継がれる拾い物
「はぁッ!!」
「それでは遅いです!」
カイセの家の庭先。
今日も勇者一行は励んでいた。
(……聖剣も問題なさそうだな)
すり替わった聖剣も、見た目・性能共に差異が無いために一切疑われる事無く受け取られた。
当然ながら斬り合いにも問題は見られないようだ。
(なんだろうなぁ。面倒事を避けたいはずなのに、面倒事の種を自分で増やしている気がするんだよなぁ)
隠密リーダーから恐らくは王様にも知られることになるであろう〔聖剣を生み出せる〕という事実。
出処が神剣であることは伝えてないが、だからこそなお無暗に広まれば面倒が起こる事は間違いないと思う。
そうは思いつつも、先を心配して何もしないという選択には至らないため、今後もこの手の種は増えそうな気がした。
とはいえ結局は咲かなければどうということはない。
(それにしても……なんだかんだでちゃんと成長してるんだなぁ)
鍛錬に励む勇者ロバートの動きが、以前に比べて確実に良くなっている。
これも過保護な荒療治の成果なのだろう。
(まぁ前よりもマシって程度なんだが)
確実に成果は出ているだろうが、だからと言って勇者水準に達した訳ではない。
道はまだまだ遠い。
才能が無く、成長期を過ぎた者が目指すには、絶対に無理と言われても反論出来ない程に道は険しい。
だがこうして、日々励む姿を見ていると、確かに応援したくなる気持ちは理解できる。
可能か不可能かは関係なく、出来れば報われて欲しいのだが……。
(俺には何かしら手伝いは出来ても、直接教えられる事は何もないからなぁ)
カイセは技能的には勇者と大差がない。
もちろんカイセ自身、転生直後よりは圧倒的に体の使い方は上手くなっているとは思うが、この程度ならとっくに勇者にも指導されている。
勇者の周りに居るのはエリートばかりなのだから。
それ以上となると、カイセはステータス999と図書館から得た知識をただ振るっているだけになる。
知識ならとも思えるが、教えていいかの境界線がハッキリしない為に控えたい。
宝の持ち腐れ感が否めない。
「……ん?おーい。籠手壊れてるぞ」
そんなことを考えながら訓練風景を眺めていると、ちょっとした変化に気が付いた。
「え?あ、本当だ。気付きませんでした」
指導に当たっていた三従士剣士の籠手が割れていた。
「しまったなぁ……もうか。これ自体が予備だったからもう予備が無いんですよ」
魔境の森での戦いの中で、何度か変えていたようだ。
籠手自体は無くともそこまで大きな問題にはならないだろうが、万全を期すなら装備はしっかりとしておきたい。
「それなら……これ使うか?」
カイセはアイテムボックスの中から中古の籠手を取り出した。
片腕分しかないが、ちょうど腕もサイズも合いそうなので大丈夫だろう。
「……カイセさん。これはどうしたんですか?」
「森の中で拾ったものだよ。多分冒険者の落とし物か遺品か何かだと思うけど、比較的損傷が少なかったから練習がてら直したんだ。完壁とは言いにくいけどまぁ直せた。直せたのはいいんだけど、正直使い道が無くて……死蔵するよりは使える人に渡したほうが良いから問題なければ使ってくれ」
森の散策時に拾った物。
持ち主がどうなったか分からないが、カイセは散策で見つけたそう言った物を出来るだけ拾うようにして、修復不能な物は箱に仕舞い家の裏に埋葬して気持ちだけだが供養し、比較的状態がマシな物は技術向上の練習がてら直してアイテムボックスにしまいこんでいる。
いつか何かの役に立つ日が来れば良いなと思っていた。
そのタイミングが来たと思ったので渡したのだが……何やら様子がおかしい。
「これ、多分死んだ父の装備品だと思います」
渡した籠手は、まさかの身内の遺品だったようだ。
「……父は冒険者でした。実力もあり、この森にも何度か足を踏み入れたと聞きました。それがある日深手を負い、何とか帰還する事は出来たそうですが、その傷が原因で冒険者は引退する事になったそうです。たぶんこの籠手はその時に失った装備だと思います。家の倉庫にこの籠手と同じ作りで逆手側の物があるのを見たことありますから」
確かにその父親のものだった可能性が高いようだ。
量産品であれば特定は難しいだろうが、これはどちらかと言えばオーダーメイド品のように見えた。
「そうか……そうだな。父もこの森に……そんな時代もあったんだな」
剣士は何やら思い出に浸りだしていた。
「……これのように、他にも拾って直したり埋めたりした物があるんだけど、せっかくだからそっちのほうで全部引き取ってくれない?仮にも遺品だろうから無碍な扱いは出来ないし、ここに残され続けても適当な供養しか出来ないし」
「構いませんよ。教会に預けるのも良いですし、冒険者ならギルドに持っていけば万が一ですが遺族に遺品が還る可能性もありますからね。ですが良いんですか?危険地帯での拾得物はそのまま拾い主の権利になりますが」
「どちらにせよ俺には使い道無いものばかりだからなぁ……と言う訳で、ちょっと掘り返してくる」
そうして掘り起こした物、〔アイテムボックス〕から取り出した物を剣士達に押し付ける。
三従士や隠密組の〔マジックバック〕に分散させて仕舞い込む。
国から支給されている物のため、〔アイテムボックス〕ほどではないにしても結構な量が入る。
だがそれも、元々の荷物に魔境の森での戦利品もあり、今回の拾得物も加わりそろそろ限界に近いようだ。
「……そろそろですかね。勇者様、そろそろ王都へ帰還しましょう。王様からはどんなに長くとも荷物がいっぱいになる前には戻れと命じられてますし、勇者様としては成果にまだまだ満足は行かないでしょうが、会談も近いですから」
「……分かった。そうしよう」
これをきっかけとして、そのまま勇者一行の王都帰還が決定された。
19/4/12
文章ちょっと弄りました。
ストーリーに影響はないです。




