再びの謁見
護衛依頼の二日目。
朝一で宿を後にした一行は、二日目は一切の妨害も無く順調過ぎる程に順調に進み、むしろ予定よりも早く、昼過ぎには目的地である王都へと辿り着く事が出来た。
「――それでは皆さん。お仕事頑張ってください!」
そうしてここは王城前。
この先に入れないアリシアは、手の空いた使用人の一人と共にガイドブックを片手に観光目的で王都の町中へと消えて行った。
(……朝一は何か不機嫌な感じだったのに、着いた途端にコロッと切り替わったな)
楽しんでいるならばそれで良いとは思うのだが。
朝のアリシアの様子を見ていた者としては何か釈然としないものもある。
「それでは行きましょう」
そんなアリシアと別れた一行は、エルマの指示で王城へと足を踏み入れた。
一行が案内されたのは、王城内の立派な応接室のような部屋。
カイセの時とは異なり、エルマの要件は王様にとっても正式な、公式のお仕事だ。
そして一行は、その部屋の中へと足を踏み入れる。
「――よく来た、エルマ殿。我がこく……国王、〔ジルフリード・サーマル〕である」
名乗りの最中に一瞬視線がカイセに向いた気がするが、この場においてカイセは置物であり、尚且つ前回の一件は非公式である為、面識がある事を基本的には他者に知らせてはならない。
……それにしては、何やら露骨に面倒そうな表情が見えた気がする。
「お初にお目にかかります。アーロン伯爵家が四女、エルマ・アーロンと申します。此度は私事にてお手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
「いや、構わぬ。これも我には大事な仕事。ましてや優秀な人材との交流が増えるのならばそれこそ願っても無い。それで……早速で悪いが、隣室に〔認定官〕を控えさせているゆえ、すぐに確認させて貰っても構わぬか?」
「はい。もちろんです」
そのまま隣室へと案内されるエルマ。
それに続いてファムとカイセも移動しようとするが……。
「男子禁制であるぞ?」
「そうなのですか、それではこちらで待たせて頂きます」
そうしてカイセを残して、エルマとファムだけで隣室へと移動していった。
その結果この部屋には、カイセ・国王・大臣の三人が残された。
前回の面子である。
「……それで、今度は何をやっておるんだ?」
「特段珍しい事は何も。ご存知の通り、《転移》を使えますので知り合いに転移護衛として雇われただけです。ただのお仕事です」
「アーロン伯爵家に雇われるというだけでも、普通からはそこそこに遠い事ではあるのだがな」
「コレを囲い込むとは……アーロン家も手が早いと言うべきですかね」
コレ呼ばわりされたことには、面倒なのでツッコミを入れない。
「何ならうちでも仕事をしてみぬか?当然相応に報酬は弾むぞ?」
「残念ですが、どう予想しても厄介事を押し付けられる未来しか見えないのでお断りします」
「……どうせこちらの話を断っても、別件で厄介事に巻き込まれるんじゃないのか?」
「……否定できないですけど、そっちも受けて二重苦になるよりはマシなので」
等と話をしていると、隣の部屋から知らぬ人物が出てくる。
「――」
そして大臣に軽く耳打ちをして、そのまま隣の部屋へと戻って行った。
「王様。総合ではありますが、やはり〔特級〕であるようです」
「そうか。"神眼"と聞いて予想はしていたが、やはり〔特級〕での登録となるか」
今回の王城訪問は、エルマを〔国家認定鑑定師〕として登録するためのものである。
いわゆる鑑定系スキルの国家資格であり、認定されれば国家認定という信用と、国家からの支援・保護なども与えられる。
その保護の中には、人材に害を成す者に対する、より重い罰則に関しても含まれている。
つまりは正式に認定される事で、先の盗賊の様にエルマに対してちょっかいを出して来るものを減らせれば良いなという所だ。
本当のならず者は別として、少なくとも〔地位のある黒幕〕の類は警戒と躊躇をするだろう。
後は国に認められた人材として、エルマに対する風評被害も減らせればと言ったところだろうか。
実際どこまで効果や利点があるのかは知らないが、あるとないとではやはり差は出るであろう。
「となれば、予定通り手配をしてくれ」
「……よろしいのですか?伯爵からは――」
「構わない。向こうも国王や貴族としての体裁は理解している。我が個人的に嫌みを言われるだけだ」
「分かりました。ではその通りに」
会話を終えて、大臣は一通の書類に記入をしていく。
「あの……質問良いですか?」
「あぁ、今の話か?何てことは無い、エルマ嬢と私の息子達とのお見合い、つまりは〔王族との縁談〕の話だ」
大臣が手配しているのは、王子とエルマのお見合いの手配。
また大きな話が出て来たものだ。
「……もしかして、優秀な人材を手元に囲い込むのが目的ですか?」
「まぁその通りではあるな」
より優秀な人材を身内として抱え込むのが目的。
その為にお見合いを強制されるのは面倒な事ではあるだろうが、普通に考えればビックチャンスとも言えるだろう。
「普通に認定を得た者には、相応の役職なり、相応の縁談を持ちかけるのだが、今回は非常に珍しい〔特級〕の、つまりはその分野の最高資格の認定だ。そんな稀有で希少な人材ならば、提案すべき相手も相応である必要があるのだ」
「それで王族、王子と……ちなみに確認なのですが、それは強制ですか?」
カイセにとっても、恐らくエルマにとっても大事な事。
その縁談が強制的な力を持つものであるのかどうか。
「……安心せよ。参加そのものは強制にはなるが、その答えに関しては当人たちの自由だ。国王としてそれは約束させて貰う」
「ならまぁ外野がとやかく言う問題ではないですかね?ところで……伯爵がどうこうのお話は何が?」
国王様の表情が曇り、大臣の表情はクスクス笑いに変わる。
聞いていいのか悪いのか、少し分からない状況だ。
「……〔アーロン伯爵〕と面識は?」
「いえ、お仕事も次期当主様からのお話でしたし、アーロン家の御子息方との面識はあっても、現当主様との面識は一度も無いです」
結婚式の際に遠目に見かけはしたが、直接の対面や会話は一度も無い。
「あの親バカはな、元からその帰来はあったのだが、エルマ嬢の病気をキッカケに相当な過保護となっていてな。そんな大事な娘のお見合いを拒否権無しで打診する事に些か恐怖と言うべきか……」
「お二人は学生時代からの友人らしいのですが、どうもまぁ、色々と個人的な弱みを握られているようなのですよ」
「……若気の至りだったのだ」
要するに、伯爵からどんな嫌みや仕返しが来るかと怯えているようだ。
「……縁談持ち掛けなければいいのでは?」
「恒例行事と言うべきか、国王としての体裁がな?」
「あ、はい。めんどくさそうですね」
――その後エルマは、無事に〔特級国家認定鑑定師〕として登録され、後日には
二人の王子と、何故か勇者も加えてのお見合いを行う事に決まった。
王様の元には〔転移速達〕でアーロン伯爵からの手紙が届いたそうだが、その内容はカイセの知るところでは無い。