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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第四章:世界の果ての七星龍
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まっくろ子龍



 龍の種族は本来、〔赤龍〕や〔緑龍〕などの色によって分けられる。

 星龍達は特殊な力と地位を継いだ事で〔各属性の頂点の龍〕として種族そのものが進化するに至っているが、彼らも任命される前はいずれかの色の種族であっただろう。

 そして子龍ジャバは、種族的には〔黒龍〕である。

 出自が不明な為、元から黒龍であったのかどうかまでは分からないが、何にせよ〔黒龍〕と言うからにはその身なりは黒に近くなっていたはずなのだ。

 だが実際のジャバの毛色は白寄りの明るい灰色(・・・・・・・・・)である。

 そのジャバがいま――


 「……ん?あれはジャバなのか?」


 早馬にて急ぎ駆け、そして旅館に帰還したカイセ達。

 ゴーレム馬から二人が降りると、停止したゴーレムはそのまま限界を迎え崩れる。

 いつものカイセならその残骸もすぐに片してしまうのだが、今はそれよりもそこで待っていた光景に驚きを隠せない。


 「旅館が…何かあったのでしょうか?」


 ジャバの様子にまだ気づいて居ないジャンヌは旅館に目が行く。

 旅館の一部、大体食堂辺りが崩壊しているのは正直カイセとしては「またか」という状況ではある。

 だがそんな事よりもカイセの視線は見慣れたはずの相手の姿の変化に向かう。


 「カイセー!おかえりー!」

 「うおっと!?」


 こちらに気付き、飛びついて来たジャバを受け止めるカイセ。

 心なしかいつもより勢いも力強く、疲労の残るカイセにはそれ以上に重く感じた。


 「えっと…ジャバ?どうしたんだ、この()は」

 「分かんないけど、なんかなった!」


 目に見えるジャバの変化。

 何故だかジャバの色が黒く(・・)なっているのだった。

 日焼けをしたような色では無く、正にこれぞ黒龍と言うべき黒さに染まっていた。


 「聖女様!お帰りなさいませ」

 

 困惑するカイセとジャンヌのもとへ、聖女の付き人リズが合流する。


 「リズ。一体何があったのですか?旅館と…この子の姿も」

 「それが…何と言いますか……私にもどう説明するのが良いのか分からず……」


 どうやら当事者らしいリズも、その説明に苦慮している。

 一応語れないわけではにようなのだが、知らない事情・理由の分からない事も多くどう語るべきか悩んでいるようだ。


 「……そうだ、こっちに来てるはずなんだけど、光龍はどうした?」

 「我を呼んだか?」


 カイセの言葉に返事をしたのは、何処か疲れた様子ではあるが、噂の光龍本人であった。

 旅館のほうから現れて、後ろ手で何か(・・)を引きずっている。


 「……疲れてる?まぁ色々あったから当然だとは思うけど」

 「気にせずともよい。それよりも自力で戻って来たのか?随分と早かったが」

 「まぁ代償が微妙に悲しいけど……」


 即席劣化馬ゴーレムに転用しガラクタ化した素材の試算が頭を過るカイセだが、これも必要な経費と気持ちを切り替える。


 「それよりも、それ何?」

 「あぁこれか。コイツが【雷龍】だ」


 今回の邪龍騒動の核心。

 【雷龍サンディア】の人化体だと言うその老人は、何かで簀巻きにされた状態で地面に転がった状態で引きずられていたのだった。

 正体を知らずに見れば何とも外聞の悪い状況だ。


 「生きてはいますが意識は無し…これは光龍様が?」

 「いや、拘束は確かに我だが、我が来た時には既に意識を失くして転がっておったわ。これをやったのは――」

 「ジャバだよ」


 自ら名乗り出る身内の犯人。

 そろそろ情報をきちんと整理する必要がありそうだ。


 「その辺りの事情は我が話そう。苦労はしたが、こやつの事情も全て把握したからの」


 七星龍の長である光龍には星龍の《任命権限》に紐づいた、他の星龍が持たないいくつかの特別権限があるらしい。

 その中には、大きな権限を持つ星龍を正しく裁定を下すために〔記憶を読み取る〕力も含まれると言う。

 便利な力ではあるが万能とまでは言えず、面倒な使用条件に加えて記憶を読み取る事に対する負荷も存在する。

 光龍の今の疲労度合いは、邪龍モドキとの対峙に加え、記憶の掘削が祟ったもののようだ。


 「とは言え、話そのものはなんとも間抜けではあるのだがな」


 光龍によって語られた事情。

 まず雷龍は、先の火龍水龍のようにジャバを被験体として扱う為にこの旅館にやって来た。

 ジャバが元邪龍である事を知る雷龍にとってジャバは、確かに絶好の実験材料であっただろう。

 そして目論み通りに〔邪龍の肉片〕を加工した〔飴〕を捕食させるのにも成功した。

 というよりも、飴を見せたら勝手にジャバが食いついたようだ。

 もう少し食べ物にも警戒して欲しいものだ。


 「そうして子龍は目論見通りに欠片を取り込んだ。その毛色もゆえの変化だったのだが……」


 その後に雷龍の誤算が起こる。

 簡単に言ってしまうと、ジャバが想定以上の成果をしめした。

 飴として取り込んだ邪龍の力に完全適応してしまったのだ。

 ドラゴンゾンビのような肉体的な異変、火龍水龍のような精神侵食・暴走。

 これらのデメリットを一切起こさない。


 「それを理解した瞬間に、雷龍にとってその子龍の重要性は頂点付近にまで上がった。火龍水龍のように使い捨て(・・・・)で観察するのではなく、持ち帰って精密な研究が必要だと判断した。したのだが……」


 その後の結末は至極単純。

 抗うジャバに雷龍が返り討ちにされたのだ。

 旅館の損傷はその際の一撃の余波であるらしい。


 「これも星龍とは言え既に力は老いきっておったからな。その辺の龍ならまだしも強化された子龍に一発でノされおったようだ」


 欠片の力を取り込み強くなったジャバに一撃ノックダウン。

 黒幕の終わりとしては全く締まらない結末。

 対してジャバは知らずに大金星となった。


 「ちなみに、コイツはなんでこんなことを?」

 「簡単に言ってしまうと、〔邪龍の力に魅入られた〕と言ったところだろうか?こやつは本物の邪龍と間近で対峙しておるからな」


 純粋なステータス差を覆しうる理外の力。

 それに憧れ、魅入られ、自身の力とする為の行動。

 封印処理のされていた邪龍の欠片を一部持ち出し、人知れず研究を重ねていたようだ。


 「……それでこれって、すっごい迷惑だな」

 「弁明のしようもない。そして我にも責任の一端がある。子龍の事をこやつに語り、それが結果として焚き付けるような事になってしまったからの」


 元邪龍の存在が里に来た。

 邪龍研究としては願っても無い検体だ。

 雷龍はジャバを利用出来るように一部の実験を急ぎ繰り上げ、その結果で事故が起きドラゴンゾンビが里に放たれた。

 そして研究の露見を止められないと確信した雷龍は、更になりふり構わない強硬策を実行した。


 「客人方には本当に迷惑を掛けた。里の長として謝罪をさせて貰う。すまなかった」


 頭を深々と下げる光龍。

 そして光龍の言葉は、その謝罪の後にもまだ続いた。


 「そして、この期に及んで図々しいとは思うのだが、もう一つ其方らに協力して欲しい事があるのだ」

 

 

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