神剣の守り人
「――なるほど、確かに記録と一致する部分が多いな」
カイセは王様達に対して、〔神剣〕の持つ既存能力を全て明かした。
だが明かしたのはあくまでも既存能力のみ。
〔能力作成能力〕は明かせない。
開放条件があるとはいえ、その異常性を再確認した事で尚更この神剣の存在が重くなった。
「これだけの…ここまでとなると、最早雑多な話は不要か」
王様から漂う気配。
強く重いプレッシャー。
それは魔境の森の魔物にすら劣らない程の威圧であった。
部屋全体が重い空気に支配される。
ここは完全に王様の領域として飲みこまれた。
「手っ取り早く聞かせて貰おう――カイセ殿は我らの敵か?」
「……違います。私にこの国に仇成す意志はありません」
「それをどう証明する?」
「証明する方法は……現状は思い浮かびません」
少なくとも今のカイセ自身にその方法は浮かばない。
「信じてもらうしかありません」
「それならば……女神様に誓えるか?」
明確な罰が下る訳ではないが、女神信仰のこの国でそれは重い誓いになる。
だがカイセは……。
「えっと、ごめんなさい。神様に誓うのは構わないんですけど、女神様以外の…他の神様にしていただけないでしょうかね?」
「それは何故だ?」
「その女神様を信用していないからです」
ハッキリ言って爆弾発言にも思える言葉だが、本心ゆえに仕方がない。
「えっと、女神様が嫌いと言う訳ではないのですが、こう誓いを立てる相手としてはちょっとアレで……いえ、神様が不要とかそういう思想がある訳ではないのですけど!とにかく誓うなら別のものに誓わせて貰えませんか?」
「……では何に誓う?」
「とはいえ他の神様も知らない事が多すぎるし、うーん……この世界そのもの、両親、自分自身……その辺りでお願いします!」
誓う相手としては不足があるかも知れないが、少なくともあのポカ女神にだけは誓ってはいけない。
そんな予感しかしなかったのだ。
「――良かろう。信じよう」
「……え?良いんですか?」
「良い。何故なら私も女神様が嫌いだからだ!」
この国の王様から飛び出た爆弾発言。
女神信仰のお国で「女神が嫌い」は然るべき方々に聞かれれば相当にマズイ発言となる。
教会からクーデターを起こされても仕方がない。
「……カイセ殿。今のは他言無用でお願いします」
王様の側の大臣さんの表情が険しくなる。
発露するのは怒りと呆れ。
その矛先は王様だった。
「国王様?立場における発言はもっと弁えて頂けますでしょうか?」
必死に抑えて丁寧な言葉で語るが、その奥には隠しきれないものが見え隠れしていた。
「事実だもの。私は女神様が嫌いです!……平時に〔象徴〕とか言って必要もないさほど必要もない〔勇者〕を寄越してむしろ仕事増やすわ…そのくせ本当に困ってる時の〔神託〕依頼はお願いしても何も帰ってこないわ……一昨年は年一の祭りに花を添える役目をすっぽかしたのだぞ!?おかげで国民が暴動を起こしかけたんだぞ!?仕事しろ女神!働け女神!」
塞き止めていたもの溢れたのか、不満がダダ漏れになる王様。
カイセはその内のいくつが〔めがポカ〕なのかとつい考えてしまう。
そして女神が真面目に働いてしまうと、相対的にポカも増えそうなので縁起でもない発言だと思った。
「という訳で、私は「女神を信用していない」と発言したカイセ殿に好感と共感を持った。ゆえに信じる!……元々カイセ殿自身の人柄に賭けるぐらいしか対応が無かったのも事実だ。するなと言ってキッチリ止めておけるだけの用意がこちらには無いからな。という訳で私はカイセ殿が神剣も聖剣も無暗に振るう…悪用することの無い人物であると信じよう!」
半ばやけっぱちな気もするが、少なくとも仲違いはせずに済みそうなのは良い展開だ。
仲を取り持ってくれた女神様に、今回は感謝をしておこう。
「ひとまずは……これを渡しておこう」
そうして渡されたのは一枚の〔カード〕であった。
「それは連絡用のマジックアイテムで、そこに書かれた文字は私のもとへと完全な形で伝わる事になる。報告用の一方通行ではあるが、必要になれば連絡をしてくればいい」
なるほど、それは確かに便利かもしれない。
有事に王様が味方に付くかもしれない可能性に繋がるのであれば在り難く預かろう。
「それともう一つ……この国の王として、カイセ殿に頼みがある」
「……何でしょうか?」
「何、あまり硬くなる必要はない。別に「国の為に戦え」等と言うつもりはない。ただ……その神剣、決して誰にも渡す事の無いように頼みたい」
神剣を他者に渡すな。
王様のお願いはただそれだけ。
「カイセ殿が事故とは言え神剣に選ばれた者である以上、その使用には外野が制限を付ける訳にも行かない。神剣を使い戦おうと、金儲けをしようとも止める事はしない。……だがやり過ぎれば敵が現れるという事だけは覚えておいて欲しい」
「……それは勿論」
留守番ゴーレムでちょろっと使ってしまったが、大それたことはするつもりはない。
「だが……それを他者へと渡すような事だけはしないで貰いたい。そうだな…〔神剣の守り人〕として、その剣をずっと守り続けて欲しい。そして然るべき適格者が現れてしまった時には、私たちにもその事を伝えてほしい」
正直、渡せるならとっくに手放している。
出来るなら今ここで王様に投げつけたいくらいだ。
だが神剣はそれを許してくれない。
カイセが役目を果たすまでか、死を迎えるまで離れるつもりはないようだ。
神剣の気が移るほどの適格者……本当に出てくれないだろうか。
「分かりました。然るべきに者受け継ぐ際には、きちんと報告させて頂きます」
「うむ、よろしく頼む。"神剣の守り人"よ」
「……役目はちゃんと果たしますので、その呼び方は止めて貰えませんか?」
「……かっこよくない?」
「他人事ならば」
自分事になれば恥ずかしさしか残らない。
二つ名とか要らない。
「仕方ない。あくまでも書類上のみの暗号名称としておこう」
「え、書類に情報残すんですか?」
「安心せよ。あくまでも私に何かがあった時に次代の王に引き継ぐための秘匿文書だ。カイセ殿に面倒は掛からぬようにしておく」
配慮を約束して貰えるのならばまぁ良いが、何か不安だ。
(……俺って自分で面倒背負い込んでばっかりいる気がするなぁ)
恐らく、気では無く事実なのだろう。