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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第三章:貴族の婚活騒動
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究極回復薬と白馬の王子様



 「――まずは訂正をしておきましょう。冒険者ダルマの一行(パーティー)は、確かにダンジョンを攻略して、最深部にある宝物を手に入れました。それによってエルマの視力も快復しました。ですが……公表されていませんが、実際に手に入れたのは〔万能回復薬(エリクサー)〕ではありませんでした」

 「ん?けど高性能回復薬(ハイ・ポーション)じゃ視力は戻らなかったんだよな?」

 「ハイポーションでもありません。彼らが手に入れたのは、エリクサーの()となる〔究極回復薬(ハイ・エリクサー)〕だったのです」


 聞き覚えの無い〔究極回復薬(ハイ・エリクサー)〕。

 ダンジョン報酬に関しては一度調べたことがあるが、ダンジョン内で確認されたことのあるアイテムにそれは載っていなかった。

 

 「聞き覚えが無いのも無理はありません。歴史上、そのような回復薬が見つかった事は一度もありません。つまりは世界初の大発見になるのです」


 それを聞き、カイセはとある存在の横顔が脳裏に横切ったが、今はとりあえず置いておこう。


 「……快復したって事はそれをエルマに使ったんだよな?エリクサーとの違いは?」

 「実例が一件のみなのでハッキリと断言は出来ませんが、まずどんな病や怪我・部位欠損ですら治すという点はエリクサーと変わりません……ですがハイエリクサーの場合、どうやら治し過ぎる(・・・・・)ようなのです」

 「治し過ぎる?」

 「エルマのステータスはご覧になりましたか?」


 カイセは以前見たエルマのステータスを思い浮かべる。

 そして合点が行った。


 「……"神眼"。それにまつわる〔魔眼系〕のスキルは生まれもってや鍛えて得たものでは無く、ハイエリクサーを使ったことで手に入れたものなのか?」

 「その通りです。元々のエルマのスキルはもっと平凡、眼に関するスキルは全て後付け(・・・)で手に入れたものになります」


 あくまでも回復薬は、何かしらの理由でマイナスとなった肉体をプラスマイナスゼロの正常値に戻すのが役割だ。

 性能により戻しきれないのは仕方がないが、話のハイエリクサーはゼロ地点を通り過ぎ、スキルが付与されると言うプラスに転じてしまっている。

 こんなもの、もはや回復薬と定義して良いのかすら疑問だ。


 「ちなみにこの件は国からのお達しで全て秘匿事項ですので、何処にも漏らさない様にお願いします」


 公表出来る訳がない。

 エリクサーというだけでも求めるものが多い代物。

 それが〔スキルを高レベルで複数獲得できる〕可能性があると言うハイエリクサーは、良くも悪くも大きな影響を及ぼす。

 前世で話に聞いたツチノコブーム。

 スキルを求める者、一攫千金目当ての者達、生半可な実力の者が多くダンジョンに足を踏み入れる状況になれば、かなりの死者が出てくるだろう。

 だからこそ容易には公表できない。


 「――それで、エルマの話でしたね。そうして病を克服し、視力を取り戻し、"神眼"まで得たエルマでしたが、少々問題が起きたのです」

 「問題?」

 「えぇ。カイセ様はエルマの瞳の色(・・・)が覚えていますか?」

 「確か()だったな」

 「……エルマも、本来の瞳の色は兄妹揃いの色でした。ですが視力を取り戻し"神眼"を手にしたエルマの瞳は今のような緑に変化してしまいました」


 ハイエリクサーの副次効果か、もしくは"神眼"の影響かは分からない。

 だがその変化は、快復したエルマに目に見えるマイナス(・・・・)をもたらした。


 「決して多かった訳ではありませんが、確かにエルマにも同年代の友達と呼べる存在が居ました。ですが大病に次いで視力を失い、快復したエルマの瞳の色は変化した……貴族の交友関係の中ではこの過程は忌避されるものでした。特にエルマは女性ですから」


 これが男、ましてや冒険者や武人あれば多少の部位欠損は勲章として捉えられる事もある。

 だが貴族社会の交友関係の中、しかも女性であれば話が厳しくなる。

 この変化は『世継ぎを生ませる』という貴族らしい観点からは〔健康な母体〕としての資質を疑われる。

 その容姿ゆえに狙う者の多かった婚姻絡みの話も、おかげで一気に遠のいていく。

 例え専門家から「問題なし」というお墨付きを得ていたとしても、一度付いた疑いは精神的な壁になる。

 ――そして、ハイエリクサーについて公表出来ないのも問題だ。

 通常のエリクサーで瞳の色が変わる事は無い。

 ゆえに瞳の色の変化の理由を語れない。

 原因不明として、事情を知らぬ者には気味が悪く映る。


 「視力喪失自体を〔天罰〕や〔呪い〕と噂する者も居れば、瞳の色の変化を〔禁術に手を染めた結果〕と疑う者も居ます。極一部の方々だけですが。……そんな根も葉も無い噂が独り歩きして、おかげで女友達まで離れて行ったみたいで……正直、そういう事情もあったのでアリシアさんをお友達候補として紹介したのもあります」


 噂はともかく、その離れて行った子達には恐らく悪意など無いのだろう。

 身を守る為の防衛行動。

 だからと言って悲しみが無くなる訳ではないが。

 そう考えれば、友達候補としてアリシアに目を付けたジャンヌの判断は正しかった気がする。

 あれは結構単純だったりする。


 「……まぁ外堀を埋めると言う理由もありましたが」

 「何の外堀か聞かせて貰っていいか?」 


 カイセの質問は無視された。 

 話は本題へと入る。


 「視力を取り戻して人生これからって時にそんな事になってしまったエルマも、当時は落ち込んでしまい……ご家族の判断で別荘に精神的な療養に行かせ、ようやく落ち着きを取り戻して帰路へと着いた旅路に、乗ってる馬車が盗賊に襲われました」


 相当にキツイ人生を歩んだ上での追い打ち。

 不運に次ぐ不運。

 それこそ運命を呪っていても――


 「――ん?馬車が盗賊に襲われる?」

 「そうですよ。これがその概要です」


 ジャンヌは一枚の紙をカイセに差し出す。

 そこには事件の詳細が記載されていた。


 「単刀直入に聞きますが、その〔仮面の男〕はカイセ様ですよね?」

 「……はいそうです」


 カイセが王都に向かう際に使用した《転移》。

 その一回目の転移先、そこで遭遇した盗賊と被害者の馬車一行。

 あの中に居たのがエルマだったようだ。


 「……もしかして視られた?」

 「本人は仮面の男について何も知らないと話しているみたいですが、あの子のスキルを考えれば遠目に仮面でも問題なく正体は見破れますよね」


 つまり盗賊共を捕縛していた時点で、あの場に居たエルマには〔仮面の男=カイセ〕であると知られていた訳だ。


 「散々苦労した上での盗賊襲撃。命の危険も感じて、自分の人生を呪ってもおかしくないような状況で窮地を救ってくれた存在って〔白馬の王子様〕に見えても不思議じゃないですよね?」

 「……白馬もなければ王子でも無いんだけどな」

 「比喩だって分かってて場を誤魔化そうと言ってますよね、それ?」


 そしてその後、無事に実家へと辿り着いたエルマは偶然にもその〔白馬の王子様〕に遭遇する。

 結果、空想の想いが現実に形を得た。


 「ガラじゃないし、もっと他に良い男も居るだろう……自分で言うのも何だが、俺相当面倒な部類の人間だと思うぞ?」

 「〔恋する乙女〕に理屈も損得も容姿も理由として通用しませんからね。一応カイセ様にとって幸運だったのは、エルマが美少女でお金持ちで大人しい子という点ですね。結ばれるには好条件ですよ?」

 「いや、俺まだまだ結婚とかするつもりないから」


 好条件なのは認めるが、そこで「はい喜んで」と行ける程に精神強くも無い。

 前世で彼女いない歴=年齢だった男が、異世界転生程度で早々積極的になれるものでも無い。

 

 「となると…どう躱すのが一番良いと思う?」

 「そこで「きっぱりと振る」という選択に至らない辺りに微妙な迷いを感じますね。――ちなみに私は当然エルマを応援しますので、彼女を退ける為の相談は受けられません」

 

 


 

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