表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
幕間:女神と天使の職場見学
55/221

男子の夢?


 (……この人が〔天使〕か。そもそもスーツって概念があるんだな)


 初めて本物の〔天使〕と対峙したカイセ。

 神様の部下の天使。

 果たしてどんな方なのかとファンタジーな想像を膨らませてみれば、現れたのはビシっとスーツを決めた女性。

 前世日本ではそれなりに見慣れた姿であった。


 「こんにちは女神様。私が本日の視察を担当させて頂きます」

 「はい。よろしくお願いします」


 挨拶を交わす女神と天使。

 カイセはその光景に違和感を感じずには居られなかった。


 (……〔猫を被る〕と言うよりも、今の女神はドラゴンでも被ってるんじゃないのか?ってぐらい外面整えてるなぁ。なんかキラキラオーラ出てるし)


 それは最早別人。

 魂レベルですり替わってるのでは無いかと思える程であった。

 あの荘厳な皮に、中身が伴ってくれれば日頃文句も言わずに済み、そもそも数々のめがポカも起こらずに済んでいただろう。


 (……それにしても、この見学は本当に意味あるんだろうか?)


 今回の天使による視察。

 それは女神の望まぬもの。

 何故なら女神隠しているいくつもの失敗が、白日の下に晒される危険があるからだ。

 それが女神だけの問題であれば勝手にしろと言うのだが、その影響がカイセにも、最悪アリシア達にも及ぶかも知れないと言われれば、流石に無視して放置する訳には行かない。

 渋々ではあるが身の安全を守る為にも、カイセはこの〔職場見学〕なるものを引き受けざるを得なかった。


 『第三者の目があれば、自然と視察の眼も緩むはず(・・)です』


 カイセとしてはよく分からなかったのだが、要するに人前には晒せないものもあると言う事なのだろう。

 機密保持に意識が向けば、細かな違和感など無視してくれるのではと。

 結果、隠蔽や削除したデータには辿り着きにくくなると。


 (そんな甘いのかなぁ……まぁしないよりはマシではあるのだろうけど)


 正直、そんな事で甘くなってくれるのなら、そもそも怯える程の状況ではないような気もするが、結局気休め程度のそれしかカイセには任せられる手がないのだろう。

 無いよりはマシ。

 結局肝心なことは、全て女神の手腕に掛かっているようだ。


 「……申請は?」

 「出してますよ。こちらです」


 女神が天使にある書類を渡す。

 予め用意してあった、カイセがこの場に居る為の書類だ。


 (日頃もそれだけ周到で居てくれれば、ポカの発生率もかなり下がると思うんだけどな)


 このポカ女神。

 何度もポカを重ねたせいか、小手先の誤魔化しに関する技能ばかりが達者になったようにも思える。

 そのスキルアップはもっと別の場所で行って欲しかったものだ。

 ……と言った感じに、黙るカイセの脳内では、女神に対する愚痴が溢れていた。


 「勿論準備してます。カイセさん、これをかけてください」


 女神に手渡された眼鏡を身に着けるカイセ。

 どうやら機密保持を強化するための眼鏡のようだ。

 見せられない情報には、自動でモザイクが掛かると言う。

 天使を警戒させる為にはむしろマイナスなアイテムだとは思うが、最低でもこのぐらいはしていないと、そもそも同席すら認められないのだろう。

 本当に見学している意味があったのだろうか?

 それでも始めた以上は既に退く事は出来ない。

 後は何も見つからないように祈るしかない。


 (……誰に祈るんだろう?神様は当てにならないしなぁ)


 などとくだらない事を考えていると、状況は動き出した。


 「さて、準備が出来たようですので、早速仕事を始めましょう」


 そして天使による視察が始まった。




 (――暇だなぁ)


 視察はしっかりと進んでいる。

 カイセも最初こそドキドキしていたが、次第に緊張も緩み、ただ居ているだけの状況に暇を持て余し始めていた。


 (暇だけど、視線だけは外せないしなぁ……必要なのは〔第三者の目〕な訳だし)


 瞬きはすれど視線は外さない。

 今のカイセは見ている事が仕事なのだ。

 面倒でもそれだけは止めない。

 ……だがその時、眼鏡を通した視界に異変が起きる。


 「……ぬうッ!?」

 「どうしましたか?」

 「あ……いえ、何でもないです!」


 思わず素っ頓狂な声を上げたカイセ。

 その声に反応しこちらを向いた女神と天使だが、何でもないと言う返答をそのまま受けて仕事に戻った。


 (……あのぽか女神!またやらかしやがったな!!?)


 カイセの視線に起きた異変。

 恐らくは身に着けた眼鏡のせいだろう。


 (何でそんな都合よく服だけ透けて(・・・)んだよ!狙ってやってるんじゃないよな!?)


 映るのは白と黒。

 今現在、カイセの眼鏡越しの視界では、女神と天使の下着姿(・・・)が映し出されていた。


 (今チェックしているのは機密に関わるデータなのか?それで眼鏡の機能が発動して……秘密を守る為の眼鏡……逆じゃねぇかよ!逆に秘密を暴いてどうするんだよ!!)


 言うなればそれは〔透視メガネ〕。

 どういう訳か、機密を保護するための眼鏡がおかしな動作を発揮して、思春期男子のちょっとした憧れ(個人による)である〔服が透ける眼鏡〕となっていた。

 幸い透過具合は下着姿に留まり、それ以上になる様子は無い。

 だが状況はすこぶる不味い。


 (……あ、クソ!これ外れねぇな!)


 眼鏡を外そうとしても外せない。

 何かしらの力で固定されているようだ。


 「どうしました?」

 「何でもないです」

 「そうですか?なら良いですけど……ちなみにその眼鏡は私が許可を出すまでは外れませんので、邪魔でも少し我慢してくださいね」


 肝心な所で大ポカをやらかしている癖に、そんな部分はキッチリ機能させる。

 本当にタチの悪い女神だ。


 (こうなったらシステム開いて改変を……あ、駄目だ堅い。そもそもアクセスが出来ない)


 普段のマジックアイテムの作成で鍛えた技能。

 それを生かしてこの眼鏡に組み込まれている魔法のシステム改変を行おうとするカイセ。

 だが流石の女神製品。

 結果はポンコツでも、その技術は数段上。

 そもそもカイセは扉を開ける事すら出来なかった。


 (……仕方ないな。これも緊急事態(・・・・)だ。Lv.5の制約で見つからなければそれも超えて……繋がらない?)


 カイセは〔星の図書館〕へと赴き、場合によっては自らに課している閲覧制限すら超えて、この眼鏡のシステム改変を行うための情報を探し出そうとした。

 だがそもそも、〔星の図書館〕へとアクセスする事も出来ない。

 理由としては、万が一にも機密が目に入った時にその情報を読み解く手段を与えない為の一時的なアクセス制限なのだが、当然伝えられていないカイセに知る由は無し。


 (……なら悪いけど、役目は放棄(・・)させて貰おう)


 そのままそっと目を閉じるカイセ。

 この場に居る役目は、第三者の目として状況を見続ける事。

 カイセはその効果があるかどうかもイマイチ分からない役目を放棄した。

 だが――


 「……カイセさん?居眠りしないでくださいよ」


 両目を閉じたカイセを、暇で居眠りを始めたと勘違いした女神が起こそうと声を掛ける。

 だが頑なに目を開かない。

 そしてバレるのを覚悟の上で、仕方なく最終手段を取る。


 「……女神様。大事な話があるので、少し二人でお話をさせて頂けませんか?」


 怒りたい気持ちを抑えつつ、仕方なく状況改善の為に女神を呼び寄せようとする。


 「今視察の最中ですよ?後にして貰えませんか?」

 「……大事な事なので今すぐにお願いします」

 「もう、仕方ありませんね。少し休憩にして貰ってもいいでしょうか?」

 「はい。わかりました」


 そうして何とか女神と二人きりで話をする機会が巡って来た。

 今なおカイセの視界は閉ざされたままである。


 「ボソッ(この眼鏡を外してくれ。そして自分で使ってみろ)」


 小声で女神にそう促す。

 首を傾げつつもそれに従う女神は、全く微動だにしなかった眼鏡を普通にカイセから外して受け取り、そして自分で掛けてみる。

 おかげでカイセはようやく目を開く事が出来た。


 「ボソッ(はい向こうを向いて)」

 「向こう……ひゃあ!?」


 手持ちの資料を持ったままでいる天使に視線を向ける女神。

 どうやらカイセが視たものと同じ光景が視れたようだ。


 「ボソボソッ(なんですかこれ!?何してるんですかカイセさん!!)」

 「ボソッ(お前のせいだろ。良いから直せ!)」


 その後、たった数秒で眼鏡を直す女神。

 この辺りの手早さは流石の女神。

 その有能スキルを最初から生かして欲しいものだ。

 そして再びカイセに手渡された眼鏡は、無事に本来の仕様に戻っていた。


 「ボソッ(見たんですよね?)」

 「…………」


 誰のせいだと怒鳴りたかったが、現実として見てしまった事実は変わりないので黙るしか出来ない。


 「あのー。そろそろ再開しても良いですか?」


 この微妙な空気を打ち切ってくれた天使には、正直感謝しかなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ