届いた声
新年明けましておめでとうございます。
遅くなりましたが、新年初更新になります。
今年もよろしくお願いします。
「――何か分かったか?」
「いや全く。ご覧の通りで何も見つからないし、隠し要素も見当たらない」
「そうか…我ら二人で見てもそれなら、本当にこの中には何も残されていないのだろう」
揃って車体から降りるカイセと光龍。
この世界には存在しないはずの物体。
バスの車内の散策を終えたカイセ達ではあるが、そこから得られた有益な情報はほぼ皆無であった。
明確に分かったのが、バスの案内などには日本語が使われている事から日本から持ち込まれたであろうバスであると言う事。
これに関しては光龍には秘密ではあるが、少なくとも知らぬ言語であると言う事は光龍も認識している。
そしてこのバス自体は、修理の余地が無いほどに劣化したガラクタであると言う事くらいだ。
「まぁ良い。この場の封は解かれたのだ。後は我らの方で時間を掛けて調べて行くとしよう」
部屋の扉の封印は、カイセが解いて以降復活の予兆は全くない。
継続的な制限では無く、一度限りゆえに強固な封印であったようだ。
つまりこれからは誰でも管理者の許可を得ればこの場を訪れる事が出来る。
となれば後は調査隊でも何でも寄越せばいい。
「さて、そろそろここを出るとしよう。聖女殿も待ちくたびれているだろう」
そうしてカイセと光龍はこの場を後にした。
何故ここにバスが残されていたのか。
これが初代勇者とどう関係があるのか、そもそも本当に初代勇者絡みの代物であったのか。
この場においては全く謎のままであった。
(願わくばコレ系にはもう遭遇したくないなぁ)
初代勇者の隠し物。
以前も洞窟の奥で眠っていた神剣に今回のバス。
どちらも平穏な人生には必要のない代物。
手にするだけ、知るだけ無暗に面倒を抱え込む代物には、今後も出会いたくはないものである。
「――あ、そちらに居ましたか。祈り場の確認と調査が終わりましたよ」
そうして隠し部屋から秘密基地本体に戻った二人は、一仕事終えたジャンヌと合流した。
「待たせて済まぬな。それで、そちらはどうだった?」
「結論から言いますと、正直どうしようも無いと思います。あの場を万全にするには、新たな祈り場を一から整えるのと同じくらいの時間と費用と手間が掛かると思います」
「やはり専門家から見てもそうなるか。となると再生は難しいか」
どうやらジャンヌが確認していた神像周辺は、光龍の望む結果にはならなかったようだ。
「あわよくばこの場を小神殿に作り替えてしまおうかとも思ったのだが……となれば解体してしまうとしよう。再建修復の目途も無く放置するよりは、本殿の資材として使用し正当に奉ったほうがよかろう」
そうして朽ちた祈り場の先行きが決まった所で、カイセは一つ疑問を口にした。
「そもそもなんだけど、何でそんなになるまで祈り場を放置し続けたんだ?常日頃から手入れ修復し続けていればそうはならなかったんじゃないのか?」
ここは初代勇者の秘密基地。
その事は当時の七星龍達は認知しており、当時からずっと今の席に座る目の前の光龍も把握していた。
であればこの場に祈り場があることも認識していたはずだ。
にも関わらず、何故朽ちるまで放置していたのだろう?
「ふむ…単純な話だ。この秘密基地はそもそもつい最近まで閉ざされていた場所なのだ」
初代勇者が龍の里を去る際に、この秘密基地には協力な《封印魔法》が掛けられた。
初代勇者は理由こそ語りはしなかったが、元はただの何も無い洞窟だった場所だ。
里側も特に悩む事も無く承認され、つい最近までこの場所は誰も立ち入る事が出来なかったそうだ。
「だがつい数か月前。唐突にその封印が解かれたのだ」
これも理由は不明。
そうして長きの間、封印により手出し無用とされていたこの場所、そしてその祈り場は、先に確認した通りに古びていったと言うことだったようだ。
(……そう考えると、むしろ劣化はゆっくりなほうって感じなのかな?)
長く放置されていた割りには、この場に残された物達はまだ判別が可能なものばかりであった。
それでも改めて使い物になるものは残っていないようだが。
(それよりも……その、ここが開放されたタイミングって神剣見つけたタイミングと重なってるよなぁ……)
そんな事よりもカイセが気になったのは、話の流れでもしやと思い詳しく細かく確認したその開放された時期時間。
結果それが面倒な重なりを示した。
カイセが神剣を手にした時とほぼ同時刻。
こうなると秘密基地自体も、あの隠し部屋も鍵が神剣だった可能性も高くなる。
『何も存じません』
その事を肝心の神剣に聞いても答えは出ず。
結果、またしても謎が積み重なったのであった。
「……ん?揺れてる?」
そうして頭を抱えたくなっていたその時、地面が、そしてこの洞窟自体が小さく揺れ出した。
「地揺れですか。洞窟だと少しマズイのでは?」
この辺の揺れとして震度3程度。
だが洞窟の中である以上、それでも何が起こるか分からない。
「本題自体は既に済んでいる。ひとまず外へと出るとしよう」
光龍としてはもう少し話もあったようだが、一番の用件は既に済んでいる。
そうして光龍に促され、一同はそそくさと秘密基地を後にして、洞窟の外へと出たのだった。
「……煙、ですか?」
そんな一同が目撃したのは、遠くに見える黒煙。
何かが燃え、そこから立ち上る真っ黒で揺れる一線であった。
「焚火、暖炉、その他諸々……何かああなる要素は?」
「日常生活の中で、あの様に真っ黒に立ち上る煙が上がることは無い。何か異常があったのだろう」
その時、視界の先で爆音共に何かが吹き飛ぶ。
すると再びカイセ達の足元が揺れ、二本目の黒煙も立ち上る。
「地揺れの原因はあそこか……済まぬが、我は向かわねばならぬ」
その原因を確認するため、駆け出し丘から飛び出した光龍は人の姿を解き、本来の龍の姿へと回帰した。
「お主らは馬車にて先に――」
『カイセー!!』
光龍の言葉を遮り、カイセの頭の中に響いた声。
聞き慣れたジャバの、聞き慣れない叫び声。
気配感知が届かない以上、本来は《念話》も届かないはずの距離に居るであろうジャバ。
だがその声がカイセには聞こえた。
「……俺も連れて行ってくれ」
そう言って許可が出る前に、小高い丘から自ら光龍の背に飛び乗ったカイセ。
「其方、何を?」
「ジャバの声が聞こえた。もしかしたら騒動の中心にジャバが巻き込まれてるかもしれない」
「光龍様!よろしければ私も同行させて頂けませんでしょうか?」
カイセに続き、聖女ジャンヌまでもが同行を申請する。
「其方は何故だ?」
「微かにですが、あの方向から邪なる気配を感じました」
聖女の示す〔邪なる気配〕とは、俗にいう邪念の事では無く、聖属性と対を成す〔邪属性〕の事を指しているようだ。
厳密に言うならば邪属性という属性項目は存在しない。
だが実際に〔邪龍〕と呼ばれるような存在は、系統外の未知なる力を纏っており、それには聖属性の魔法が効果を抜群に発揮するため、位置づけとして聖属性の対に置かれている。
聖女ジャンヌはあの煙のもとからその気配を感じ取ったようだ。
「……分かった。飛び乗れ」
「はい」
カイセの時と異なり、乗り易い高さにまで降りて来た光龍。
そのままカイセのように駆け出し、龍の背に直接飛び乗ったジャンヌ。
だが着地で若干バランスを崩す。
「おっと」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
カイセが支えた事で落下は免れた。
そのまま二人は龍の背に座り込み、準備は整う。
「では行くぞ。少し急ぐゆえ絶対に良いと言うまでは立つでないぞ?」
そして光龍は舞い上がり、騒動の中心地へと向かって行ったのであった。