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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第三章:貴族の婚活騒動
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婚約破棄



 「――申し訳ありません。少々お待ちください」


 カイセがやって来たのはいつもの教会、聖女ジャンヌの部屋。

 既に何度目になるかは分からないが、こうして教会にはバレない様に訪れる事に、完全に抵抗は無くなっていた。

 

 「……出直した方が良いか?」


 何やら作業中のジャンヌ。

 確認したい事があったのだが、流石に邪魔をするつもりは無いので日を改めるべきだろうか。


 「いえ、すぐに片付くのでもう少々……あった。えっとまずは――」


 探し出した書類に記入を始めるジャンヌ。

 カイセは本当にここに居て良かったのだろうか。


 「後はこれを朝一番に提出して……はいお待たせしました」


 どうやら作業も終わったようで、道具を片してカイセに視線を向けた。


 「邪魔じゃなかったのか?」 

 「いえいえ、ちょっと婚約破棄(・・・・)に伴う諸々の準備をしていまして」

 「そうか……ん、今なんて言った?」


 何やらスルーした方が良い気もするが、流石に無視できないような言葉が聞こえた気がする。

 カイセも反射的に訪ねてしまった。


 「〔婚約の破棄〕です。エルマと話してこちらに来たのなら私がダルマと婚約関係にあったのは聞いてますよね?それを破棄する事になったので、その準備をしてました」

 「またさらっと重い話を……それは聞いて良かった話なのか?」

 「明日には公表されますから問題はないです。それに実情としてはそこまで重い話ではありませんよ?……そう言えばカイセ様は、エルマについてのお話を聞きに来られたんですよね?」

 「用件まだ言ってないんだが、まぁ本題はそこだな」

 「なら全部まとめて順番に語ってしまいましょうか。少し長くなるのでお座りください」


 何度目かの来訪で、初めて接客用の椅子に座るように促された。

 さっと紅茶も出てきたあたり、じっくりと話をしようという意気を感じる。

 そしてジャンヌは語りだす


 「――始まりはちょうど四年前でしたね。当時十歳のエルマは、ある日大病を患ってしまいました。通常の回復薬(ポーション)程度では治せない為に致死率は高いとされる病です。治すには高性能回復薬(ハイ・ポーション)が必要になり……ハイポーションに関しての知識は?」

 「あるから大丈夫。分からない事があったらこっちから聞くから」


 高性能回復薬(ハイ・ポーション)回復薬(ポーション)の上位互換。

 現状、各国で研究も続いているが、人の手によって精製が成功した例は存在しない。

 カイセも回復薬(ポーション)は作れるが、高性能回復薬(ハイ・ポーション)は一度も成功しない。

 その為に、僅かに出回っている高性能回復薬(ハイ・ポーション)は、その全てが〔ダンジョン産〕となる。

 

 「失礼しました……エルマの病の治療には高性能回復薬(ハイ・ポーション)が必要。ですが高性能回復薬(ハイ・ポーション)は金額もさることながら、何よりも市場に出回る数がかなり少ない。その為、日頃から両家で交友があり、子供同士も幼馴染のような関係にあった私の実家(・・・・)が確保に協力する事になりました」


 ダルマとジャンヌが幼馴染。

 大元の接点は親同士か。


 「もしかしてジャンヌも貴族家の出身?」

 「いいえ、身分としてはうちの実家は普通の平民ですよ。ただちょっと特殊(・・)なだけです」


 こちらからすればその〔ちょっと特殊〕がちょっと怖い。 

 裏家業の方々ではないよな? 


 「聖女としては個人の生死に深く関わるべきではないのかも知れませんが、そこはまぁ裏でコソコソしながら私も協力してました。その結果、何とか高性能回復薬(ハイ・ポーション)は確保する事が出来ました」


 そのコソコソも気になるが、話が進まなくなるので自分の好奇心と恐怖心を抑えて黙って聞く。


 「その高性能回復薬(ハイ・ポーション)でエルマの病は癒えました。ですが病により失った視力は何故か戻りませんでした」


 完全なる盲目ではないが、殆ど見えない状態であったという。

 後遺症とでも言うべきなのだろうか。

 

 「その後、何とかして二本目の高性能回復薬(ハイ・ポーション)を手に入れ使用しましたが目には効果は無し。命は助かっているとはいえ、やはり視力は取り戻してやりたいと考えていたダルマが希望を託したのは、ダンジョンの〔万能回復薬(エリクサー)〕でした」


 存在する中で最高の回復薬。

 ダンジョンの最奥でかなりの低確率で出現する、五十年に一度出るか出ないかと言う程の幻の回復薬。

 高性能回復薬(ハイ・ポーション)でダメならば、確かに望みは上位互換であるそこへ行くだろう。


 「それを手にするにはダンジョンへ……しかも深部へと進まなければ可能性もありません。その為冒険者に依頼を出す必要があったのですが、万能回復薬(エリクサー)絡みの依頼は基本的に誰も受けてはくれません。理由は分かりますか?」

 「割りに合わないからじゃないのか?」

 「その通りです」


 ダンジョン深部は一流冒険者であれど苦戦し、危険と隣り合わせになる場所。

 そこへ向かうならば相当な実力と覚悟が必要になる。

 そして狙いは万能回復薬(エリクサー)

 売ればどれだけの金額に化けるか、少なくとも一般冒険者の一生分以上の稼ぎになるのは確定的。

 それを取って来て依頼主に渡せと言うのだから、提示するべき報酬額も相当になり、貴族と言えどもそう易々は用意できない。

 特に二本のハイポーションで出費がかさんだ直後であればなおの事だ。

 当然割りに合わない額を提示しても、冒険者からすれば売却狙いで自主的に潜ったほうが実入りは多くなる。


 「だからダルマは自分でダンジョンに潜る事を決めました。幸い才能はあり仲間にも恵まれてましたから可能性はゼロではありませんでした。それだけで遂げられる難易度では無いですが」


 だが結果を見れば分かる通り、ダルマはダンジョン攻略を成し遂げた。

 だからこそエルマはああして視力を取り戻している。


 「実はこの過程で一つ問題がありまして……エルマが病に罹るまでのダルマは、何と言いますか女癖が悪い男でして、その辺りの問題を一掃し、冒険者業に集中する為に私との婚約を公表したのです」

 「……つまりは女避けの、形だけの婚約だったのか?」

 「その通りです」


 それは何ともお人好しな。

 知り合いだからこそかも知れないが、そんな要らぬ恨みを買いそうな立場に自ら足を踏み入れるとは……

 場面として適切ではないかもしれないが、目の前の聖女が初めて聖女らしく思えた。


 「でも良かったのか?聖職者は結婚出来ないんじゃないのか?」

 「そうですね。結婚するならば引退、教会を離れるのが普通ですが…あくまでも婚約だったので、然るべき手順で申請をしておけば――」

 「あぁ、意外と融通が利くんだな」

 「……皆さん、教会を何だと思っているんでしょうね?どうも堅物の集まりのようなイメージが出回ってる気がするのですが……とにかく、今はもうその必要も無くなったので、特例解除の手続きに必要だったのが先程の書類です」


 詳しくは分からないが、どうやらカイセのイメージ程には教会も堅物揃いと言う訳でもないようだ。

 

 「そして時間は掛かりましたが、ダルマは仲間と共にダンジョン攻略まで達成してしまいました。そして持ち帰った目的の回復薬……これがまた難物でした」




 

6/13

ポカがあったので再投稿させて頂きました。

ご迷惑をおかけしました。

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