七章エピローグ/宝物庫へのお誘い
「――ふぁぁ…朝か…」
欠伸をしながら目覚めたカイセ。
いつもよりも若干眠気が残るのは、不慣れな環境での睡眠ゆえか。
「見た目豪華で逆に落ち着かないのは俺が小物なせいなのか」
そんな目覚めた部屋はカイセの自宅ではなし。
とても立派な家具が並ぶ豪華なお部屋。
ここは王城内の一室。
王様に用意されたお泊り部屋。
「そう考えるとシンプルだったエルフの国のベットは寝やすかったな。ゴタゴタさえなければ良い感じの旅行だったのになぁ…まぁいずれ、だな」
そして思い出すエルフの国。
物は少ないがシンプルで暮らしやすい環境。
魔境の森の自宅寄りの、自然に囲まれた家での生活。
騒動が起きなければエルフの国観光で楽しいことが多い時間になっていたと思うが、言っても仕方ない。
縁が出来た以上は恐らくまたいつかの機会に訪れることになるだろう。
いつの話かは分からないが、真っ当な観光気分はその時にまた感じれば良い。
「…にしても、転生前はむしろ豪華な方が憧れたけど…あの家に、この世界にだいぶ馴染んだというべきか」
転生前の便利で物の多い生活も、もはや昔のように思える。
スマホだパソコンだテレビだとかの情報過多な生活環境。
あれが当たり前だった時には思いもしなかったが、こちらでの生活の方が、シンプルな環境の方が熟睡できるようになっていた。
「でも…こいつらは何処でも構わずいつも通りだな」
そんなカイセが見つめる先には仲良くくっついて眠るジャバとフェニ。
何処でも変わらず熟睡できる適応能力抜群の龍と不死鳥。
「ううーん…く…おも…」
そして寝返りを打ったジャバに乗っかられ唸りながら眠るカナタ。
苦しみながらも起きないのは度胸なのか鈍いだけなのか微妙なところではある。
――昨日は王様への報告、後半は興味本位の質問攻めにかなり時間を費やす羽目になった。
気付けば外は陽が沈む時間。
無邪気に質問攻めしてくる王様には、初対面時の悪ガキっぽい印象を思い出させられた。
(そう言えば初めて会った時はお小遣いがどうとか女神が嫌いとか、言葉使い含めて結構はっちゃける王様の印象だったなぁ…今回は真面目な王様の面ばかりだったから忘れてたけど、あれが素なんだろうなぁ)
聖剣のお話の時に初めて王様たちにあった時にカイセが抱いた印象。
それを思い出させる素の王様の反応がその質問攻めの時間には多量に含まれていた。
『ふむ、もうこんな時間か…長く引き留めてすまなかった。良ければ今日は城に泊まっていくとよい』
すると王様がお詫びも兼ねて城に泊っていくことを提案してきた。
そして宛がわれたのがこの立派な部屋。
「まぁ、あれから宿探しは面倒だったしせっかくだからと思ったけど…やっぱ何事も適度にが大事か」
用意されたこの部屋はとても立派な客室だった。
しかし立派過ぎて逆に落ち着かないという経験をする羽目になった。
そんなお泊りの朝を迎えたカイセ。
ベットから起き上がり立って、カーテンを開けて陽の光を浴びる。
「良い天気。さて後は帰宅するだけ…と言いたいけど、あの話はどうしたものか」
エルフの国での用事を終え、帰還後の報告も終えたカイセ。
あとは家に帰るだけ。
なのだが…その前に王様直々に一つ依頼されたことがあった。
「受ける受けないは自由、チェックアウトまでに決めるって話で…そのチェックアウトがもうすぐ。いやまぁ朝食時間分の猶予はまだあるのか。さてどうするか…」
未だ返事はしていないものの、返答の時間は迫ってくる。
朝の身支度をしながらどうするべきかを考える。
「宝探しじみた、城の宝物庫に仕舞われた漂流物の目視調査の協力依頼か。出自も勘付かれてるよな、これは」
依頼されたのは王城宝物庫に死蔵される漂流物の確認。
鑑定ではなく目視による調査。
つまり『実物を見て、気付いたことを教えて欲しい』という頼み。
鑑定が欲しいのならレベル差はあれど専門家となったエルマもいる。
だが王様たちが求めるのは、鑑定では得られない情報。
そしてそれをカイセに頼むのは、その立場の特異性ゆえなのは勿論として、更にはカイセの出自が異世界由来であることを既に察しているゆえだろう。
察した上であえて口にせず秘するのは配慮か自衛か、その辺りは分からないが無暗に言いふらすような立場でないのは確実だろう。
「漂流物の調査…まぁ確かに、鑑定で名前分かっても用途までは分からないよな、よそ様の世界のものじゃ…」
そんな察しの上でカイセに依頼したのは漂流物の正体探し。
例えば漂流物を鑑定して〔パソコン〕と表示されても、この世界には存在しない技術系統である以上は理解する事は出来ない。
王様たちが求めるのはそんな正体不明の品物を、鑑定に頼らぬ異世界知識のもとで正体を暴きたいというお話。
「で、そんな正体不明の漂流物がこの世界にとっての爆弾になる可能性もあるわけだし、宝物庫で大切に保管…って厳重隔離って意味だよな多分。せめて安全か危険かを知りたいって気持ちは当然だよな」
この世界に流れ着いた異世界の物品。
それらの未知はこの世界にとっての劇物になりえる。
どちらかと言えばこの世界に馴染みやすい二振り目の神剣ではあったが、そんな則した代物が毎度流れ込んでくるという決まりはない。
偶然の無秩序に舞い込む異物。
純粋に危険なモノである可能性も充分考えられる以上は、その正体をきちんと知りたいというのは自衛の為に当然の考えである。
「予防しといた方が良いのは確かだけど…俺が知ってる何かではない可能性も当然あるんだけど」
ただ、そもそもそれらの漂流物がカイセに理解できる代物である保証はない。
二振り目の神剣がそうであったようにカイセの知らない世界から流れ着いた物品である可能性がある。
そうなると当然カイセには理解出来ない。
とはいえどやはりバスのように分かる代物である可能性も十分に存在する。
王様たちもそれを踏まえた上で、駄目で元々の分かれば儲けものという認識での打診なのだろう。
「確か…あった」
するとカイセが取り出したのは一枚の〔カード〕。
そこに文字を書き連ねていく。
「これで…送信っと」
記した文字は一瞬で全て消え去る。
ただ無為に消した訳ではなく、それは役目を終えたから消えた。
今頃それらの文字列は王様の持つ本体に届いているだろう。
使用したカードは以前王様に授かった連絡用のマジックアイテム。
文字数制限に長い再使用制限時間や距離の制限もあり自由にとは行かないが、メールのように数秒で相手にメッセージを伝えることが出来る代物。
書いた文字がそのまま相手に送られる。
その機能を使って了承の意志を示した。
「コンコン」
「あ、はーい」
「失礼します。おはようございますカイセ様。朝食をお持ちしました」
「たべものー!」
「グルゥ」
その直後、やって来たのは城の使用人。
メッセージに対する使者ではなく、あくまでも朝食を運んできてくれただけの人々。
すると朝食の匂いに釣られて、ジャバやフェニたちが元気に目を覚ます。
そして始まるのはいつも通り賑やかな朝食の時間。
(さて…宝箱からは何が出てくるやら…ミミック程度なら可愛いものだけど)
エルフの国から無事に帰還したカイセ。
彼が次に向かうのは宝物庫。
その先に待つモノが神剣以上の〔パンドラの箱〕ではないことを、カイセはひっそりと祈るのだった。




