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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第二章:聖剣依存の凡人勇者
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王都観光


 「はぁ……もうイヤ。王都嫌い」


 門を抜け、王都に足を踏み入れ、王都観光を始めたカイセだったが、早くもうんざりしていた。


 「俺そんなにチョロく見えるか?カモに見えるか?……見えるんだろうけど、だからってこんなに短時間で狙われるか?王都治安悪くないか?」


 カイセの足元には地面に転がる男が一人。

 こいつで三人目(・・・)

 こいつが誰かと言えばスリ、泥棒だ。


 「……またなのか?」

 「またです」


 駆けつけた兵士二人が呆れた表情でカイセに話しかける。

 カイセの背後をつけていた彼らだが、目の前で犯罪行為が行われれば黙っている訳にも行かず、そもそもカイセに気付かれていたのもあってか既に見つからないよう監視するのは諦めている。

 後ろを付いてくるだけで、こうして駆けつけてくるのもこれで三度目だ。


 「はぁ……尾行は見破られるし、スリを三度も押し付けられて仕事は増えるし、ハズレを押し付けられたか」

 「外れ言わないでください。文句言いたいのはこっちです。治安悪すぎないですか?」


 門を越え王都へ足を踏み入れてから数分後、一人目のスリに遭遇した。

 すれ違いざまに腰の小袋をひったくろうとして、仕掛けたあった魔法(ワナ)に引っ掛かりその場に倒れた。

 流石に町中、人の視線のある中で放置出来なかったため、仕方なく後ろから付けて来ていた兵士に声を掛け引き取ってもらった。

 ……ここまでそれを二度こなし、今回が三度目だ。

 一回目から一時間しか経っていない。


 「もういっそ偽装(・・)止めようかなぁ……」

 「止めておけ。それこそ動きが取れなくなるぞ」


 アイテムボックスを持つカイセが、わざわざ荷物を持って歩いている理由は一つだけ。

 ボックス持ちである事を周囲に知られない為だ。

 田舎町であれば手ぶらも問題ないが、この王都で完全な手ぶらは目立つ。

 そしてボックス持ちを一人でも多く確保したい人々の恰好の餌食になる。

 商人・運送業・私設団・冒険者。

 物理法則を越えた荷物持ちを欲しがる者はあちこちに存在する。

 王都を手ぶらで歩けば、そんな人々のスカウトの標的としてロックオンされてしまう。


 「君みたいに周りを常に見渡している典型的な田舎者が、何も持たずに手ぶらだと真っ先に狙われるぞ。どうしてもというのならまずはそのあちこち流れる視線の向きを整えろ」

 「観光ですから色々見ようとするのは当然でしょう。それに手ぶらで無いのに狙われてますけどね、泥棒に」


 荷物を抱えていれば泥棒に狙われ、手ぶらならスカウトに狙われる。

 ハッキリ言って面倒しかない。


 「こうなったら気配を消して……」

 「その手の魔法は町中では違法だぞ」

 「《変化》は……」

 「それもバレれば捕まるぞ」

 「つまりバレなければ!」

 「今捕まえようか?」


 もう嫌、めんどくさい。

 隠れて観光しようにも法律が許してくれない。

 気配遮断に変化。

 確かに犯罪行為には打って付けだが、こうして見張られている以上は有意義な活用も難しい。


 「ほい、じゃあもう行っていいぞ。俺がこいつを連れて行くから戻ってくるまでにまた問題を起こすんじゃないぞ」

 「俺のせいじゃないんですが」


 二人一組で尾行してきた兵士は、一人が尾行を続け、もう一人が犯罪者を運んで戻ってくるを繰り返していた。

 カイセが存在に気付いている事を知っても、仕事ゆえに尾行を辞めようとしない。

 やましい所がないのに振り切る訳にも行かないので放置しているが、正直どちらかと言えば尾行側がカイセにうんざりしていた。

 

 「……あ、兵士さん質問です」


 同僚を見送り、自身は尾行の定位置に戻ろうとしていた兵士そのニを呼び止めた。


 「もういっそ俺の隣で一緒に歩きませんか?そっちは尾行のお仕事をより確実に遂行出来て、こっちは泥棒避けになる。一石二鳥です」

 「……はぁ。分かった分かった。犯罪の抑止も仕事の内だ。付きあってやるから面倒起こすんじゃないぞ?」

 「だからそれは相手次第ですって」


 こうして何故かカイセは、尾行していた兵士さんと並んで観光をする事になった。

 おかげでスリはぱたりと止んだ。



 「――あそこは王都で一番古くからある飯屋だな。特別美味い訳じゃないが値段が手ごろで地元民向けの店だな」

 「へぇー」


 「あそこは最近一番人気の宝飾店だな。値段はピンキリだが、高い物はとてつもなく高いから迂闊に入ると心にダメージを負う。女連れなら財布にダメージだな」

 「へぇー」


 「あそこは観光客向けの定番の土産屋だな。寄ってくか?」

 「はいもちろん!」


 「その菓子はやめておけ。外装は王都風だが、中身は何処でも買えるようなお菓子だ」

 「いわゆる〔行ってきました〕系のお土産か。買うしかないな」


 「そっちのフルーツ菓子は女性に人気だな。日持ちがしないから遠くへの土産には若干不向きだが」

 「仕舞えば良いから賞味期限は問題なし。これも買ってみるか」


 「初代勇者が考案した土産物らしいんだが、何が良いのか俺には分からない」

 「偶然の思い付きか、同郷のやつだったのか……ペナントって買う意味あるのか疑問だったが、家の飾りが少ないから一つくらい買ってみるか。木刀は無いの?」

 「武器の類が土産屋にある訳ないだろ」

 「初代勇者も詰めが甘い」


 「これって……」

 「女神様の像だな。ここのは名のある職人の作品だから値は張るが出来は良く人気だぞ」

 「モデルが悪い……あ、こっちのフクロウっぽい置物を買って行こう」

 

 「そっちは――」

 「何をしてるんだよお前は」


 土産屋を物色していると、もう一人の兵士が戻って来た。

 そして同僚が尾行対象(カイセ)と共に土産を物色している光景にツッコミを入れた。


 「あ、良ければオススメのお土産を教えて貰えませんか?」

 「……はぁ。何なんだろうなコイツは」


 そう愚痴りつつも、きちんと紹介してくれたこの人も良い人のようだ。



 「――ここがオススメの宿だ。観光客からも地元民からも評判が良い。部屋が空いているかどうかは自分で確認してくれ」

 「はいもちろん。ところで……明日も付いてくるんですか?」

 「報告をして、その必要があると判断されればな。まぁ来るとしても明日は別のやつだろうがな」

 「それじゃあ、お別れ前に名前を教えてください」


 これだけ話しておいて、二人の兵士の名前を聞いていなかった。


 「ロンだ」

 「リーチだ」


 何やら麻雀を思い出す組み合わせだったが覚えやすい。

 鑑定で視て一発で認識出来る情報だが、流石にそれだけで一方的に知るのは気が引けるのであえて確認する。

 ステータス的には、ロンは純粋な剣士、リーチは魔法剣士という所だろうか。

 どちらもあくまでも普通の兵士クラスだが、聖剣を持たないロバートよりはやはり強い。


 「ロンさんリーチさん。お世話になりました」

 「折角の王都だ。楽しんで行けよ」

 「問題は起こすなよー」


 そして二人は仕事を終えて帰って行った。


 「……どうなるかと思ったが、これはこれで楽しかったかな」


 


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