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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第三章:貴族の婚活騒動
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依頼初日



 「――三時の方角、ギリ警戒範囲に魔物二体。ゆっくりだけど進行方向はこちらへ」

 「馬車はそのまま進めます。距離が縮むか加速したら再度知らせてください」

 「分かりました」


 転移護衛の依頼の初日。

 カイセは馬車の中から外を眺めつつ、知り得た情報を向かいに座る上司(・・)に伝える。

 その情報を基に、上司はどう対応するかを検討する。


 (仕事内容って転移護衛だったはずなんだけど、それ以外の仕事もやらされてる気がするな。口が滑ったのは自分だけど)


 ポロっと零した警戒の言葉で、カイセの警戒範囲の広さが証明されてしまい、こうしてレーダー役も任させることになった。

 安全の為ゆえに断る理由も無いが。


 「……それにしても、用意した上級のマジックアイテムよりも対応範囲が広いなど、本当に人間ですか?」

 「ファム!いくら何でも失礼ですよ」


 主として使用人の無礼を叱るのは、カイセの隣に座るエルマ。

 〔ファム〕はエルマの側付き使用人であり、アーロン家のメイド長であり、この王都へと向かう一団の指揮役でもある。

 だからこそ、今この場に置いては臨時の雇われであるカイセにとっての上司である。


 「良いですよ。気にしてませんし……逆の立場なら俺が同じ事を言ってそうですから」

 「カイセさんがおかしいのは今に始まった事じゃないですからね」

 「……アリシア様は慣れたご様子ですね」

 「そう長くは無い内に色々と見てますからね。お二人もその内に慣れますよ」


 エルマの向かいに座るアリシアは、もはやいつもの事と達観した様子を見せる。

 今この馬車の中には、カイセ・アリシア・エルマ・ファムの四人が居る。


 「――あ、進行先から馬車が一台。人は四人かな?一本道だしルート的にすれ違うかな」

 「対面から馬車接近。全員要警戒」


 劣化トランシーバーのように、馬車同士で連絡を取り合うためのマジックアイテムで他の馬車に指示を飛ばすファム。

 こちらの馬車は三台。

 使用人や護衛の馬車が前後に一台ずつ随行している。


 「……通過したわね。報告を」

 『異常なし』『異常なし』

 「了解。通常警戒に戻って」


 今回も何も無し。

 やはり旅は平和が一番である。 


 「あれ、この先ってもしかして」

 「……そうですね。そろそろあの時(・・・)の場所ですね」


 カイセの存在を、初めてエルマが認識した場所。

 つまりはエルマが盗賊に襲われていた場所が迫っていた。


 「……あ、すいません!」

 「気にしないから、怖いならそうしてていいよ」


 隣に座るカイセの腕を、無意識に掴むエルマ。

 当人にとっては命の危険を感じた場所だ。

 怖がるのも無理はない。


 (余計な言葉で変に意識させちゃったか。また余計な一言だったな)


 転移護衛は守るのが仕事であり、こうして怖がらせるのは減点だ。

 なるべく安心させるためにも、その掴まれた腕を振り解きはしない。


 「……あそこはその手の名所か何かなのか?警戒地点に人の気配複数です」

 

 ある種で思い出の場所とも呼べる前回の襲撃場所。

 そこにはまたしても潜む人の気配がある。

 出発前の会議にて要警戒とされた場所だけに、護衛は既に想定済みの展開であった。


 「先手を取りましょう。戦闘準備」

 『『了解!』』 


 馬車はその地点の手前で止まる。

 そして護衛達は馬車を降りて、自らの役割の為に戦いの準備を進めて行く。


 「俺も参加しますか?」

 「貴方の仕事はお嬢様の転移護衛。このままお嬢様方の側を離れないでください。お嬢様方の安全だけを考えてください。その他の事は二の次です」

 「それじゃあ一つだけ……《防御鎧(ディフェンスアーマー)》」


 戦いに出向く一人一人に、カイセは動きの邪魔にならない程度の魔法の鎧を纏わせる。

 

 「全員分の防御だけ魔法で強化しておきました。ただ、簡易的なものなのであまり過信はしないでください」

 「感謝します。それでは私も外に出ます。馬車の側で指揮を執ってますので、何かあれば声を掛けてください」


 そう言ってファムも馬車を降りた。

 とは言え本当に馬車の側。

 窓を覗けばすぐそこに姿はある。

 側付きとして、あまり遠くへはいくつもりは無いようだ。


 「……カイセさんの魔法なら、防御以外も強化出来るんじゃないですか?」

 「下手に力や速度を上げるのはむしろ悪手だから。日々の訓練で連携が取れる相手ならまだしも、即席だと慣れない上に加減が分からないから上昇した力にみんなが振り回されかねない。だから最低限、邪魔にならない程度の中で最大の防御だけにした」

 「……まぁ確かにいつもの感覚が狂うと大変そうですね」


 そんな話をしていると、外からは怒号が聞こえてくる。

 窓を覗くと、そこでは戦闘が始まっていた。


 「……」


 外の声に反応し、小さく震えるエルマ。

 出発前に聞いた話だと、どうやら以前カイセが介入した際は、既に盗賊が馬車に到達し割とギリギリの状況にあったらしい。

 その時の記憶が、エルマに蘇る。


 (……トラウマまでいってるのかどうかは分からないけど、これはこれで心に染み込み大事に案る前に払拭する良い機会かもな) 


 だが今回は状況が違う。

 場所は同じでも、今回奇襲を掛けたのはこちら側。

 数も質も前回よりも増し、最終防衛ラインにはカイセも居る。

 そして何より……

  

 「大丈夫ですよ。皆さん頑張ってますから」 


 席を離れ、震えるエルマの顔前に近寄り励ますアリシア。 

 そしてカイセの腕を掴む右手とは反対の、自身のスカートを握りしめるエルマの左手に両手を重ねる。

 すると左手の力がゆっくりと緩み、スカートから離した手をその両手で包んで胸の前に持ってくる。

 そしてアリシアはエルマの眼を真っ直ぐに見つめる。


 「皆さんも居ますし、ファムさんも居ますし、カイセさんも居ますし、私も居ます。だから大丈夫ですよ」

 「……はい」


 体の震えが治まり、カイセの腕を握っていた右手の力も緩む。


 (何というか、こういう所はさすが元聖職者と言うべきなのかな?)


 依頼主たちがカイセの提案であるアリシアの同行を受け入れたのは、エルマにとって友人が側に居る状況が旅をする上でより安心できる環境になるだろうと考えたからこそだ。

 その意味で、アリシアは恐らくは期待以上の成果を挙げる事となっただろう。


 「――終わりました。こちらの被害は一切無しです。後片付けが終わり次第出発しますので、もう少しお待ちください」


 そしてファムから終息宣言が成された。

 これでエルマのトラウマが拭える事を祈るばかりだ。


 


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