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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第四章:世界の果ての七星龍
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潜む者



 「――カイセさん…俺、あの子供龍に結構な見覚えがあるんですが、この里の龍では無いんですか?」

 「ああ。ジャバは俺の連れな」

 「……つまりは魔境の森から連れて来た龍なんですか?」


 面倒が去って少し遅い朝食の場。

 各々がバイキングで好きな食べ物に手を出している中で、勇者ロバートがカイセに尋ねる。


 「そうだな。普段はあの森で暮らしてるな」

 「……じゃあやっぱり、あの時の龍(・・・・・)がその子なんですね」


 ロバートの指す〔あの時の龍〕は、恐らくは魔境の森で勇者や勇者一行を返り討ちにした子龍の事を指しているのだろう。

 それならば当たりだ。

 元々はジャバが彼を拾って来たのがカイセとロバートの出会い。

 そこまで月日が経ったわけでもないのに、ちょいちょい濃い出来事が間に挟まったせいで随分と懐かしくも思える。


 「まぁそうだな。今だから言うがジャバがお前らを拾って来なかったら、多分倒れたまま放置され、もしかしたら他の魔物にも襲われていたかも知れないな」


 今までジャバの存在は秘して、民泊実施中の間は揉め事を避ける為にジャバの出入りを裏口のみに制限していた為、ロバートがこうしてジャバとの再会を果たすのは、正に返り討ちにあった時以来であろう。


 「それなにー!?」


 そんな事情もあってか、些かジャバの存在に複雑な表情を露わにしていたロバートのもとに、むしろジャバのほうが自ら近づいて行った。


 「この食べ物なにー?」

 「えっと…これは……」


 どうやらロバートの皿に盛られた料理に興味があるらしく、若干戸惑いながらもロバートはジャバに教える。


 「カイセー、これも取るー!」

 「あーはいはいちょっと待ってろ」


 このバイキングは種類は豊富なのだが、如何せんジャバの姿では自力で小分けに取る事も難しい。

 形だけとは言え従者枠で連れて来たジャバの世話を、カイセがするのは立場が逆になっているような気もする。


 「教えてくれてありがとー」

 「…いえ、どういたしまして」


 魔境の森で、戦いの場で対峙したジャバとの印象の段違いさにこれまた戸惑うロバート。

 そんなロバートを全く気にせず、再び物色にジャバは戻る。


 「まぁ基本はあんな感じだし、結局は殺意や害意を向けるか飯に手を出すかしない限りは敵対する事もない存在だから、あんまり気にせずにその辺の子供と接するみたいな感覚で居れば問題ないと思うぞ」

 「……善処します」


 少しトラウマにでもなっているかと心配にもなったが、とりあえずは今のところは距離がある程度でさほどの問題はなさそうだ。


 「カイセー、これもー」

 「あーはいはい分かったよ」


 そうして各々の朝食タイムが過ぎていった。



 「――それでは、お先に失礼します」


 純粋に食事量の少なかった聖女組が、早々に食事を終えて部屋に戻って行った。

 先の露天風呂での一件についての話があるのだろう。 

 カイセ自身も、従者のリズには問い詰められるかとも思っていたが、ひとまずは身内での話が優先のようだ。


 「――では、僕らもこれで」


 次いで食事を終えた勇者一行は、日課の訓練などやるべき事があるらしく一足先に去って行った。

 継続は力なり。

 こういう場でも怠らないのは立派である。

 そうして最後に残ったカイセとジャバ。


 「……よく食うなぁ」


 カイセ自身はとっくに終えているが、ジャバがまだ食べている為の待ち時間であった。


 「ジャバ、まだ食うのか?」

 「これ最後ー」


 その最後の一個がガッツリとした大きな肉。

 毎度思うが、総計でジャバの体積を超えているような気もするのは気のせいだろうか?

 とは言え結局はタダ飯である為、カイセの懐が全く痛まないこの場では、特にジャバの食事を止めるつもりはない。

 むしろカイセも普段以上に箸が進んだ。

 帰る頃にはそこそこ体重が増えていそうな気がするのが少し不安なので、それなりに運動をせねばならない。


 (……ん?)


 そんな暇なカイセが適当に周囲を見回してみれば、視界の隅に何かが見えた気がした。

 ゆっくりその方向に視線を戻してみるが……


 (気のせいか?)


 特に何も無い。

 見間違いや勘違いであったのだろう。

 カイセは視線を再びジャバの方向に戻す。


 (……ん?)


 またしても一瞬、何かが見えた気がする。

 今度は腕のような何かが……


 (……気配が感じ取れないし、まさか幽霊ではないよな?)


 幽霊のような魔物は存在する。

 一種のアストラル系、ゴーストと呼ばれるような部類の魔物。

 魔境の森では滅多に見ないが一度だけ遭遇した事がある。

 それもすぐに消えていった為に、本当に幽霊のようで気味が悪かった覚えがある。

 それがここにも居るのかとも思いはしたが、その手のプロである聖女組の反応が全く反応を示さなかった事を思い返せば、少なくともそんな怖い存在が隠れているわけでは無さそうだ。


 (……後ろ!)


 直感が働き背後を振り返る。

 今回も一瞬何かが見えた。

 今度は足だっただろうか?


 (……子供?)


 断片情報から大きさを推測し、人型であるなら子供のような体格であると推測出来た。


 (……目的は何か分からないが、ジャバがいつも通りなら害意は無いのかな?)


 こと探知・感知能力においては、カイセよりもジャバの方が優れている。

 野生の勘なのかどうかは知らないが、二人に対して敵意の類を向けていれば先にジャバが気づいているだろう。


 (ならまぁ放置で良いか。プライベートなスペースでも視界に引っ掛かるようなら、その時には無理矢理にでも対応させてもらうけど)


 現状では害意は無いと判断したカイセは、いつまでも視界にすら捕まらない謎の存在を放って置く事にした。


 「ごちそうさまでしたー」


 そしてようやくジャバの食事も終わり、カイセと共に朝食の場を後にした。

 ――そしてその後ろを、見つからないようにこっそりと付けていく、一人の子供の姿があったのだった。


 

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