アーロン家の人々
個体名:ダルマ・アーロン
種族:人族
年齢:26
職業:貴族/A級冒険者
称号:"貴族家次期当主""ダンジョン攻略者"
生命:280
魔力:060
身体:300
魔法:050
魔法(強化) Lv.4
特殊項目:
毒物耐性 Lv.6
苦痛耐性 Lv.5
身体強化 Lv.4
体力回復促進 Lv.5
魔力回復促進 Lv.1
自己暗示 Lv.3
直感 Lv.5
カイセはその眼に映るダルマのステータスを見て、純粋に驚いた。
ステータスもさることながら、揃えられたスキルの一覧。
がっしりとした体格に、今は軽装の装いではあるがだからこそなお目立つ腰の剣と背中の盾。
国お抱えの〔三従士〕クラス。
聖剣込みの勇者ロバートすら相手にして勝ててしまうような力が示されていた。
(ダンジョンに潜るならパーティー単位。この人に付いていけるパーティーメンバーが揃っているのなら、なるほど確かにダンジョンを攻略出来ても不思議ではないだろうな。あくまでも要素はそれだけじゃないだろうけど)
そんなダルマの後に続いて、カイセとフロストは再びお見合い会場となっている部屋へと足を踏み入れた。
「ただいまグリマ!元気にしてたか?」
「兄様!?え、もう…予定よりも随分と早かったですね」
「妹の帰宅とお前の見合い、急ぐ理由としては充分だろ――それで、この子がその相手か」
「は、初めまして。アリシアと申します」
「私はグリマの兄ダルマだ。それで……ふむふむなるほど」
ジロジロとアリシアを眺めるダルマ。
マナーとしてはとても失礼だとは思うが、完全にペースを奪われていて誰もそれを指摘しない…というより出来ない。
そのガタイに気圧される。
「……なるほど良さそうだな。グリマの想い人と言うからどんな相手かと思ったが、これなら俺もこの見合いには賛同しよう。……ちなみにエルマはまだ帰ってないのか?」
「兄様!ちょっと来て!!」
「お、おお?」
「皆さま、少々お待ちくださいませ。ダルマ様、失礼します!」
グリマとフロストが二人がかりでダルマを部屋の外へと押し出していく。
そして部屋にはアリシアとカイセの二人だけが取り残された。
「――兄様!いきなり来て何を言いだすんですか!!」
「何って、次期当主としてこの縁談の後押しを……」
「それならもう終わりました。振られましたから!」
「ん?」
部屋の外での会話は全て部屋の中に伝わっていた。
出来ればもっと余所でやって欲しい。
「……もう振ったの?」
「え、あ、はい。元々そのつもりでしたし、少しお話をして特に揺らぐこともなかったので」
あっさりと言いきるアリシア。
別行動してそこまで時間は経っていなかったが、既にお見合い話は片付いていたようだ。
「……そうか、それは残念だったな。だがまぁ時にはそういう事もある。俺だって失恋の一つや二つ経験がある。ショックだろうが人生それで終わりではない。生きてればまた良い事は――」
何やら人生語りが始まっているようだが、そういうのは本当に後にして欲しい。
「大丈夫だよ兄様。元々が望み薄なのは理解してたから。ちゃんと気持ちを伝えられて良かった」
「そうか……俺が家を離れている内に強くなったな」
「一年も経てば多少はね」
「そうだな……おっと、そういえば客を待たせていたのだったな。邪魔をして悪かったな。私は父上のもとへ顔を出してこよう」
「うん……また後で兄様」
「おう。後でな」
そして会話を打ち切ったグリマが、フロストを伴い部屋へと戻って来た。
「待たせてしまってすまない」
「いえ、それでお話の方は先程の――」
「こちらの我儘でわざわざ手間を取らせて済まなかった。貴方の気持ちは確かに理解した。この話はここで終いとしよう」
「……はい。分かりました」
こうしてアリシアのお見合い話も、一応の決着となった。
「この後はどうなさいますか?私どものほうで昼食の準備もさせて頂いております。もしよろしければ――」
「あ、いえ、お気遣いなく。私たちはこの辺りで失礼させて頂きたいと思います」
向こうとしてはお見合いの流れでの昼食の準備もしていたようだが、アリシアは遠慮する。
カイセには「終わったなら早く帰りたい」という意志を感じた。
この家がどうこう言う問題では無く、自分が降った相手といつまでも居る事が気まずいのだろう。
「そうですか。それなら馬車の準備を――」
「お気遣いありがとうございます。ですが帰りの伝手として私の《転移》もありますので、お気持ちだけで十分です」
「そうか…そう言えばあの《転移陣》はカイセ殿の……となれば仕方はないか。馬車と《転移》では移動の質は比べるまでも無いからな」
まるで見てきたかのようにグリマは語るが、やはりあの場に居たらしい〔透明人間〕はやはりグリマだったようだ。
貴族自ら出向くのであれば、護衛兼転移魔法使いが遣いとして出向くわけだ。
「ならばせめてこれを……うちのシェフに作らせた菓子だ。土産として持って帰ってくれ」
「ありがたく頂戴いたします」
流れるような所作で速攻で受け取るアリシア。
きちんと態度に出ない様に抑えているようだが、菓子と聞いて急に機嫌を戻している気がする。
色気よりも食い気、花より団子。
アリシアに婚姻などまだまだ先の話になりそうだ。
「それではお開きとしよう。今日は遠路遙々苦労を掛けた。だがおかげで有意義な時間を過ごすことが出来た、礼を言おう。――もしも今後、何か手に負えない事で困る事があれば、知人として遠慮なく私たちを頼ってくると良い。その時は力になろう」
「ありがとうございます。もしもの時はぜひ」
「うむ。フロスト、見送りを頼む」
「畏まりました。それではどうぞこちらへ」
「それでは失礼します」
「うむ。達者でな」
こうしてカイセとアリシアは、ようやくその場を後にすることが出来た。
そのまま屋敷の外へ出る。
「カイセ殿。こちらを」
そして別れ際、フロストが一枚の〔小さな紙〕をカイセに手渡してくる。
「手紙の〔マジックアイテム〕です。片道のみですがそちらで手紙を送れば私のもとに届きます。何か困ったことがありましたらそれを……」
「……ありがどうございます。受け取らせていただきます」
正直言えば貴族よりも同じ転移使いとの接点が出来るほうが在り難い。
これが役に立つ日が来るかは分からないが、カイセとしては拒否する理由も無かったのでそのまま受け取る。
「お世話になりました」
「いえ、こちらこそご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。気を付けてお帰り下さい」
「はい。それでは失礼します」
最後の挨拶を終え、ようやく二人はアーロン家から解放された。
屋敷が見えなくなるぐらいにまで離れた二人の顔には、分かりやすく疲れが見えていた。
「……結局何だったんでしょうね」
「俺に聞かないでくれ。今回は巻き込まれた側なんだから」
「ご自分から巻き込まれに来ていた気もしますけどね」
事実、カイセとしては関わらない選択も出来たはずだが、自分からその選択を外へと追いやっていた。
次からはもっと考えて首を突っ込むことにしよう。
「――見つけた」
そんな中、疲れた二人に聞こえた声。
そして近づく足音。
誰かがカイセの腕を掴む。
「えっと……どちら様で?」
カイセの腕を掴んだのは一人の少女であった。
「あの……その……好きです!」
「ん?」
「……あれ?」
唐突な告白。
そして何故言った本人が困惑しているのだろうか。
ひとまずカイセは《鑑定》で相手の素性を確認する。
「……この流れはなんだろうなぁ」
視えたのは【エルマ・アーロン】。
アーロン家の次女。
グリマ・ダルマの妹の名前であった。