次の狙い
「――火龍、水龍。紛いなりにも七星龍の名を持つ者らがこんな〔お仕置き部屋〕に押し込められるとはの」
「……あまり反省はしておらんようじゃの。だがこれも当然の結果じゃ。其方らが長たる光龍よりも弱い以上、あやつの敷く理に逆らえばこうなるのは必然じゃ」
「何事も強者が理を作る。弱きはそれに従うのみ。光龍の理を不服と申すなら、それに抗い光龍を倒せるだけの力をお主らが手にし振るえばよい。光龍を倒せば、あやつの敷く理に従う義理など無くなるであろう」
「そんなの無理じゃと?……仕方ないのう、では我が少しばかり手を貸してやろう」
「この〔飴〕を飲みこむと良い。味は保証せぬが、お主らなら今よりも大きな力を手にする事が出来るであろう」
「……ふむ、成功じゃの。だがその力には時間制限がある。ゆえに急ぐと良い。あの光龍に一泡吹かせて見せよ。
「礼は要らぬ。これはただの、若者の未来を憂う老いぼれのお節介じゃ。それよりもほれ、とっとと行かねば時間切れとなるぞ?」
(――アレが〔雷龍〕。そしてあの飴は〔邪龍の欠片〕絡みの加工品ってとこかかな)
目覚めてカイセは〔夢の記憶〕を振り返る。
役目を終えたカイセは直後、魔力枯渇の影響で強制睡眠に陥った。
今の見知らぬやり取りの記憶は、その間に見た夢。
実際には夢と言うよりも、聖女ジャンヌ同様に《浄化》の影響による付加効果。
火龍水龍の邪龍化の起こり、そしてそれを促した存在。
アレが現実に起きた出来事であれば、先のジャンヌの話の通り雷龍こそが騒ぎの元凶で間違いないのだろう。
「――おはようございます。カイセ様」
そうして夢の考察を終えたカイセの意識は真に現実へと帰還する。
目覚めたカイセの視界に見える二つの山。
そしてその山越しにジャンヌの顔が現れた事で、その山の正体にも気が付く。
「……別に地面に寝かせたままでも良かったんじゃないのか?」
カイセは現在進行形で聖女ジャンヌに膝枕された状態であった。
「もしや照れてますか?」
「……そういう訳じゃない。よいしょっと」
「もう立ち上がって大丈夫なのですか?」
「まぁ万全ではないけど、身動き取れる程には回復したから大丈夫なんじゃないか?」
自分の事であるのに疑問形で答えるカイセ。
立ち上がり、そして軽くストレッチをする。
「本来〔魔力枯渇〕の状態にまで陥ると、魔力の回復力そのものが低下する上に、総量に対する割合で一定以上にまで魔力が回復しなければ動く事すら危ういはずなのです。要するに魔力総量が多いほど枯渇状態を抜け出すのに時間が掛かるはずなのですが……」
「まあ絶賛気怠いのは事実だよ。魔力枯渇とか始めただからなお慣れないし」
と言いながら、ストレッチする体の動きが徐々に精細さを取り戻していく辺りにジャンヌはまた呆れざるえなかった。
「ほら、そっちもあんまり無理するな」
立ち上がろうとしていたジャンヌに右手を差し出し、捕まれた手で引き上げ立ち上がりを補助するカイセ。
色々言っては言るが、ジャンヌ自身もあれだけの《結界》を展開していたのだから、疲労が残っていないわけがないのだ。
「……ありがとうございます」
ゆっくりと立ち上がり、そして衣服に付いた砂埃を祓うジャンヌ。
そして一呼吸入れたのち、本題の報告を始めた。
「さてカイセ様。そろそろ本題に入りましょう」
「そうだな。それで、あの二龍は?」
心配するのは邪龍もどきと化していた二体の安否。
直後の報告で生きてはいたようだが、今の状況までは分からない。
「お二方とも、土龍様の手で里の医療施設へと運ばれて行きました。その為その後の事は分かりませんが、光龍様曰く『命の心配はいらない。完全復活までには時間が掛かりそうだが、リハビリすればなんとかなる程度』だそうです」
「そうか、なら良かった……」
安堵するカイセ。
どうやらしっかりとやりきったようだ。
「……と、そうだ!アイツらの記憶!!雷龍の――」
「大丈夫です。光龍様は既にその記憶を、私たちよりも正確に手にしています。七星龍の長としての権限を行使したようです」
「なら良いけど……それで、光龍はどこに?」
「私達の旅館へ。どうやら雷龍様は其方へと向かったようです」
騒動の黒幕であろう雷龍は旅館へと向かった。
その後を追い、動けぬ二人を置いて光龍も旅館へと向かった。
「旅館……もしかして」
旅館に置いて来た子龍ジャバ。
雷龍が邪龍絡みで旅館を訪れているなら、狙いがそこにあってもおかしくはないだろう。
「……旅館に戻ろう」
「戻るにしても、結構な距離がありますよ?」
元々土龍の高速飛行にてこの場に来たカイセ達。
だが現状ここにその星龍はおらず、迎えを待たずに旅館に戻るならば自力で長距離を移動しなければならない。
とは言えこの里では《転移》は使えず、その他の移動方法も消耗している二人には難しい。
「……あれ使ってみるか」
カイセは周囲を見渡し、地面に刺さったままの神剣を見つけ手にする。
「(生きてるか?)」
『勿論です、マスター。ご用はなんでしょうか?』
「(お前の記録してる設計図の中に、確か〔馬型〕があったよな?アレを頼む。急ぎで)」
神剣に残された記録の中にはゴーレムの設計図も存在する。
呼び出すのはその中の一つ、最もシンプルな部類の移動手段である。
例の初代勇者のバイクでもあれば一番楽なのだが、そんな記録が残っていればまず真っ先に目に付いていただろう。
そもそも目立ちすぎるのもあるが。
『……手持ちの素材では足りません』
「(何が足りない?最悪、《アイテムボックス》内の作成済みのゴーレムもバラして使っていい。それでも足りない?)」
『……それでしたらギリギリ、ですが製作時間を短縮するのもあり、使い捨て同然の強度になります』
「(旅館までは保つ?)」
『それは保証いたします』
「(ならやって)」
『了解マスター』
そして二人の前には、神剣が組み上げた《馬型のゴーレム》が出現する。
「これは……」
「ゴーレム。即席だから強度に難はあるけど旅館までの旅路と速度は保証できるはず…ジャンヌはどうする?」
「私も乗ります」
そして馬の二人乗りによって、カイセとジャンヌは旅館へと駆け出して行ったのだった。