わしていると、自然と時間も経ち、予定していた出発の時間は訪れた。



 

 「――聖女殿らにも大変世話になった。其方らも困ったことがあれば使いを…いや、急ぎの時にはカイセにでも言伝を頼むと良い」

 「ありがとうございます、もしもの時には是非に。……この里での出来事は確かに苦難もありましたが、それでもとても有意義な日々となりました。お世話になりました、光龍様」

 「そう言って貰えるとこちらも助かる。――では達者でな」

 「はい。光龍様もお元気で。――それではお先に失礼します。またその内に会いましょう」


 最後にカイセに一言残し、ジャンヌとリズは龍の一団が運ぶ籠に乗り込む。

 去り際に一瞬リズがカイセを一睨みして行ったような気がするが、カイセは気付かない振りをする。

 そして聖女組は、一足先にこの宿を、龍の里を去って行った。

 カイセ達はそれを見送る。


 「……それで、俺らもアレと同じ方法で帰るんだな?」 

 「済まぬな。本来であれば招いた際に乗せた者が帰りも責任を負うべきなのだが、我は今この里を離れる訳には行かんのでな」


 元々カイセ達は光龍の背に乗ってこの里にやって来たが、先の一件の事後処理など多くの仕事が在る為に、長である光龍は今は里を離れられない。

 その代わりに、カイセ達の帰路はジャンヌ達同様に三~四体程の龍が運ぶ特別な籠に乗って帰る事になる。

 籠と言っても、中身を確認したところホテルの一室を丸々運んでいるような内装だったので、もしかしたら快適さは光龍の背よりも上かもしれない。

 ただしその分速度は遅いので、魔境の森に帰るまで丸一日近く掛かるようだが。


 「それだけの距離を三時間で飛べる光龍はなんなのさ?」

 「我一人であれば一時間でいけるぞ?あれでも安全飛行を心がけていたからの」


 光龍はやはり常識の外の存在のようだ。

 カイセも人の事は言えないのだが、光龍はポカも無く天然モノだ。 


 「さて、俺らもそろそろ行くかな」

 「そうか…ではまたな(・・・)。カイセ、ジャバ」


 〔龍紋〕の繋がりのある二人は、比較的あっさりとした挨拶で別れる。

 他の人々と異なり、それこそ会おうと思えば最速一時間で会う事も出来る。


 「ああ、そんじゃまた」

 「またねー」


 そしてカイセ達を乗せた籠も旅立った。

 龍の里を離れ、久しぶりに人類領域へと戻っていった。

  

 

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