その頃の旅館
「――もぐもぐもぐ…おかわり!」
昼食もいつものように食べ続けるジャバ。
騒ぎの後ということもあってかその量はいつもより些か多い気もするが、その〔いつも〕を知る者がこの場には居ない為、特にそこを気にする者は居ない。
だが量が量だけに、人間であるリズは感心せざるえない。
「本当に、よく食べるなぁ……」
聖女の付き人である【リズ】。
だが今回も置いていかれた。
付くべき相手、守るべき聖女は素性の知れない男と共に、七星龍が一体である土龍と共に何処かへと向かってしまった。
そして残されたリズは、何故かこうして子供龍の世話をする羽目になっていた。
(私がお世話をすべきは聖女様何だけどなぁ……聖女様の指示でもあるから無碍には出来ないけど……私、ここに何しに来てるんだろう?)
付き人としての役目。
この〔龍の里〕で行われる儀式・式典への参加を目的とした聖女ジャンヌの身の回りの世話、そして護衛としての役割。
世話役としてはともかく、護衛としてはリズはここに来てからはまともに役目を果たせていないような状況だろう。
(聖女様や星龍様が相手だから仕方ないんだけど、あの人に関してはどう報告書に書けばいいんだろうか……)
以前にも馬車に招き入れた事から、聖女ジャンヌとはそれ以前からの知り合いだったと思われる、目の前の子龍を連れたカイセと言う男の存在。
だが事前に記憶した聖女の交友関係諸々の情報には記されていなかった人物。
一度目は事故、二度目は密談の為とは言え聖女と混浴染みた事を行った男。
聖女や勇者と言う偉大な存在が招かれたこの場に置いて、七星龍の長である光龍自らが招き入れた詳細不明の――
考えれば考える程に疑問しか浮かばない。
「どうしたの?」
そうして額に皺を作っていたリズに、ジャバが声を掛けて来た。
「……なんでもないですよ。ちょっとお仕事の事で考え事をしていただけです」
「お仕事?大変?」
「そうですね。少なくとも簡単ではありませんね。自ら望んだものではありますが、責任と苦労は多いですから」
「そうなんだー。それならジャバをモフる?」
「モフ…?」
よく分からない言葉にリズは首を傾げる。
するとジャバは食事の手を止め、テーブルを飛び越えて強引にリズの膝上に乗り込んだ。
そして胸に背中を預ける。
「アリシアがねー、ジャバをモフると癒されるって言ってた!だからジャバをモフってみる?」
「アリシアさん…あぁ、あの方ですか。モフる……こんな感じでしょうか?」
折角なのでジャバをモフる、もといその体を撫でてみる。
するとふわさらな毛並みが肌に心地よい。
更に風呂上がりなのもあり、微かに良い匂いも流れて来る。
「……確かに悪くないですね」
どうやらリズもその感触を気に入ったらしく、そのまま静かに優しく撫で心地を楽しみ続ける。
「ジャバくん!また遊びに来ました…よ?」
そんなまったりした時間の流れるその場所に、超特急で諸々雑事を片付けて再びこの旅館に舞い戻った風龍ウインディが姿を現した。
だが風龍が目撃したのは、ジャバを抱きかかえる女性の姿であった。
「貴方様は確か……風龍様?」
「……風龍ウインディと申します。それで貴方はどなたでしょうか?」
「私は聖女ジャンヌ様の側付きのリズと申します。このような体勢で申し訳ありません」
「……体勢なんかよりもジャバくんとの距離は気にはなりますが…ジャバくんはまた眠っているのですね」
撫でられ続けたジャバは、いつのまにやら再び眠りに付いていた。
食って、寝て、遊んで、食って、寝る。
何とも自由な行動サイクルだ。
「それに聖女様方は居ないのですね」
「ただいま所用で、土龍様とどちらかへと出向いております。私はその間のこの子のお世話を任されております」
「そうですか。それはご苦労さまです。ですがその体勢も些か疲れるでしょう。ジャバくんのお世話は私が引き継ぎますので、リズさんはどうぞお休みください」
そんな提案をしてくる風龍。
ジャバを起こさぬようにゆっくりそろりと近づき掴もうとする。
だがリズもはいとは言わない。
「風龍様、申し訳ありませんがそれは出来かねます。この子のお世話は聖女様より賜った正式なお役目です。それを放棄し、風龍様のお手を煩わせるわけにはまいりません」
「それでしたら気になさる必要はありません。私とジャバくんは仲良しですから、私がお相手でしたら聖女様方も許してくださることでしょう。いざという時には私の方から口添えもいたします。ですので私にお引き継ぎください」
「……いえ、やはりこのモフ――この子のお世話は私のお役目です。どうかここは私にお任せください」
一瞬何かの欲が垣間見えた気がするが、風龍の提案を跳ね除け続けるリズ。
互いにジャバのお世話の権利を主張する。
片や癒しを、片や想いを。
両者の視線の重なる間には、微かに火花が見えるような見えないような。
何かそんな感じがしなくもない。
「――ほほう。何やら面白そうな状況になっておるのう」
そんな出来れば関わりたくないような乙女の場に、一人の老人が姿を現す。
「……叔父様?何故ここに」
風龍が叔父と呼んだ存在。
【雷龍:サンディア】。
現れたのはその人化体であった。
「ふむ、客人方への挨拶ついでに、ぜひその子龍の顔を拝見しておこうと思っての」




