ゆくのかくるのか
「――この報告は事実なのか?」
「はい勿論です」
断言する隠密リーダーであるが、内心では心臓が凄い事になっている。
相手はこの国の王様。
その一言で自分の、仲間の、そして家族の首すら簡単に飛ばしてしまう。
勿論易々とそんな事をするような王様ではない事を理解しているが、報告している内容が信じて貰えるか本当に不安なので、どうしても悪い考えが過ってしまう。
そこに一報が入る。
「王様、結果が出ました」
「どうだった?」
「どちらも本物の聖剣でした」
城の〔鑑定師〕に調べさせてみたが、報告を肯定する結果になった。
溶けた聖剣は勿論、手入れと称して勇者の持つ聖剣もしっかりと調べさせた。
「……なぁ、この件は全部一任するから全部そっちで対応して貰えない?」
「事が聖剣絡みなので私の対応範囲の外です」
自分にはその権限が無いと王様の提案を拒否する大臣。
「じゃあ範囲内になるように権限付与してもいい?その分はちゃんとお給料も増やすよ?」
「それ聖剣案件だけじゃなくて他のお仕事も増える気がするんですけど。私の今の睡眠時間知ってます?そろそろ死ぬのでいい加減に人を増やしてください、育ててください」
「増やしたいけど優秀な文官は貴重なんだよ。みんな人目に見える武術や魔法ばっかりを鍛えたがるから、キミ程に知識を詰め込んだ者は本当に希少価値なんだよ」
もちろんそこそこ程の文官なら最低限の数は揃っているが、この大臣筆頭に任せている仕事を手伝える者は早々増えない。
「なぁ、この件はもう見なかった聞かなかった事に出来ない?」
「出来ませんよ。〔聖剣を生み出せる者〕の存在を放置するなんて出来ません」
「けどその〔森の男〕本人が放置・不干渉を望んでるんだよね?ならその通りでいいじゃん」
「得体の知れない存在の言葉を信用しろってほうが難しいですよね?」
「そうだね。でも〔信じる〕って大事な事だと思うよ?」
「この場面だとその言葉は厄介払いの現実逃避なので逃げないでください」
初対面どころか人づての伝言。
しかも伝言を持ち帰った者ですらその存在の全容を掴んでいる訳ではない。
ただ信じろと言う方に無理がある。
「そう言えば聖剣自体の〔所有者適性〕に関してはどうだったの?」
「機能しているようでしたので、これも一般人に扱えるものではないようです」
「そこまでしっかり複製か。ならひとまず〔聖剣兵団〕みたいなものが生まれる心配はないかな?」
「どうでしょうかね……聖剣を生み出せるなら改造・改良出来る可能性も捨てきれませんよ?縛りを外して量産出来る可能性も……」
「考え出したらキリないなぁ……その者がどうやって聖剣を生み出したか分からないの?」
「申し訳ありませんが分かりません。私も完成品を渡されただけで、工程に関しては一切何も聞けておりません」
カイセは当然ながら聖剣の製作方法に関しては一切話していない。
話せる内容でないのは確かだが、その結果「どこまで出来るのか?」という疑問が解消されることは無く、国王たちは最悪の最悪まで想定せねばならなかった。
「……これさ、造ったんじゃなくて拾ってきた可能性は?〔魔境の森〕なら、歴代勇者様が隠した二本目の聖剣があったりしない?それを見つけて持ってたのを渡して来たとか」
その憶測は微妙に間違っていないが、実際に魔境の森で眠っていたのは〔神剣〕であった。
「それもまた否定できない可能性ですが、溶けた部分はともかく、その他の見た目、劣化度合いなども瓜二つなんですよね。ここまで瓜二つに偽装出来るのならそれはそれで問題が――」
「もうキリがないからソイツをここに呼んでくれ!実際に話して見極めないと話が進まん!!」
考えてもキリがなく、とうとう王様自身が癇癪を起し始めた。
「それはそれで危険性は高いんですけど。応じる前提で話したとしても、魔境の森で平然と暮らせる人材が城の中で暴れたら大惨事ですよ?」
「なら俺が森へ出向く!それなら城は無事だろ!?」
「一番守らなきゃならない存在が一番危険な目に遭うじゃないですか!!ならまだ城に呼んだ方が取れる対策が多いです!」
「ならそうしろ。これ王命な。〔森の者〕をここへ呼べ!」
「嫌がる相手、権力が通じない相手をどうやって呼ぶんですか?」
「そこも任せた!――ただ、あくまでも敵意や害意が無い事は強調しろよ?あくまで話し合いがしたいだけ……待遇も客人として招く事。無礼は禁ずる。争い事は一切無しだ!平和に…平和的にだ」
――それからニ日後。
〔魔境の森〕のカイセの家のすぐ側。
ギリギリ結界の外に〔一通の手紙〕が《転送》されてきた。
『……という訳なので、面倒だとは思いますが、お互いの今後の為にもどうか…どうか…どうか!〔王都〕までお越しください。同封する返信用の手紙セットにご要望をお書き頂ければ常識的な範囲内できちんと対応します。きちんと整えます。必要なら迎えもすぐに寄越します。なので…なので…なのでどうか!カイセさん!お願いですから来てください!このままだと王様が本当に魔境の森まで出向いてしまうかも知れないんです。王様に何かあれば国が――』
カイセは隠密リーダーから届いた手紙をそっと閉じた。
魔法により記録された立体映像が消える。
高価な手紙に高値な《転送》を使って急ぎで送られた辺りに躊躇ない事態である事を感じる。
「……この国、本当に大丈夫なのかな」
カイセ自身は税金も払っていないし、代わりに何の恩恵も受けていない。
だが領域としては間違いなくここは国の一部である。
カイセはそんな、一応は自国の王様に不安しか感じなかった。
ただ、いたずらに争いを好むような性格では無さそうなのは理解した。
これもまた当人に会ったわけでは無く、知り合いから伝わっただけの印象であるが。
「はぁ……行くしかないか」
行っても面倒。
来られても面倒。
となればマシなほうを選ぶしかない。
カイセが返事を記入した手紙を閉じた途端、その手紙が自動で《転送》された。
「このマジックアイテム。折角だから作り方教えて貰うか」
こうしてカイセは、嫌々ながらも王都へと向かう事が決まった。
ただその前に、下準備が必要だ。




