神剣の使い方
「――さて、この辺りで良いかな?」
光龍の指定した地に降り立ったカイセ。
その視線の先には、光の鎖に囚われながらも足掻くニ龍の姿が、若干遠目ながらも見えている。
「上の準備は……出来たみたいだな」
その場から見上げる空。
視界の中心に滞空する光龍の姿が見える。
そしてそこを中心に複数の《魔法陣》が出現し、ここら周辺一帯を透明ながらも強固な膜が囲い込む。
光龍の背に乗り空に居る聖女ジャンヌ。
彼女の展開した《結界魔法》が、この一帯を包囲した。
その内側には邪龍もどきの二龍とカイセのみ。
これから行う事で周囲に危険が及ばないようにする、万が一の為の保険の結界である。
「里に貼られた結界の内側に、更に別の結界をって言うのは難易度高かったはずなんだけど、そこはやっぱり流石聖女ってところなのか。――さてこっちも始めるか」
結界の展開を確認したカイセは、腰に携えた〔神剣〕に手を掛ける。
「神剣、出番だぞ」
『了解、マスター』
カイセの言葉で久々に実体化した〔神剣:エクスカリバー〕。
そしてカイセは問い掛ける。
「やる前にもう一度聞くけど、本当に可能なんだな?」
『勿論ですマスター。私の存在理由は正に〔強すぎる力を都合よく制御する〕事にあります。これより行うこれこそが私の本業であると言うものです』
自信満々に答える神剣。
そして自身の存在理由を明言する。
『元マスター、初代勇者は本来武具の類など必要としない程の強さを持っていました。にも関わらず神剣である私を携え続けたのは勇者としての象徴の意味も確かにありましたが、真の理由は勇者の持つ〔強すぎる力〕の制限・制御、その為の外部装置として必要としていたのです』
カイセの999も、初代勇者の力も、本来は人の身には過ぎた強大な力。
時にはその力の扱いに苦心する事もある。
そんな時こそ神剣の出番。
行使する力を神剣を通す事で調整して放つことが出来る。
つまり初代勇者は神剣を〔力を強化する剣〕としてではなく、〔力を抑える・制御する剣〕として必要としていたようだ。
『マスターがこれより行使する《古代浄化魔法》を、あの邪龍の命を奪わない威力にまで落とす調整を施す…勿論可能ですマスター。ですがマスターから頂戴する消費魔力が、制御調整の分で些か多めに必要になりますが、本当によろしいでしょうか?』
「死なない程度、後は完遂前に魔力枯渇で倒れない程度になら幾らでも使っていい」
『完遂後に倒れる可能性がありますが?』
「後なら問題ない。それじゃあとっとと始めよう」
鞘から神剣を引き抜き正眼で構える。
そして神剣が動き出す。
『接続。精密制御開始。まずは魔法のイメージを浮かべてください』
「分かった」
『………構築確定。制御式浸透――準備完了、いつでもどうぞ』
「了解。とは言えこれ言うの恥ずかしいけど――《堕ちし者を救いし光…邪悪を滅する聖なる光…その者の魂を解放せよ!》」
古代魔法ゆえに必要な呪文が唱えられる。
そしてそれに合わせ、神剣の刀身が輝き出す。
『最終調整完了。本魔法の行使に必要な最低出力値を七割に抑えての行使が可能になりました。斬撃に合わせ魔法を放出してください』
神剣の指示に従い、剣を上段に構える。
そして一気に振り下ろす。
「――《神聖邪払滅破・斬》!!」
振り下ろした剣からは、視界を埋め付くほどの光が放たれる。
その矛先は邪龍もどき達。
放たれた光の洪水は、一瞬で邪龍もどきを飲みこんだ。
『……報告、本魔法を《邪払斬》の名称で登録しました。今後は音声認証により即時実行が可能になります』
「それ今真っ只中で言う事じゃない!そういうのは全部片付いた後にしてくれ!!それとこんな物騒なのそうホイホイ使う事ないから!!!」
振るった剣からは今なお光が放たれ続けている。
そういう報告は問題が片付いた後にして欲しいものだ。
『完遂までのカウントダウンを開始します。五…四…三…二…一…終息します』
神剣のアナウンスと共に放たれていた光の波は途絶え、周囲を埋め尽くす光も次第に終息し、そして魔法は完遂された。
たった数十秒の事なのに、眩い光は時間間隔を失わせ、もっと長くの時間を思わせた。
『確認……完了。目標二体の生存を確認。目標二体の完全浄化を確認。ですが少々生命力の消耗が激しいようです』
「生きてるなら良し、後は本職に任せる。それよりも……」
握った神剣を地面に突き刺し、それに寄りかかるように体重を預けるカイセ。
その体からは大量の汗が流れ出していた。
『マスターの魔力残量が総量の2%を下回りました。〔魔力枯渇〕の状態となります』
カイセの魔力999も、人類史上最高クラスに多いとは言え無限ではない。
光龍の大威力魔法の完全相殺。
高速飛行から飛び移る際の衝撃制御。
古代浄化魔法の行使、そして神剣が魔法制御に使った魔力。
これらの魔力消費により、総量999をこの人生で初めて使い果たした。
カイセは世間一般に言われる〔魔力枯渇〕の状態に初めて陥った。
そして急激な眠気に襲われる。
『マスター、その眠気は肉体の安全装置の一種です。残りの処理はあちらに任せて、無理せずしばらくお休みください』
「分かっ――」
カイセはその返事を言い切る前に、そのまま眠りに付いてしまった。
神剣は地面に突き刺さったまま。
カイセの体は地面に転がる事になった。
20/5/31
一部の言い回しを変更しました。
ストーリーに変更はありません。




