二章エピローグ/扉を叩くは次なる騒動
「――こんにちは……返事無し。留守だったりして……何してんの?」
土産を携え、王都の教会から〔女神空間〕へとやってきたカイセ。
本来ならそこで女神が待ち構えているはずなのだが、何故かその女神本人は、膝を抱えて空間の片隅に引きこもっていた。
「……どうせ私は嫌われ者ですよ」
なるほど、どうやら王様が「女神が嫌い」と発言した事で拗ねているようだ。
なるほど、めんどくさい。
「そうか、じゃあ嫌われ者さんにはお土産も必要ないな」
「お土産ですか?何でしょう何でしょう?」
現金な事に先程までの落ち込むを何処かへと放り投げ、そそくさと寄ってくる女神。
調子良すぎないだろうか?
「……まぁ良いや。ほいお土産」
女神が差し出した両手に、ポンとお土産を置いた。
「……何ですかこれは?」
「お土産屋の〔木彫り女神像〕」
それはお土産屋で見かけて、即座に要らないと思った女神像であった。
だがせっかくなので、女神へのお土産として自分用のフクロウ像と共に購入しておいた。
いわゆるネタ系のお土産扱いだ。
「……何処の世界に自分の像をお土産に貰って喜ぶ人が居るんですか?」
「俺は嬉しいよ?あくまでも気持ちの面だけでは」
「私も気持ちだけの面では嬉しいですよ?」
「なら良しってことで」
強引に纏めるカイセ。
女神は納得がいかないようだが、渋々部屋の隅にその女神像を飾る事にしたようだ。
「――まぁ何にせよ、上手く纏まったようで良かったです」
「纏まったって言うのか?あれは?」
「少なくとも敵対しなかったのですから充分だと思いますよ?」
「そうなるのかぁ?……ところで、持たされたコレって結局何だったの?」
カイセは預かっていた〔クリスタル〕を取り出し、改めて確認する。
「あぁそれですね。大したことないですよ。それは私が〔神託〕を伝える際の、いわば〔投影装置〕として使っているマジックアイテムです。教会や王城にも、それの固定設置版が備えてありますよ。持ち運べるサイズのものは素材面でちょっと理由があって鑑定不可ですが、まぁ説明通り害はないでしょう?」
どうやらこのクリスタルは、設置版とは異なり使い切りの神託装置だったようだ。
つまりはこれを使えばその時点で女神からの〔神託〕が降りていたと。
「ちなみに要請されてたらどうするつもりだったんですか?」
「その時はカイセさんの事は〔女神の眷属〕とか適当な理由を付けて保護するつもりでしたよ」
「あぶねぇ…使わなくて良かった……」
この女神の眷属扱いは正直言って嫌だ。
そもそも王様の女神嫌いを考えると、決定的な亀裂にも繋がりそうだ。
本当に使わずに居て良かった。
「それじゃあ返します。アリガトウゴザイマシタ」
「持っておいていいですよ。今後も必要があれば使ってください」
「返します」
「そのままあげますよ」
「返します」
「……いっそ〔装備解除不可〕の〔呪い〕でも付与しましょうかね?」
「お預かりさせていただきます」
カイセは渋々アイテムボックスの奥に押し込んだ。
そんな呪いは神剣だけ十分だ。
「ところで、あの後廊下で勇者達と鉢合わせしそうなルート取りしてましたけど、結局どうなりましたか?」
「バッチリ鉢合わせましたよ。こっちは〔仮面〕付きでしたが」
王様との話し合いが終わり、いざ帰ろうとなって王城内を移動していた時にバッタリ勇者と三従士に遭遇した。
〔仮面〕を付けていたのでカイセであると認識される事は無かったが、別の問題が発生した。
「……周囲の目がある中で、四人揃って「ありがとうございました」って頭を下げられましたよ。使用人とかの視線が集まって仕方なかったです」
この仮面は、勇者を魔境の森の外の宿へと送り届けた際に付けていた物。
その図柄を、宿の受付さんはしっかりと記憶しており、それが勇者一行に正確に伝わっていたらしく、カイセの仮面を見た途端にその時の人物とばれてしまった。
そして勇者を助けた事に対してお礼を言われた。
律儀というか真面目というか、おかげで要らぬ注目を集めてしまった。
「まぁ、相手が勇者なら不真面目よりも真面目なほうが好感は持てるのかな」
「実は今までの勇者の中には勇者だからと横柄な態度を取る者も少なからず居て、その話を先達から聞かされているせいか、使用人の方々には実力は伴わないが真面目で偉ぶらない今代の勇者はそれなりに好感度高めなようです。まぁ聖剣所持や魔境の森の事など、時折我儘を言うのは傷みたいですが、あくまでも勇者としてあろうと言う意志の表れですから、一応納得はされてるみたいです」
内実共に勇者らしくないと言えばらしくない勇者であるが、あれはあれでそれなりに受け入れられているようだ。
「まぁ聖剣を抱えて眠るのは、使用人から呆れられてますけど」
「城でもそれやってんのか……」
そこが無ければもう少し……。
いや、もはや言っても仕方がない事か。
願わくば、彼の行く末に幸多からん事を。
そしてこちらへ面倒事を持ち込むことのないように願う。
「ところで、カイセさんはこれからどのようなご予定なのですか?」
「予定か……今日はとりあえず観光の続きをして、明日には帰ろうかなと思ってるけど」
「そうですか……なら大丈夫ですかね」
何やら含みのある物言い。
カイセに不安が過る。
「……何をやらかした?」
「やらかした前提で聞くのはやめてください。やらかしてませんから!ただちょっと気になる事が……あぁもう面倒です!カイセさん!出来るだけ早めにお家に帰ってください」
「折角だから観光の続きをして、明日朝一で帰ろうと思ってたんだけど」
「それもカイセさんの判断なら仕方ないですけど……あぁもう!カイセさんに〔神託〕です!自宅に帰るのが吉!」
「それ神託じゃなく占いの話にならないか?」
何かが起きるならハッキリと言って欲しいのだ、女神的には現世にはあまり過干渉は避けたいと言うスタンスがあるのだろう。
手遅れ感はあるが。
正直モヤモヤする伏せ方だが、わざわざ勝手な神託という形まで用いたなら、素直に聞いておいた方が良い気もする。
「……分かりました。まぁメインの用事は済んでますし、今日は真っ直ぐ帰ります」
ここでの用事自体も既に終えていたので、カイセはそそくさと女神空間を後にした。
そしてそのまま予定を変えて、魔境の森の自宅へと直行する事にした。
「……異変は無し。ゴーレムも問題なく稼働してたし、何処が……あれ、アリシア来てたのか」
帰宅したカイセは、部屋のソファでジャバを抱えながら居眠りをするアリシアを見つけた。
抱えられたジャバも寝ている。
「人ん家でまた無防備な……まぁ強力な護衛を抱えてるから大丈夫なのか?護衛も寝てるけど」
頼りになるのかならないのか分からない護衛だ。
そもそもこの家の中であれば早々何かが起こる事も無いので問題は無いとは思うが――
「――ん?何の反応だ?」
などと考えていると、カイセは何処かから違和感を感じ取った。
「反応は……まさかここか」
辿って辿り着いたのは、アリシアの村に繋がる《転移陣》。
違和感はそこから発せられていた。
カイセはすぐさま解析する。
「……向こう側で、無理矢理こじ開けようとしているのか」
元々アリシアには〔転移の指輪〕を持たせている。
本来は行き来するのにこの《陣》は必要ない。
荷物の運搬や消費効率。
大荷物を運ぶにはこちらの方が良かったのだが、こうして干渉されるとなると指輪任せに戻して、《陣》の撤去も考えなければならない。
「とにかく行くか」
カイセは目の前の《転移陣》を使い、アリシアの村へと向かった。
「……で、人ん家の玄関をどんどんブッ叩く迷惑なやつはお前か」
「お前がこの《転移陣》の主か」
そこで待っていたのは、見た目は壮大なマッチョなのに、装備も適性も完全な魔法使いスタイルの大男であった。
「アリシア様はこの向こう側だな?我が主がアリシア様をお呼びだ。彼女のもとまで案内して貰おう」
どうやら目的はカイセでなく、アリシアのようだ。
あの子も大概面倒を引き寄せる体質なのかもしれない。
……女神も否定はしていたし、今回はめがポカ関係ないよな?