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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第四章:世界の果ての七星龍
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湯けむりの密談



 「――ジャバ!泳ぐなとは言わないけど、せめてもっと静かに泳いでくれ」

 「分かったー」


 宿に帰還したカイセ達。

 洞窟やら騒動やらでかいた汗や汚れを流す為、帰還早々に露天風呂に直行した。

 汚れを洗い流し、湯船に浸かったジャバは早々にジャバジャバと音を立てながら泳ぎ出す。


 「ジャバくん、元気ですね。一騒動起きた後だと言うのに」

 「まぁジャバも龍種だからなぁ……あれぐらいでへばるような存在でもないだろうさ」


 ジャバもれっきとして龍種だ。

 大きな怪我を負ったならまだしも、掠り傷と高速移動の負荷程度では早々どうにかなることも無い。


 「……それにしても、今回はさらっと受け入れましたね」

 「二度目(・・・)な訳だし、尚且つ今回は完全な確信犯(・・・)として後追いされた(・・・・・・)訳だしな。動揺するだけ無駄で思うツボだろ」


 カイセの会話の相手。

 わざわざ隣に居座っているのは、他ならぬ聖女ジャンヌ本人。

 以前の事故とは異なり、今回は完全に意図的だ。


 「そう言うわりにはこちらを全く見ませんよね?隠すべきは場所はきちんと隠してるので大丈夫ですよ?」

 

 とは言え前回と異なり、今回はきちんと準備の上での混浴状態。

 その体は大きなバスタオルでしっかり覆われ、隠すべきは隠れた状態だ。


 「……それよりも、またこんなことしてたら付き人に叱られるんじゃないのか?」

 「何か誤魔化しました?」

 「いや何も。それより大丈夫なのか本当に?この状況は俺にも色々流れ弾が飛んできそうな気がするんだが」

 「そこは大丈夫ですよ。きちんと話した上で来てますから。彼女は今は脱衣所の入り口で人払いをして貰っています」


 どうやら先程から脱衣所入り口辺りから感じていた強い気配(・・・・)は【聖女の付き人リズ】のものであったようだ。

 ただその気配はどうも人を寄せない為のものというよりも、内側に…この露天風呂側の一点(・・)に向けて殺気(・・)のように放たれている感じもしていた。

 カイセの背中が先程からチクチクしている。


 「……納得してるのか、これって?」

 「まぁ当然反論は受けましたが、大事な話(・・・・)があるので押し通しました」

 「その話って言うのはさっきの、あの範囲浄化の後に空で光龍と話してた内容?」

 「そうです。聞こえてたのですか?」

 「いや内容までは流石に。降りて来るのが遅かったから何か話してんのかなと」


 ドラゴンゾンビを浄化した範囲魔法。

 それが終息した後、少し間をおいてから光龍とジャンヌは地に降りた。

 その間に話してた内容。

 これからその内容について聞かされることになるようだ。


 「光龍様にご相談させて頂いたところ口止めをされたのであの場では語りませんでした。ですが光龍様はカイセ様には話しても構わないと申していたので、この場を借りてお話しておこうと思いまして」

 「まぁここ、覗き対策やらで色々仕掛けてあるから、盗み聞きの可能性とか殆ど無さそうだもんな」


 セキュリティの話をするなら、壁や扉に物理的に視覚を遮られる部屋とはまた違い、天井の無い露天風呂であるこの温泉のほうが魔法的な防犯策は多く設置されている。

 秘密話をする場としては悪くない場所だろう。

 混浴になることさえ除けば。


 「……で、そのお話って言うのは?風龍には聞かせられない内容なのか?」

 「そうですね。風龍様へは折を見て光龍様から直々にとなると思います」


 空での密談後、あえてあの場では語らずに、風龍の居なくなった今この場にて話をする。

 話してはいけない相手が風龍であるのは間違いない。

 つまりは話の内容は、風龍には都合の悪い事なのだろう。


 「話と言うのは、簡単に言えば先の騒動の首謀者(・・・)の話です」

 「首謀者?ドラゴンゾンビの?」

 「はい。その方は【雷龍サンディア】様。七星龍のお一人であり、光龍様いわく風龍様の叔父(・・)にあたる方だそうです」


 それはあの範囲浄化魔法にてもたらされた情報。

 聖女としての力の副産物とも言える追加効果。

 ジャンヌは浄化魔法の行使の際に、対象の記憶の一部を閲覧する事が出来るらしい。

 その記憶の内容は大半の場合、対象がアンデットになった経緯の記憶であることが多いらしく、今回見た記憶もそれであったそうだ。


 「あの五体のドラゴンゾンビは全て生きたまま(・・・・・)にアンデットと化していました。元は彼らは軽犯罪の罪人として、お仕置きがてらにある場所に幽閉されていたようですが、雷龍様が植え付けたあるもの(・・・・・・・・・)が原因でアンデット化したようです」

 「あるもの?」

 「〔邪龍の肉の欠片〕です」


 大昔に現れた邪龍。

 七星龍達と引き分けた事で里の外へと邪龍は逃げ出したが、その戦いの際に邪龍は確かに傷を負い、その場に肉の欠片や血液を残していた。

 それらは回収され邪龍研究の為のサンプルとして扱われていたのだが、それを秘密裏に持ち出したか、もしくは隠し持っていたかした肉片をあろうことか罪人に埋め込んだそうだ。


 「もしかして〔邪な気配〕ってのは」

 「恐らくその肉片から発するものなのだと思います。そしてそんなものを生者に埋め込めば、当然ロクな事にはなりません」

 

 邪龍のような邪属性持ちの存在になるか、汚染に耐え切れず死ぬか、更には今回のようにアンデット化するか。

 いずれにしろまともな事にではない。


 「……雷龍様は一体何を考えてらっしゃるのやら」


 珍しく怒った表情を見せるジャンヌ。

 聖属性の使い手であり聖女であるジャンヌにとっては、邪属性の完全不純物を生者に植え付けるなど本当に信じられない行為なのだろう。

 しかもそれをあろうことか七星龍の雷龍が行ったというのだから、本当に何を考えているのかと疑問が浮かび不満が重ねるのも無理はないだろう。


 「それで、光龍はどうするって?」

 「まずは証拠固めだそうです。私の読み取った記憶だけで問い詰めるのは難しいそうなので、外堀を埋めて確証を持ってから――きゃあ!?」


 その時、二人の会話を遮るかのように鳴り響いた爆音。

 直後には湯を波立たせ旅館を揺さぶる大きな地揺れが起きた。

 ジャンヌは思わず驚きと共にカイセの腕にしがみついた。


 「……今のは一体」

 「それも気になるけど、まずは離れてくれない?」


 カイセの指摘で気付いたジャンヌ。

 咄嗟の事でタオルは緩み、カイセの腕にはそれが直接(・・・・・)当たっていた。


 「……失礼しました」


 流石にジャンヌも赤面しながら腕を離し、ゆっくりとカイセから距離を取った。

 非常に気まずい空気が流れる。


 「聖女様!ご無事で――」

 「カイセー!何か来るー!!」


 爆音と振動に警戒し浴場へと足を踏み入れて来た付き人のリズ。

 ラブコメ染みた一悶着が起きるかと思いきや、何かに気付いたジャバの言葉がそれを遮る。


 「……速い」


 ジャバに一秒程遅れ、カイセもその気配に気付く。

 それはトンデモない速度でこちらに向かっており、そしてすぐに姿を現した。


 『――貴方がカイセ、そしてそっちが聖女ジャンヌで間違いないわね?』

 

 露天風呂の空に現れたのは一体の龍。

 それも大きさだけなら光龍すらも超える存在。

 彼女(・・)は露天風呂の結界を苦も無く突破しながら、気が付けば人化した姿で湯の上に立っていた。


 「質問に答えて」

 「……カイセは確かに俺です」

 「私はジャンヌと申します。聖女で間違いはありません」

 「そう……私は七星龍の【土龍ソエル】。急で無礼なのは承知の上で、貴方達の力を貸して貰いに来たわ」


 カイセとジャンヌ。

 二人の協力を仰ぎたいと宣言したのは【土龍ソエル】。

 妖艶な女性の姿をしているが、放つ力のオーラは紛れ間もなく七星龍の一体である事を証明する強さだ。


 「私達の力を…ですか?一体何があったのでしょうか?」

 「〔水龍〕と〔火龍〕が乱心(・・)したの。二人を止める為に、私達に力を貸して頂戴」

 

 


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