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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第四章:世界の果ての七星龍
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ハーフドラゴン



 「……どうですか、ジャバくん?」

 「んー…あったかい。ヒリヒリするのもなくなった!」


 風龍に抱きしめられたジャバを包む薄緑色の光。

 その光と共に、軽傷程度には傷ついていたジャバの体が癒えていく。

 風属性の《治癒魔法》。


 「なぁ、治癒魔法って確か――」

 「そうですね。〔治癒魔法は人族にしか扱えない魔法〕というのが一般的な認識です」


 その光景を眺めて呟くカイセに、ジャンヌは常識で回答する。

 理屈は不明だが、本来治癒魔法は人族の血が流れる者にしか扱えないとされている。

 勿論常識外の、知らぬ特例があるのかもしれない。

 だが順当に考えれば……


 「察しの通り、アレには人族の血が流れておる。其方らの言葉に合わせて言うならば〔ハーフドラゴン〕というやつだ」


 〔ハーフドラゴン〕。

 つまりは両親の片方が龍種族であり、もう片方が人族。


 「アレの父親が人族なのだ。とは言え、本来はそれでもあり得ぬ話のはずなのだが」

 「そうなのか?」

 「他の種族のハーフがどうかは分からぬが、少なくとも我ら龍種の場合、人と龍、両方の血を継いだ子供は龍の血の強さが勝り、人種族特有の特徴は打ち消されると言われている」

 「つまりはハーフドラゴンだとしても、治癒魔法は扱えないのが普通の事例って事か」


 ゆえに特例・特異な存在。

 龍の血を損なわず、人の血も強く継いだハーフドラゴンとして生まれた風龍。

 その結果が今の姿でもある。


 「そう言えばあの子ずっと人化体のままだけど、それも関係あるの?」

 「アレにとってはあのような人の姿も自然な在り方の一つだからだ。我ら龍は普段は龍の姿、必要に応じて人化体へと変身する。だがアレにとって人化した姿も、〔もう一つのあるべき姿〕であり自然体なのだ。だから意識して人化を維持している我らと異なり、いつまでも好きなだけ人の姿で居続けられる……勿論、その逆もしかりだ」


 他の龍達が人化により感じている違和感を、風龍は一切感じない。

 龍でありながら人でもある。

 それが特殊なハーフドラゴン、風龍ウインディという存在であるそうだ。


 「ちなみにどちらも〔あるべき姿〕でありながら、比率として人の姿の割合が多く龍の姿をあまり見せないのは本人の好みによるものだ」

 「好み?」

 「『龍の姿は可愛くない』だそうだ。アレの感性も些か人の影響を受けているようだ」

 「まぁ俺らにとって龍はどちらかと言えば可愛いよりカッコイイの部類だからな。龍で可愛いって思えるのはそれこそジャバぐらいのサイズまでかな?」


 恐らくジャバの内面、精神年齢的なものの関係もあるのだろうが、ジャバ以外の龍に対しカッコイイと思ったことはあっても、可愛いと思ったことは今のところない。

 龍人や人化龍ならその限りでも無いのだが。


 「まぁそうして周囲と異なる部分が多かった事もあって、以前は色々と苦労も――」

 「あ、ちょっと待って。それ外野が踏み込んで良い話なの?」


 既に色々聞いた後ではあるが、更に踏み込みそうになった為カイセはブレーキを掛けてゆく。


 「別にお主なら良いと思うがな。アレ(・・)を見よ」


 光龍の示す先には、笑顔でジャバを抱きしめる風龍。

 治癒は既に終わっているので、ジャバ自身はそろそろ腕から抜けたがっているのだが、一向に離す気配はない。


 「鈍いと言われた我ですらあれなら気付ける。もはやアレは本気だぞ?となればアレにとって其方は将来の〔義理の父親〕のようなものではないのか?とすれば其方には話しても――」

 「いや義理の親じゃないから。その親子ネタも、もうそろそろしつこいから」

 「ジャバ君が子供で、カイセ様が父親……でしたら母親は私で、光龍様がお爺様でしょうか?」

 「ややこしくなるから悪乗りしないで?マジで」


 悪乗りしてきたジャンヌを止め、面倒なこの話題はここで強制的に打ち切らせた。

 そんな事よりも話さなければならない事がある。


 「さて……それでこの場はどうするんだ?」


 枯れた草花の上に転がるアンデットの残骸。

 残された龍の骨を見つめながら光龍に問いかける。


 「そうだな……既に援軍は呼んでおるが、警備だけでなく追加で調査隊も必要か」


 調べるのは当然、ドラゴンゾンビ共の出処。

 墓荒らしにあったのか、もしくは他の要因か。

 いずれにせよ何処から来て、何が目的だったのかも調べる必要があるだろう。


 「風龍!済まぬがしばらくはこの一帯への立ち入りを制限させて貰う」

 「……仕方ありません。ですが――」

 「無論、無暗に荒らす真似はさせぬ。だが調査に必要となればその限りでは無いというのは理解しておれ」


 風龍としてはこの花畑をこれ以上荒らされたくはない。

 だが調査が必要な事、そして場合によっては花畑を掘り返すような事もあるというのは充分に理解している。


 「……はい、大丈夫です。草花が駄目になるのは悲しいですけど、母と同じように何度だって植えて育てて、また一面の花畑に戻して見せますから!」

 

 風龍はこの花畑を何があろうと見捨てるつもりはないようだ。

 それこそ全てが枯れ果てたとしても、ゼロからだろうと植え直すのだろう。


 「すー…すー…」

 

 そんな決意の乙女に抱えられているジャバは、いつの間にやら眠ってしまっていた。

 いつもの気の抜けた寝顔。

 もう少し空気を読んでほしいものだ。


 「……来たか」


 空の先に見える姿。

 複数の龍と龍人が陣形を組んでやって来ていた。


 「さて、ここを任せたら我らは引き上げるとしよう」

 「現場の指揮はしなくていいのか?」

 「そのぐらいは我でなくとも問題は無い。我はむしろこれが本命に影響を与えぬように動かなければならない」


 本命となる式典。

 それが今回の騒動の影響を受けぬよう、運営側の責任者として立ち回る必要があるだろう。


 「其方らは我が乗せて行こう。風龍、お主も乗るといい」

 「よろしいんですか?」

 「こういう時くらいは構わん。それに其方にとってもその方が都合は良かろう?」

 「はい!」


 元気よく返事をする風龍。

 自前で飛ばずに済む分、移動中もジャバを抱えていられるという魂胆だろうか。

 そして龍の一団が着陸する。


 「簡単な指示だけ出してくる。其方らは宿に帰る準備を整えておけ」


 そうして事態はひとまず収束。

 一同は旅館へと帰還。

 名残惜しそうな風龍を連れて光龍も仕事の為に去って言った。

 そしてカイセ達ははその後、遅めの昼食となるはずだった。


 「……先にジャバを洗わないと駄目だな」


 目覚めたジャバは自力で歩く。

 だが素足で歩くジャバの足跡が、旅館の床にハッキリと残っていた。

 その為食事よりも先に露天風呂に向かう事になったのだが……


 「私もご一緒しますね」


 そう宣言したのはまさかのジャンヌ本人であった。



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