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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第三章:貴族の婚活騒動
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ブーケと依頼


 「――思ったよりも普通だったな」


 結婚式のメインとなる誓いの儀。

 前世でもあった「貴方は~誓いますか?」的なやり取りを終えた新郎新婦。

 その後もこまごまとした部分を終えて、今は次の場面の準備待機中だ。


 「……普通では無いと思いますよ?そもそもこれだけしっかりとした結婚式ってお金が無いと出来ませんから」


 よくよく考えてみれば、これは貴族の結婚式だ。

 カイセは無意識に前世との比較をしてしまっていたが、ここでの基準はこのランクではないようだ。


 「それにしても……聖女って本当に聖職者だったんだな」

 「何を当たり前の事を言ってるんですか」

 「そうなんだけど……ところで何で聖女があそこに立ってたの?あの人今日は招待された立場だったよな?」

 「……まぁ予想は付きますけど」


 誓いの儀において「~誓いますか?」的な進行を行っていたのが、神父ではなく何故か聖女ジャンヌであった。

 肝心の神父は付き人のように聖女の側に控えていた。


 「まぁ聖女様も大変だってことですよ」

 「うん、とりあえず聞かない方が良い?」

 「どうせ『面倒だな』って感想しか出ないと思いますよ?」

 「じゃあ聞かなくていいや」


 聖女はともかく、大役を手放した神父自身がとても誇らしげな顔をしていたので、特段悪い事があったわけでは無いのだろう。

 聖女ジャンヌにとってどうであったかは知らないが。 


 「さて、それじゃあ私も前に行きますね」

 「ん?……あぁ、次はアレか」

 「乙女の戦場に初参戦です。それではまた」


 次に行われるのはブーケトス。

 花嫁のブーケを投げて、招待客の誰かが受け取る。

 受け取ったものに幸せのおすそ分けを、と言う前世日本でも良くある行事だ。


 (女性陣は張り切ってるなぁ……)


 ブーケを取る事で〔次の花嫁になれる〕というジンクスが、こちらの世界でも存在するようだ。

 当然婚姻を目指す方々はやる気満々。

 ……その中にエルマも混じってるのはちょっと不安だったりもする。


 「……で、聖女様は混じらなくていいんですか?あと付き人はどうした?」

 「一応聖職者かつ、進行側の人間になってしまったので控えてます。あの子は後処理任せて置いてきました。あの子が付いてると変装も意味が無いので」


 先程までアリシアが立っていた場所には、いつの間にやら変装した聖女ジャンヌが立っていた。

 わざわざマジックアイテムまで使って変装している。

 先程の光景を見て、素顔でこの場に来るのは主役食いにも等しいと認識したのだろう。

 

 「聖職者ってこういう行事は禁止なのか?」

 「そんな事はありませんが、やはり婚姻に関する縛りはありますから〔次の花嫁になれる〕なんてジンクスのある催しには消極的にはなりますね。婚姻=聖職者として引退に繋がりますから「聖職者を辞めたい」と取られる可能性もありますし……まぁそれも堅物さん達が言っているだけで、わざわざそこまで指摘する無粋な人も居ないでしょうが」

 「そうか。ところで結婚願望無しって言ってたアリシアが張り切ってるのは理由があるのか?」

 「あの子は()聖職者ですから。階級が下の子程その手の外聞を気にせざる負えないので、今まで参加した事が無かったんじゃないでしょうか?」


 つまりは単純に「やってみたかった」だけなのだろう。

 そして周囲の女性陣の表情が真剣そのものなのに対して、アリシアだけ緩い表情をしているのは決意と覚悟の差であるのだろう。

 良くまぁそれであの戦場に混ざろうと思ったものだ。


 「来ましたね。始まりますよ」


 そしてやって来た新郎新婦。

 女性陣の戦いが今始まる。

 そしてその勝敗は――。


 「「「じー……」」」

 「……俺って無実だと思うんだけど、この場合はどうしたらいいと思う?」

 「どうしようもないので大人しく針の筵で居てください。これは流石に弁明出来ませんので」

 

 さっとカイセの側から少し距離を取るジャンヌ(変装)。

 ブーケ争奪戦を制したのは、何故か離れた場所で見守っていたカイセであった。


 (そんなに欲しいならちゃんと掴めよ……)


 さながら特売バーゲンセールの様相を呈していた戦場。

 集団に投げ込まれたブーケは、もみくちゃの中で取り損ね、跳ねて、何故かカイセの頭上へと飛んできた。

 後ろには誰もおらず、このままでは地面に落下するのみだったため、反射的に手を出してしまった結果、こうしてカイセの手元へと収まった。


 「……なるほど。私が取らずとも、逆にそういう形でもアリですね」


 戦場の女性陣の視線がカイセに突き刺さる中で、エルマは一人そんな事を呟く。

 あの子は何だかんだでカイセの目の前以外ではアグレッシブな気がするのは、ただの気のせいなのだろうか? 

 本当に内気な子だったのだろうか。


 「……要る?」

 「それを私に渡すと、私への求婚に取られてしまいますけど、本当に私に下さるんでしょうか?」

 「もう本当にめんどくさい……」

 

 そんな訳で、しばらくの間居心地の悪い時間を過ごす事となった。

 いっそ逃げたい気持ちにも駆られたが、用事がまだなので帰る訳には行かなかった。

 これほど用事が待ち遠しかった事は今まで無かったと思う。

 


 「――よく来てくれた。呼び出したのは弟だが、なにぶん今は引っ張りだこでな。私が話をさせてもらおう」


 その後に案内された部屋。

 そこで会ったのは本日の主役であり、呼び出しの張本人であるグリマではなく、その兄のダルマであった。


 「いえ、今日の主役ですから仕方ないでしょう。それで…早速聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 「あぁ。話と言うのは他でもない、カイセ殿に仕事の依頼(・・・・・)を出したいのだ」


 手紙ではなく、わざわざ直接面会しての依頼。

 それだけ大事な内容なのだろう。


 「あっとその前に……まず確認したいのだが、カイセ殿は〔転移魔法使い(テレポーター)〕もしくはそれに類する《転移》の使い手なのだな?」


 部屋は防音。

 中にはカイセとダルマ。

 聞き耳立てた存在の気配も無い。

 ここでどんな話をしようと、当人だけで完結できるだろう。


 「はい。職業としてのテレポーターではありませんが、《転移魔法》は問題なく扱えます」


 カイセとしても、言いふらす内容でもないが、頑なに秘する内容でも無い。

 こうして真面目な場にて問われたなら、不必要に隠すつもりも無い。

 そもそも初めてフロスト(+透明人間)に村で遭遇した際に、《転移陣》について話してしまっている。

 今回の話もそこから来たものだろう。


 「そうか……ならば依頼の内容に入ろう。カイセ殿に頼みたいのは単発の〔転移護衛〕。グリマに付いているフロストの役割だな。護衛対象に危機が迫った際に《転移》を使って脱出する。その役目を頼みたい」


 要するに護衛対象に同行し、有事の際には脱出の為の足になってほしいと。

 誰かを守る為の仕事であるのなら、カイセとしても無碍には出来ない。

 とりあえず話だけでも聞ける範囲でしっかりと聞こう。

 

 「どなたの転移護衛ですか?」

 「私の妹のエルマだ」



 



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