女神がポカして、次期聖女が二人?
「次期聖女が二人?」
アリシアに聞いた話。
まずはアリシアが教会を破門された経緯であったのだが……。
〔図書館〕で調べた知識によると、次代の〔聖女〕の選定手順は決まっている。
まずは各地を回り、《鑑定》とも異なる特殊な〔マジックアイテム〕を用いて〔聖女候補〕を探しだし、教会本部へと集める。
聖女候補は皆、生まれながらに〔聖女適性〕を持っているらしい。
その適性を持つ者を集め、聖女になるための修行を行う。
その修行は聖女適性のレベルを上げるためのものであり、最終的に最も適性レベルの高かった者が次の聖女となる。
「アリシアは〔聖女適正レベル10〕だよな?〔女神〕に選ばれた最大レベル…それに対抗できるのは同じレベル10だけじゃないのか?」
「……その通りです。私ともう一人、その二人が共に〔レベル10〕だったのです」
図書館から得た知識によると、元々聖女になるための修行で上げられるレベルは9が上限らしい。
修行を終えた時点でもし最高レベルの者が複数居た場合は、〔女神様の意志〕により次期聖女を選ぶ。
厳密には女神様が聖女として気に入った者の〔レベルを+1〕するらしい。
つまり8ならば9、9ならば10にして差をつけ、一人に絞るのだ。
聖女候補が自力で辿り着けるレベル上限が9のため、その〔女神の+1〕が無ければレベル10には到達できない。
つまりは〔レベル10〕となった時点で、次期聖女確定のはずなのだが……。
「〔レベル10〕が二人……それで騒動になったと」
「はい」
カイセは半ば確信していた。
「また女神がポカしたな」と。
「その後、教会の上層部で話し合いを繰り返した結果、私達二人に古い選定方法を適用し、選ばれた者を次期聖女に、選ばれなかった者を破門すると言う形になりました」
その選定方法は話してくれず、読んだ本の範囲にも書かれていなかったため分からなかったが、結果として相手が選ばれ、アリシアは選ばれずに破門されたと言う事だ。
「大丈夫ですよ。私は納得してますから」
カイセの感じていたちょっとしたモヤモヤを読まれてしまったようだ。
「聖女になれればいいなーとは思っていましたが、元々修行の段階で結構無理をしていたんです。確かにその努力が報われなかったのは残念ですが、相手の子は本当に良い娘だったので選ばれて当然だなって気持ちもありますし、何よりこれからは好きな物が食べられます!」
――結局その一点が未練のない理由だったりしないよな?
さっきの食べっぷりを思い返すと真面目にそう思ってしまう。
「教会からは十分な量の謝礼金も頂きましたし、お仕事や何かあった時に使えるように教皇様名義の紹介状まで頂いてしまいました!正直我が家の家宝にしたいです!」
とりあえずアリシアは教会のその後の対応に不満は無いようなので、そこについてはカイセが口出しをする事でもないようだ。
「ですが……それらは全て無くした荷物と一緒で……お金も、家宝も……それに友達から餞別に貰った品々も、家族から貰ったお守りも全て……」
「あー、その事なんだけど、ちょっとこの辺りを見てて」
カイセは床の一部を指差し、その指で円を描く。
するとその床に、指で描いた大きさと同じ〔光る円〕が出現する。
「あ、そこに入らないでね……えっと…あったこれだな。それじゃあ《転送》!」
眩い光と共に、円の中にはそれは出現した。
リュックやら鞄やらポシェットやら、三つの荷物が目の前にある。
「私の荷物です!中は……こっちはある。これはある。こっちは……そんな、お金と紹介状がない!」
どうやら謝礼金としてもらった金貨の入った袋と、教皇名義の紹介状が無いらしい。
「これは何処に……それに今のは」
「君を見つけた知り合いに、その見つけた場所に探しに行ってもらったんだ。そして見つけた荷物を、魔法で《転送》した」
正確には、帰宅途中のジャバに《遠話》で連絡し寄り道して貰い、ジャバを座標マーカーにして見つけた荷物の座標を確認、そのままここへ《転送》した。
転送では生物を送れないため、荷物だけここに転送された。
ジャバは今頃再び帰路に着いているだろう。
明日のおやつは腕によりを賭けねば。
「《転送》……そんな高等魔法まで……まさか賢者様では!?」
「いや、違うから」
とりあえず信じてくれたようなので良かった。
もしかしたら自分達が盗賊扱いされるかもと思ったが、普通に考えなくても周りくど過ぎるので大丈夫だったようだ。
「どちらにせよ、ありがとうございます!多分お金と紹介状は……私を襲った方々に持っていかれたのだと思います」
アリシアの話は続く。
破門となったアリシアは、この荷物を持って実家へ帰る事になった。
その道中で、何者かに襲われ気を失い、気が付くとこの家のベットで横になっていたという。
「ちなみに犯人に心当たりは……まぁ教会絡みなら普通にありそうだね」
「……教会の判断として私は破門になりましたが、それだけでは一部の方々の不安取り除くことが出来なかったのだと思います。私が生きていると不都合が起きると考える方が……」
そう言った内部の派閥争いを避けるためにアリシアは破門されたのだが、破門後も〔聖女適正レベル10〕の事実は消えない。
その為破門だけでは安心できずに、アリシアの存在を快く思わない者達の誰かの手によって襲われたのだと思う。
〔もう一人の次期聖女候補が存在する事に不利益や不安を感じる〕。
そんな誰かに。
「要するに、破門されたとはいえレベル10の聖女候補がもう一人いると色々と困りそうな方が、アリシアを襲い、わざわざ《転移》魔法まで用いて、人目が届かず自力では帰る事も出来ず処分も魔物が勝手にしてくれる〔魔境の森〕にアリシアを送り込んだと」
「多分そ…う…あの、今なんて言いました?」
アリシアがとっさに椅子から立ち上がった。
何をって……あぁ、そう言えばこの場所の話をしていなかった気がする。
「えっと……ここは俗に言う魔境の森の中でして、まぁ要するにアリシアが飛ばされたのは〔ラグドワの森〕だったんだよと……あ、眩暈がするならとりあえず座って…お茶のおかわりは要る?それとも何か食べ物でも持ってこようか?」
ここはラグドワ、魔境と恐れられる森。
泣く子も黙るどころか、恐怖でまた泣きだすような危険地帯。
カイセは既に慣れてしまったが、そんな場所に居ること自体が一般人には異常なのだ。