質疑応答
「出自は明かせずか」
「そこは自分個人だけでどうこう出来る話ではないので。後ろめたい事情では無いのでそこは信じて頂ければと。何というか、事情としては馬鹿な話になるので……」
記入した紙を基に質疑応答が始まる。
気になるのは当然出自だが、そこに付いては女神直々にNGが出ている為に話せない。
「魔境の森に住む理由が『快適だから』とは……正気か?」
「確かに危険も多いですが、それさえどうにか出来れば自然豊かで作物の育ちも良く、自然になる果物なども豊富で良い場所ですよ。全部危険ゆえの恩恵とも言えますけど」
「どれだけ快適で恩恵があろうと、その〔危険〕って部分だけで誰も住もうとは思わなくなる場所なんだがな」
もっともである。
ちなみに「最初の頃は他に行き場が無かった」という大前提もあるのだが、経緯は語れないので記入しなかった。
「ステータス類は……まぁ隠すのが普通よな」
「勇者ロバートよりは強いと書かれても、「でしょうね」としか思えないですけどね」
「聖剣込みなら成程だな」
まず比較対象がさほど高くない。
そしてあの森で平然と自由に暮らしている時点で、純粋ステータスなり魔法なりが人類上位クラスであるのは疑いようは無い。
もしくは弱さを補うほどの希少スキルを持つ場合もあるが、そうなればなおの事他者には明かせない。
「予想していた事とは言え、これでは結局大した事は分からな……ん?」
用紙を確認しながら、王様の目は一つの項目を凝視していた。
「〔聖剣の作成方法〕で「神剣を使った」と書いてあるが、これは事実か?」
「はい事実です」
「……〔神剣〕持ってるの?」
「はい。神剣の力で聖剣を作成しました」
何もかもが明かせないのでは、この場に呼んだ意味・呼ばれた意味がない。
だからこそはカイセは、リスクを承知で一番重要な〔神剣の存在〕と〔聖剣の作成方法〕を明かしてしまう事にした。
これこそ明かしてしまえば、他の疑問など霞んでくれるだろう。
「……君は〔初代勇者〕の所縁の者なのか?」
「実情がどうかは知りませんが、自己認識としては全く関わりないです」
同郷の可能性もあるが、カイセは勇者に付いてはおとぎ話や伝説程度の知識しか無いため確認も取れない。
ただ、神剣を手にした工程にその縁が関わっているとは全く思えなかったので関わりは否定する。
「なら勇者か?」
「ただの自由人です。そもそも勇者は別にちゃんと居ますよね?」
「一度だけ、勇者が二人存在する時代があった。その特例の再来なら無理矢理でも色々と納得出来るゆえに、いっそのこと勇者になってくれぬか?」
「絶対に嫌です」
勇者への勧誘理由が雑すぎる。
仮に丁寧でも勇者などになるつもりは無いが。
「……と、手順が逆であったか。まずはその神剣を見せては貰えないだろうか?」
まずは実物を確認してから話を進めるのがセオリーだろうに、王様たちにも動揺があったようだ。
「えっと、王様の前で刃物を披露するのは少々怖いのですが……」
「構わん。出したまえ」
「分かりました……(出てくれ)」
消えっぱなしの神剣に命じると、その姿がカイセの腰に現れた。
カイセは鞘に収まったままの神剣を目の前の机にそっと置いた。
「〔神剣〕の資料は?」
「少々お待ちを……この本に」
本棚から大臣が取り出した一冊の本。
そこに神剣に関する記述があるようだ。
「ここか……鞘に柄に……見た目としては確かに……鞘から抜く事は出来るか?」
「分かりました。(半分だけ刀身を晒してくれ)」
カイセの指示で、誰も触れないままに神剣が半分だけ鞘から抜かれた。
「見た目は確かに〔神剣〕……〔鑑定機〕のほうは?」
「【神剣エクスカリバー】と出ますね」
「確定か……はぁ……」
明らかにめんどくさそうな表情を隠さない王様。
〔エクスカリバー〕という名称は普通の剣にも付けられるが、〔神剣〕や〔聖剣〕の称号名称までは偽れない。
だからこそ目の前の剣を認めなければならないが、正直聖剣よりも厄介な物が出てきたと思ってそうだ。
「えっと、出処は〔魔境の森〕と。あの森なんなのもう……」
「記録上、初代勇者は終戦後に何度かラグドワを訪れていますからコレ絡みだったのでしょうね」
「何処ぞに封印したと残っているが、あの森なら確かに今まで見つからないのも頷けるな。出来ればそのまま封印されていて欲しかったが……何故封印が解けた?」
「事故です」
「事故なのか?」
「はい事故です」
「……そうか」
最早それ以上の追及すらされなくなった。
「水をくれ」
「少々お待ちを」
「あの、機会を逃してたのですが、おみや――献上品を持ってきましたので良かったらいかがでしょうか?」
どのタイミングで出すべきか悩んでいたが、小休憩の予感を察知して取り出した。
中身は森の果物(高級品)の詰め合わせだ。
「……なるほど、確かにあの森であればこれらもあるか。果実の献上品としては充分過ぎる内容ではあるが、毒の気配も無さそうだし、在り難く頂くとしよう」
経験ゆえか王冠の機能か、毒の心配をしつつも毒見無しに口にする王様。
特に言葉には出さなかったが、表情自体は和らいだようなので最低限満足しては貰えているようだ。
「――さて、話を続けよう。〔神剣〕の存在は認識した。だが〔神剣〕を用いて〔聖剣〕を作ったとはどういう事だ?」
「そのままの意味です。私が集めた素材を、神剣が能力を用いて加工して聖剣を作り出したのです。元となった聖剣と瓜二つに」
どうやら〔神剣〕の能力については一部しか情報が残されていないらしい。
だがカイセは、〔星の図書館〕の知識で知っている。
自主規制に引っ掛かる〔閲覧権限レベル9〕の本であったが、それ程の爆弾を知識無しに抱える訳にはいかなかったために仕方なく手を出すしかなかった。
――そもそもこの〔神剣〕には、〔聖剣〕のような分かり易い所有者強化能力は備わっていない。
〔神剣〕の能力はただ一つ。
〔世界を危機から救済するという使命を果たすために必要な能力を作成して得る〕事だけだ。
あくまでも〔能力を作成する能力〕が解禁されるのは使命に立ち向かう時のみで、現在その機能自体はロックされている。
だが〔初代勇者〕の所有時代に作成されたと思われる能力自体は今も使える。
その一つが《ゴーレム作成》であり、応用で〔聖剣〕が作り出せた。
その他いくつかの能力も、戦時中に初代勇者が必要としたからこそ生まれた能力なのだろう。
「所有者なら〔神剣〕の能力は把握しているな?」
「全てではありませんが」
嘘ではない。
カイセ自身、試すことが出来ないために〔能力作成能力〕がどこまでの性能を持っているか分からない。
ゆえにカイセが知るのはそのラベルと既存能力のみだ。
「〔神剣〕の力……明かせる限り全てを明かせ」
「分かりました。紙と鉛筆をお借りしてもよろしいでしょうか?」
カイセは受け取った紙に、カイセが認識している既存能力のみを全て書き記した。




