いざ王都へ
「……ちゃっかり私物を買わされてるんだが?」
「手間賃、アドバイス料ですよ。ちゃんと役に立たったわよね?その対価、報酬ですよ」
確かに聖女ジャンヌは役に立った。
カイセの目から見ても、派手過ぎず平凡過ぎず、バランスの良い適度な一式となった。
それを二着分購入したのだが、気がついたらカイセには必要のないものまで紛れ込んでいた。
お菓子をカゴに入れようとする子供とは比較にならない程自然に、支払いを終えた後にようやく気付けた程の手練れであった。
「物自体は安物の指輪です。特に痛い出費にはなっていないでしょう?」
買わされたのはイミテーションの石が嵌まった指輪。
聖女の言う通り、本当に安物であった。
だからこそ支払金額を見ただけでは気付く事が出来なかった。
確かに計算と誤差があったが、前世のノリで消費税扱いしていた。
この世界に消費税は無いのにだ。
普段お店で買い物していなかったため、その単純な事実に気付けなかった。
「……まぁそうだけど、何でわざわざ指輪なんだよ。しかも子供用」
アリシア相手に一度勘違いをさせてる事もあってか、安物かつ子供用の指輪であっても女性に渡すことに抵抗があった。
「大丈夫ですよ、深い意味はありませんから。欲しいマジックアイテムの土台にちょうど良かっただけです。それにこれで貸しを作らずに済むのなら安い物では?」
店に入る前のあの懸念を読み取られていたのか。
「……まぁそう思っておくことにするよ。正直思惑がありそうで怖いけど」
「何も考えないのも問題ですが、考えすぎも良くないですよ?」
「誰かさんの行動が不審点多すぎるせいなんだけどな」
とは言え、とにかくはこれで身なりの問題は片付いただろう。
他に買っておく物もないので、買い物も終了だ。
「ところでご出発のご予定はいつでしょうか?必要なら馬車も手配しますよ?」
「いやそれは必要ないから。全部を任せると逃れられない何かに取り込まれそうだから、自分で何とか出来る部分は自分でするから」
「そうですか、残念ですね」
そんな会話を最後に交わしつつ、用を終えたカイセは自宅へと帰って行った。
――そして翌日朝。
「……良し。準備は出来たな」
荷物は持った、畑の自動管理(七日分)も機能している。
畑には今、二体のゴーレムが待機している。
神剣で生み出した、装備は最小限でほぼ素体のゴーレムだ。
あの二体に畑仕事の最低限の日課作業をこなしてもらう。
不測の事態さえ起こらなければ一週間は何とかなるだろう。
作業に必要な道具の準備も万全。
「待機時間が長くなるから燃費は悪いけど仕方ないか」
ゴーレムを出なくとも魔法を設置するだけでも出来なくはないのだが、細かい部分は人型にしたほうがやり易い。
最初こそ厄介者に思えた神剣も、こういった時には助かるものだった。
「……多分こうやってハードルが少しずつ下がってくるのだろうなぁ」
最初の『死蔵する』発言は何処にいったのやら。
「後は……まぁあっちは自由にしてくれればいいか」
家の方は防犯装置も起動させ、唐突に遊びに来るジャバには遠話で留守を伝え、アリシアには書き置きも残した。
転移陣はそのままなので自由に出入りは出来る。
来たとしても誰も居ないが時間潰しぐらいには使えるだろう。
居ない間は封鎖しても良かったのだが、「現実逃避」先として残しておいてもいいだろう。
「さて、まずは一回目だな」
予め〔星の図書館〕でチェックしてここをと定めていた転移先をイメージする。
王都までは《転移》の最大範囲を用いても三回使わなければ届かない。
魔力もごっそり持っていかれる為、王都に付いたら一泊し休んでから明日改めて城へと向かう。
荒事にはならないだろうが、念のために魔力はしっかり回復させておきたい。
「思えば観光の一つもこっちに来てからはしてなかったし、これも良い機会だろう」
教会本部のある町や、アリシアの村。
その二つを除けば後は魔境の森。
折角新たな世界に来たのに、ほとんど魔境で引きこもりだ。
まぁ999を抱えて闊歩する気にならなかったのが一番の原因なのだが、折角の機会なので観光もしてくる事としよう。
「そんじゃまぁ行きますか……《転移》」
そしてカイセは王都へと旅立った。
一回目の《転移》
「良し着いて……ん?」
足元に謎の感触。
確認するとそこには……。
(……人、しかも〔盗賊〕か)
着地と同時に盗賊の一人を踏みつけていた。
存在が重なり合わないように安全機能は付いているが、こういう突発的な事故があるからこそ《転移》にばかり頼るのも怖いのだ。
「お前はな――」
とりあえず周囲に居る他三人の盗賊を魔法で眠らせる。
(……なるほど、こいつらの弓で馬車を奇襲。その後に本隊が襲い掛かって、残ったこいつらはその援護でここに居たのか。とはいえ乱戦で弓とか誤射るし、逃げる獲物を狙って……って所か。全く、折角道から逸れた場所に降りたのに……しゃあない、ちょいとやるか)
足を止めた馬車と護衛の兵士、そしてそれを襲う盗賊の群れを確認したカイセは、あくまでも遠隔、この場から盗賊にちょっかいを出す。
距離的には判別しにくいだろうが、万が一顔を覚えられても面倒なので、例の〔仮面〕を装備する。
(盗賊も被害者側も、出来ればあまり関わりたくないからこのままっと……)
《誘眠》の魔法はこの距離では盗賊のみを狙い撃ちには出来ない。
そのため面倒だが確実な方法を取る。
(一人…二人…三人…四人…)
シンプルな《魔法弾》で一人一人丁寧にヘッドショットを決めていく。
殺す気は無いが、威力が威力なので当たればしばらくは立てないだろう。
(後一人……良し終了)
職業が〔盗賊〕になっていた連中は全て仕留めた。
(こいつらも放り投げてっと)
手元の四人を道へと放り投げる。
これで後は勝手に処理してくれるだろう。
縛り上げて連行か、この場で処刑か、いずれにせよ被害者任せだ。
ちょうど良く《転移》の再使用待機時間も過ぎたので、嫌な光景を見る前に次へと行こう。
(……《転移》)
カイセはそのまま二度目の《転移》を行った。




