宝物庫へ
「――真っ白、似合わねぇなぁお前」
「自分でも分かってるよ、だからわざわざ言わないでくれ」
真っ白衣服に着替えたカイセ。
普段着る事のない色味のその服装を見て小人のカナタが素直な感想を口にした。
「さてと、それじゃあジャバとフェニはこの部屋で留守番な。大人しくしてろよ?」
「はーい」「グゥ」
こうして用意された衣服で身なりを整え終えると、ジャバフェニに留守番を言い渡す。
これから向かう場所には連れて行けない子龍と不死鳥。
「…ん?待て、我も留守番だよな?」
「お前は連れてく」
「なんで??」
だが一人だけ、名を呼ばれなかったカナタは尋ねてくる。
カナタに関しては留守番ではなくカイセに同行させる。
寝耳に水の申し出に小人の首をかしげる。
「カナタなら俺が分からないモノに関して分かる可能性があるわけだろ?というわけでカナタは一緒に来い」
「めんどくせぇ…」
その理由はまさしくカイセと同様の立場ゆえ。
この世界とは異なる世界からやって来た存在同士という共通項。
情報源として有益になるかもしれない御供として、王様直々に打診されたのは漂流物調査の案件に連れて行くことにした。
――この世界には異なる世界から放出されて流れ着いた"漂流物"と呼ばれる品々がある。
カイセがかつて目にしたバス車両。
そしてまさにこの小人と化した二振り目の神剣の中身も同様に他所からやって来た一種の迷子。
そんな漂流物は他にいくつもこの世界で確認されており、詳細や用途不明の物品として回収されて王城宝物庫の最奥で保管されているらしい。
今回カイセが行うのは、それら漂流物の目視確認。
《鑑定》だけでは得られぬ情報を、カイセの分かる範囲内で語れるモノを提供するお役目。
とはいえ、一人でその全ての正体を明かせるかと言えば微妙なところ。
何せ漂流物とはカイセが元居た世界以外からも流れ込んでくるものだから。
結局何の成果も得られずに終わってしまう可能性だって十分にある。
ゆえにこそ、もう一つの情報源になり得るカナタを連れて行く。
カナタもまた異なる世界の出身。
連れて行くことで可能性が広がる。
勿論二人揃って役に立たない可能性もあるのだが。
「――カイセ様。お迎えに上がりました」
「さて、それじゃあ行くぞー」
「いってらっしゃーい!」「グルゥ!」
そうして準備を終えたカイセらは、迎えの使用人に連れられて部屋を出る。
向かう先はお城の宝物庫。
その最奥に眠る漂流物のもとへ。
「――お初にお目に掛かります。私はこの城において"宝物庫管理課/第一宝物庫筆頭管理官"及び"上級鑑定師"を務めさせて頂いておりますプロスと申します。本日はご協力頂きありがとうございます」
「あ、いえどういたしまして。カイセと言います。よろしくお願いします」
そして向かった先で出会ったのは白髪の初老男性。
カイセが纏うのと同じ真っ白な制服を纏うお役人さん。
彼の名は【プロス】。
この城の宝物庫を管理する専門部署に務める"筆頭管理官"。
中でも第一宝物庫の管理者であり、同時に"上級鑑定師"でもある、立場的にはエリートの男性。
鑑定師としてはエルマの特級よりも一つ下の位になるが、鑑定レベルは同格であり負けずとも劣らない。
むしろ年の功、経験を鑑みればエルマ以上の実力を持つ鑑定師とも言えるかもしれない。
「さて、早速ですがこの扉の向こうが、件の宝物庫となります」
「でかいなぁ…」
「第一宝物庫ですので」
そしてカイセが立つ目の前には大きな扉が存在する。
大枠は巨人でも出入りするのかと言うほどに大きな扉。
元々この城の宝物庫には幾つか種類が存在し使い分けられている。
その中で、これから踏み込むのは第一宝物庫。
この城の中で最も価値あるモノを納める最大で最重要な宝箱だ。
「扉自体は見上げるほど大きいですが、毎回この大きさを開け閉めするわけではありません。人が通るだけならばこの一番小さな扉で十分ですから」
その大扉はよく見れば、いくつもの枠が存在した。
大中小と出入りの際の目的に応じて適切な大きさで開け閉めできるようになっているらしい。
「これからこの扉を通って入室していただきますが、その前にいくつか注意事項を」
「あ、はい!」
その扉の前で始まるのは注意喚起。
この先にあるのはこの国の宝。
当然守るべき約束事は色々ある。
「扉の向こう側では空間魔法の類は一切使用できなくなっております。転移で出入りする事も、アイテムボックスなどの収納も室内では使用できないのでご了承ください」
それを考えれば、転移魔法の類が使えなくなる特殊な空間作りは当然の対策。
なければ盗人が持ち出し放題になる。
真っ先にやらねばならない対策とも言える。
「室内には警備ゴーレムが存在します。敵対判定を取られると大変危険ですので余計なものには触らぬようにお願いします。勿論、不自然な行動や所作も、そして不審物の持ち込みもご遠慮ください」
同時に警備のゴーレムも配備済み。
この大元の扉自体は人間の兵士が左右に張って守っているが、中の警備は人とゴーレムの共同作業であるようだ。
「その不審物扱いにこの小人は含まれますか?よっと」
「お!?隠しておくんじゃないのか??」
「おや?」
するとカイセは衣服の内側から小人カナタを取り出した。
本人的には黙ったまま入室するつもりだったらしいのだが、カイセは元から申告して持ち込む予定だった。
「また珍しいお供ですね。カイセ様の御供という事でしたら、ルールさえ守ってくださるなら持ち込んで頂いて大丈夫です。元よりおかしな同行者を伴う可能性は聞いておりましたから。龍や鳥ではなく小人なのは驚きましたが…」
そんな自己申告の上でカナタの同行も許可された。
元々王様からジャバフェニの同行の可能性は指摘されていた様子。
だが実際は小人カナタだったので想定を外され驚いていた。
人工物とはいえ小人など早々目にするモノでもないのでこれもまた当然の反応。
「あと、この腰のあたりに見えない剣があるんですが、これも大丈夫ですか?」
「はい、そちらは聞き及んでおります。本来は武装解除の上で入室して頂きたいのですが…今回は国王様からの特例指示が出ておりますので、その見えぬ剣に限り身に付けたまま入室していただいて構いません。ただし他の武具はご遠慮ください」
更に引き剥がせない神剣エクスに関しても、王様からの指示で特例許可が下りていた。
流石の王様と言うべきか、ちゃんと根回しされている。
「また、室内では私が先導いたしますので、指示がない限りは私の前を歩かないようにしてください。前に出てしまうと罠に掛かってしまう可能性もありますので」
そんな下準備の上で、室内には罠が仕掛けられていると告げられる。
ここまで来ると緊張感はダンジョンと変わらないかもしれない。
「…と、このぐらいのものですね」
そしてそのまま更にいくつかの、比較的当たり前の注意をあえて口にして告げられることになった。
常識的に行動していれば破る事はなさそうなルールたち。
「カナタ、変なことしてやらかしても庇わないからな?」
「流石にしねーよ。そもそもしようとしてもエクスに阻まれるだろ」
「まぁそうだけど」
一応カナタにも念押しをしておくが神剣エクスというストッパーが監視してくれているので特に問題を起こすことはないだろう。
むしろ人間のカイセの方が、人間特有のついうっかりをやらかしかねないので注意が必要だ。
「さて、では入りましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
そうして色々と注意事項を告げられ、いよいよ踏み入ることになる宝物庫。
この国の財産と共に、漂流物も収められた宝部屋へと踏み込むのだった。




