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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第三章:貴族の婚活騒動
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面倒な王子



 「王子と勇者とのお見合い……なんだかすごい事になってますね」

 「そうだな」

 「……それで、カイセさんは同行しなくていいんですか?お仕事は?」

 「帯同出来るのは最小限の人数で、今回は女性の世話係優先らしく俺は弾かれてお休みなんだよ」


 エルマの認定から数日。

 今日はエルマと王子+勇者のお見合いの当日。

 エルマと女性の使用人たちが王城内のお見合い会場へと向かう中で、カイセとアリシアは他の居残り組と共に宿に残っていた。 


 「転移護衛ですよね?」

 「むしろそう言う役柄程連れて行きにくいみたいだな。主催者側の警備体制を信用していないって取られかねないとか」

 「その上で更に万全を期せばいいのに、面倒な話ですね」


 今回のお見合いの主催者は王族側。

 エルマは招かれる側。

 いわば客人とも言える者の身の安全を守る義務が王族側にはある。

 逆に言えば、そんな守られる側のエルマが最低限以上の護衛を連れて行くのは王族側の警備にケチをつけるような行いになるらしく、ゆえに護衛は基本的に主催者任せでカイセ達は置いていかれた。


 「……もしかして、さっき何か(・・)をエルマに渡してたのって、その為の備えだったりしますか?何やらエルマが赤くなってましたけど」

 「コレ(・・)だな」


 取り出したのは指輪。

 宿を出る前にエルマに渡した物と同じ物。

 アリシアの予想通り、備えも兼ねた(・・・)代物だ。


 「一回限定(・・・・)の〔転移の指輪〕。ちなみに今回は渡す前に全て説明して、それから渡してるから誤解は無いからな?」


 アリシアに〔転移の指輪〕を渡した際に面倒な誤解を生んだ経験があった為、今回はきちんとそれを回避するように心がけた。


 「だから赤く……いくら予防線を張っても、〔指輪を貰う〕と言うだけでアレ(・・)なのは理解してますか?というより、何でまた指輪型なんですか?」

 「利便性とか効率とか考えると、なんか指輪型にするのが一番安定するんだよ。他者は知らんが少なくとも俺が作る場合は」

 「難儀と言いますか……それで〔一回限り〕ってどういう事ですか?」

 「文字通り一回使ったら効果が無くなる。条件設定の都合で、前にアリシアに渡したようなものは用意できなかった。それ並みなのは元々用意するつもりも無かったけど」


 今回備えとしてエルマに渡したものは、範囲としてはスタート地点と同じ町中までとは言え、結界のある場所を除いて好きな場所に転移出来るものである。

 行き先固定のアリシアの指輪よりも自由にも思えるが、距離は短く、そして一度きり。

 容量をフル(・・)に使えたのなら、もう少しマシな設定にも出来たかも知れない。


 「そもそも一度きりとは言え、〔転移の指輪〕等と言う物をいくつも作れてホイっと渡せるほうがおかしいんですけどね」

 「ホイと渡してるつもりも無いし、一応は自覚してるから普段は作らないんだよ。今回はあくまでも仕事の一環で、俺自身の代役だからな」


 王城内で厳重警備の中、滅多な事にはならないだろうが、もしもがあれば悔やむに悔やみきれない。

 引き受けた以上は完遂したい。

 だからこそ一時的なものとは言え、備えとして渡しておきたかった。


 「ちなみに材料の関係でこうして同じものがもう一個出来たんだけど、アリシア要る?」

 「……やっぱりホイっと渡してくるじゃないですか。そもそも私にはこれがあるので必要無いんじゃ無いですか?」


 そう言ってアリシアは、カイセが最初に渡した〔転移の指輪〕を見せる。


 「それ、王都からだとあまり役に立たないぞ?」


 カイセが伝え忘れていた事。

 アリシアにとって初耳のそれが、今更になって伝えられる。


 「使えない事も無いけど、王都からあの村や俺の家までは距離があるから発動した《転移》が途中で燃料切れを起こすはずだから。多分道中の何処かに放り出される」

 「そう言うのはもっと早く言ってくれませんか!?何かあった時に使う気満々でしたよ」


 アリシアの普段の行動範囲、そこから少し離れたぐらいならば問題が無かったので失念していた。

 だがカイセ自身が自宅から王都まで三度の《転移》が必要だった事から分かるように、距離的にも燃料的にも〔転移の指輪〕で対応できるものでは無い。


 「ですけど、それも村までは届かないんですよね?」

 「その代わりに王都内で好きな場所に逃げられるのが利点。俺のとこなり、エルマ様のとこなり、憲兵・兵士のとこなり好きに飛べばいい」

 「成程……それならこの旅行(・・)の間の保険としてお借りします」

 「これ旅行では無いんだけどな」


 完全に観光旅行のつもりのアリシアだが、エルマもファムもカイセも、その他の使用人・兵士たちも全員お仕事だ。


 「ところで今日は観光に行かないのか?」

 「同行してくれていたメイドさんもエルマが連れて行きましたからね。カイセさん達も宿で待機ですし、一人で出歩いて何かあればもっと迷惑を掛けてしまいますから、今日は大人しくしてます。それに必要な所は一通り回りましたからね」


 そんな訳でエルマのお見合いの間、カイセもアリシアも宿で待機となっている。

 正直暇と言えば暇ではあるのだが、アリシアが観光の土産話を聞かせてくるために、体感としては時間はあっという間に過ぎた気がした。

 ――そしてお見合い組が帰って来た。



 「お帰りなさい……何か疲れてます?」


 帰還したエルマの表情を見たアリシアは率直に訪ねた。

 カイセの目にも疲れているように見える。


 「えぇ少し……」

 「〔第三王子〕は自由な方と聞いてはおりましたが、あぁも面倒な方とは思いませんでした」


 同行していたファムからも漏れる愚痴。

 お見合い相手は第二王子、第三王子、勇者の三人。

 勇者はどうやら第三王子の付き添いとしての参加だったようだが、その第三王子にエルマ達は振り回されて来たようだ。


 「本来ならば場を終えて後日回答をすべきところを、第三王子からはその場にて婚約を打診されました。相当お嬢様を気に入られたようで」

 「それ自体はマナー違反ではあるのですが、私をそれ程に評価してくださったものとして前向きに考えれば悪くは思わなかったのですが……」

 「お嬢様が『回答は後日改めて』という対応をなされたのですが、第三王子からはその場でと求められ、仕方なくその場でお断りのお返事をされたのですが、それはそれで諦めて頂けずに更に押して来られて……」

 「帰り際には『俺は諦めない』と宣言されました」


 そして残った対応は全てダルマに任せ、エルマ達は一足先に帰ってきたようだ。


 「……カイセ様。カイセ様にはご迷惑をお掛けしていないでしょうか?」

 「ん?いや、俺には特に……いや、そっち(・・・)のほうか」


 エルマの問いは今回の一件に対してでは無い。

 先日、エルマはカイセに対して『諦めない宣言』に似たような対応を取っていた。

 自身が第三王子に対して感じている感情が、エルマに対してカイセが思っている感情と同じなのではないかと言う心配があるようだ。


 「……気にしなくていいかな?確かに戸惑いこそはしたが、迷惑とまでは思っていないからな」

 「本当ですか?」

 「あぁ。だから気にせず今まで通り好きにすれば良い。本当に迷惑な時は遠慮せずに言うから」

 「……分かりました」


 そんなやり取りの中で、これまた疲れた様子で姿を見せたのは後処理を片付けて来たダルマであった。


 「ダルマ様、お帰りなさいませ」

 「あぁファム、お前にも苦労を掛けるな。全く…あの王子には面倒を掛けられてばかりだ」


 椅子にドカッと座り込むダルマ。

 どうやら以前も何かがあったようで、ダルマにとっては『またコイツか』と言った様子だった。

 一体、第三王子は何をやったのだろうか。

 

 「エルマ。話そのものは当然断っておいたが、アレは存外しつこい性質(タチ)だ。今後も接触はあるだろうから気を付けてくれ」

 「分かりました、兄様」


 面倒を払う為にやって来た王都で、エルマは別の面倒を抱え込む事になったようだ。

 



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