聖女との出会い、女神との再会
「――おかしいなぁ」
カイセが《転移》した先は、〔教会本部〕の目の前。
《転移》で建物の中には入れないため、そのまま自分の足で教会に足を踏み入れた。
だがその直後から、カイセは分かり易い違和感を感じた。
「この気配と反応って……もしかして招かれてるのか?」
恐らくは警備巡回しているのであろう、警戒して気を張った人物の気配はいくつかある。
マジックアイテムの警備システムと思しき反応もあちらこちらに見受けられる。
だが、カイセの現在位置から目的の部屋まで、綺麗に無警戒の道が出来上がっている。
その道だけ警備システムが機能しておらず、巡回要員もそこだけ避けて徘徊している。
現在《気配遮断》を使用しているカイセであるが、恐らく丸腰無警戒でも見つからずに辿り着けるだろう。
道さえ分かってれば素人だって見つからずに行ける。
「……歓迎されてるのかな?どっちの意味かは分からないが」
敵を本命の罠に嵌めるためのお膳立ての可能性が高い。
辿り着いた先で化け物が大口開けてカイセというご飯を待っている可能性もある。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずかな?……まぁ行きますか」
警戒はしつつも、ここまで来た以上は進むとしよう。
ここで退いたところで状況は改善しない。
進むことで悪化する可能性はあるが、その時は全力を持って責任を取るとしよう。
そして辿り着いた目的の部屋の前。
その部屋の中から声が聞こえた。
「どうぞお入りください」
無くても来れる状況ではあったが、《気配遮断》は続行してきた。
気付かれるとすれば対策を取らずにそのまま持ってきた〔発信機〕からだろうか。
「……失礼します」
カイセは意を決し扉を開いた。
そしてそこに居たのは……美しい女性であった。
「……【聖女】?」
カイセが〔鑑定〕した情報。
確かにそこには〔聖女〕と書かれていた。
「あら。挨拶も無しに女性の個人情報を盗み見る何て失礼だと思いません?……ですがこれで理解して貰えましたか?」
「ええまぁ一応は」
そこに表示された情報で、疑問の一部が解かれた。
個体名:ジャンヌ
種族:人間(女)
年齢:29
職業:神官/聖女
称号:教会聖女/癒しの聖女/女神の使徒
生命 088
魔力 360
身体 075
魔法 350
魔法(聖) Lv.9
魔法(風) Lv.5
魔法(水) Lv.5
魔法(火) Lv.1
魔法(光) Lv.4
魔法(闇) Lv.1
魔法(空間) Lv.3
聖女適正 Lv.10
状態異常耐性(全) Lv.5
鑑定 Lv.6
言語理解(全) Lv.5
使徒権限 Lv.9
神降ろし Lv.8
星の図書館アクセス権限 Lv.2
「では改めて、私の名前は〔ジャンヌ〕。現〔聖女〕です」
アリシアのような候補ではなく、正真正銘現役の聖女。
そして女神の〔使徒〕。
「早速で申し訳ないのですが、いってらっしゃい。アリシアさんの一件の事も彼女が話してくれると思いますので」
聖女ジャンヌの言葉と共に、カイセの足元が光りだす。
その光はどんどんと強くなり、カイセの体を包み込む。
出現したのは、神様だけが使える《転移魔法陣》の最上級。
つまりは行き先は――
「――行ったようですね。さて私は今のうちに後始末をしてしまいましょうか」
カイセの姿は、聖女の部屋から消え去った。
「――申し訳ありませんでしたあああああああああああああ」
そして〔女神〕の元へ《召喚》されたカイセは、再び女神の土下座を目にする事となった。
「……土下座ってさ、一度目は多少なりとも効果はあるだろうけど、二回目からは一気に効果が薄れると言うか、何度も繰り返してるとそういう持ちネタというか芸というか……そういうのにしか思えなくなるよな」
「では……私はどうやって誠意を見せれば……まさか私の体を!?」
「良し分かった。謝るつもりも話をするつもりもないんだな?それじゃあやんなきゃならん事も溜まってるんで俺は帰らせてもらうわ。前と同じならそっちの《転移陣》を使えば地上に降りれるんだな?」
「ごめんなさいいいいいいいい!謝罪も話もちゃんとしますから、帰らないでくださいいいいいいいいいいい」
閑話休題。
「――ゴホン。謝らなきゃ謝らなきゃと日々思っていたため、焦って少し取り乱してしまいました」
「……少し?」
「ゴッホン!……お久しぶりですカイセさん」
「お久しぶりです。女神サマ」
最後に遭ったのが転生時なので一年ちょっとぶりか。
一年か、思ったよりも早かったな。
「……本当なら、もっと早く教会に来て欲しかったのですけどね。多分真っ先に教会を目指して、私に文句を言いに来るんだろうなーと毎日毎日準備を整えてお待ちしていたのですが、結局自主的には来ませんでしたね」
「いやだって愚痴るよりもまずは生活環境整えないと。それとも真っ先に来てたらカンストしているステータスは修正出来たりしたんですか?」
「……出来ませんね。一度地上に降りた後ですと、私の方では上げたり増やしたり付けたりは出来ても、下げたり減らしたり無くしたりは出来ません」
「うん知ってる」
当然真っ先に〔図書館〕で調べた。
基本的な情報だったらしく、世界の仕組み系のレベル1の本に書かれていた。
「――それで、俺を呼んだのは謝罪のためだけですか?聖女は女神サマが今回の事について話をしてくれるって言ってたんだけど」
「……はい、私からお話します。そしてそれについても一つ謝罪が……」
「聖女適性レベル10が二人出て来たこと?」
女神が更に縮こまったようなので、予想は当たっていたようだ。
「……今度は何をどうして失敗した?」
「えっと……従来通りにお二人のどちらかを選ぼうとしたのですよ。だけどどちらも良い感じでして、それぞれのレベル項目を上げ下げしながら迷って迷った結果、もう片方を下げるのを忘れて両方上がった状態で決定ボタンを押してしまいました」
もうこの女神から権限剥奪したほうがいいんじゃないだろうか?
「女神サマって、自分がドジって自覚あるの?」
「……残念ながらありますね」
「あるならさ、作業する時は余計な動作をするなよ。何も触れないままでどっちにするか決めて、決まった段階で初めてレベル操作すれば防げたんじゃないの?」
「分かってるんですがつい……」
言っても注意してても直らない真性か。
代わりの人材が用意できる職業なら速攻でクビになってそうだ。
そういう意味では女神が女神なのは天職とも言えなくはないのか?
「はぁ……もうそういうものだって諦めたんで、本命のお話をしてもらって良いですか?」
「あぁ…諦められてしまった……」
そこで落胆するなら頑張ってポカを無くして欲しいものだ。
「まぁ自業自得なので仕方ありませんね。――それでは本題に入りましょう」
女神が気を引き締め直して、話を始めた。
その姿自体は真面目に威厳があるように見えるので、内実共に噛み合うようにして欲しいものだ。
「まず言ってしまいますが、アリシアさんを〔魔境の森〕へ送るように仕向けたのは私と聖女です。ですが目的は排除するためではなく、アリシアさんを守るためです」
「守るため?」
女神のポカにより二人となってしまった次期聖女候補。
最終的に一人が選ばれ、もう一人は教会を去る事になったが、去った者が次期聖女と同格の資質を持っていたという事実は変わらない。
そしてそれを〔脅威〕と見る者が少なからず居た。
自分こそが次期聖女の座にふさわしいと、力で奪いに来るのではないか?
誰かに唆され、教会に反旗を翻すのではないか?
本人にそう言った意識が無くとも、誰かが利用しようとするのではないか?
本当に次期聖女にふさわしかったのはアリシアではないのか?
「他にも色々と可能性だけならあるでしょうけど、そうして小心者や用心深い者の中に、実際にアリシアさんを亡き者としようと、とある派閥が二つほど動いていたのです」
その魔の手から、アリシアを守るために先手を打った。
別の派閥がアリシアの排除を実行したように見せかけて、あの魔境の森の中で比較的安全なカイセの住居付近に飛ばした。
「そうして先にアリシアさんの安全を確保してから、その間に聖女が彼らに手を出す。そういう手筈でした」
別の派閥の手により、アリシアが魔境の森へと飛ばされた。
魔境の森の危険度は誰もが知るところ。
そこに飛ばされたとなれば、生存の可能性を疑う者は居ない程だ。
しかもフリではなく本当に飛ばされているので、ちゃんと裏取りしても出る結果は変わらない。
その結果、「自分達が計画を実行するまでも無く、他の派閥が排除してくれた。良かった良かった」となる。
それぞれに入り込んでいる聖女の手の者がそう思考するように誘導しているらしいのでなおの事だ。
「……つまりは俺も上手く利用されたのか。アリシアを守るために」
「はい。流石に子龍にアリシアさんを拾われてしまうのは想定外だったのですが」
カイセの直前の行動から、ケーキのためにあの素材を取りに行くのを予想して、そのルート上にアリシアを《転移》した。
流石にジャバにおつかいを頼む事までは読めなかったようだが、そこはジャバが人慣れしていたおかげで助かったというところか。
余所の魔物ならそれこそアリシアの命が危うかった。
「もしかして金貨と紹介状を奪ったのや発信機を付けたのも?」
「はい。そうすればカイセさんなら取り返すために行動してくれるかなと。発信機を逆探知すれば聖女の所に簡単に辿り着けますし」
そして聖女の所に辿り着けば、こうして女神との面会も叶う。
まんま乗せられてしまうのは結構恥ずかしいな。
そこまで読みやすかったのだろうか?
「ちなみに、今回の作戦で私は知恵と情報を与えただけで、実際の行動に必要な人材・道具・資金は全て聖女の自前です」
高額になる《転移》に必要な人材も道具も、高価な発信機や、敵派閥に侵入させているスパイも、全て日頃から聖女が抱えていた者や伝手なのだろう。
つまり、日頃からそういうのが必要な立場なのだと。
ちなみに女神曰く
「毎度毎度これだけの大金を貰っても使う暇も機会もないから貯まる一方」
「人助けと馬鹿掃除のために使えるのならとても良い使い道になる」
「いい機会だから大掃除をしましょう」
「アリシアは破門され〔カタギ〕に戻ったのだから手を出すのはご法度」
これらは全て聖女の言葉だそうだ。
カタギって……聖女は極道の女か何かなの?
今日は夜にも一話更新します。