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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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帰路のデジャブ




 「――なんかこう、既視感ある展開だな」


 エルフの国を離れ、王子一行は帰路へとついた。

 来た道をそのまま帰る道行き。

 カイセもお世話になるその馬車の一行は、今まさに大雨に道を阻まれて道中の町で足止めを食らっていた。


 「今日も雨か、これはいよいよ…」


 すると翌日も大雨で動けず。

 これで三日連続の悪天候。

 やはり思い出してしまうのは行きの精霊騒動。

 そしてふと視線を向けてしまう存在。


 《私じゃない》


 だがあの時にやらかした水の精霊本人は、今の平然とこの場に居る。

 エルマにくっついてきたその個体は今部屋の中で仲良くフェニたちとじゃれ合っていた。


 「そもそもなんで居るの?どこまで付いて来る気なんだ?」

 《…知らない》

 「知らないって…」

 《アイツが行ったところが分からない。だからとりあえずここにいる》

 「アイツ?」

 《エン》

 「あぁー」


 この水の精霊はどうやら駆け落ちした二人と共に旅立った火の精霊エンを追ってエルフの国を出てきたようだ。

 一先ずは王子一行に便乗しているが、その行き先は完全未定。

 何せ彼女たちがどこに行ったか分からないのだから決めようがない。

 だからこそとりあえずの同行。


 「もしかして、宛もなく探し回るつもりか?」

 《そう》

 「度胸あるなぁ…」


 この世界のどこに居るかも分からない存在を探し回る旅。

 人と精霊の感覚は別物ゆえに精霊からすれば大したことではないのかもしれないが、サラッと言えるそのこの言葉には少し感心する。


 「ちなみにこの雨の原因とか分かるか?」

 《……知ってる》

 「お?」


 そんな水の精霊にこの長雨の原因を尋ねてみた。

 すると自分じゃないと言いつつ、しかし原因は知っていると意外な回答が返ってきた。


 《大精霊の影響》

 「大精霊、一応聞くけど…どの?」

 《…水》

 「うんまぁ…うん」


 言い辛そうに口にした元凶は、例の水の大精霊。 

 水の精霊にとっては上司、先輩、姉のような存在ゆえに言い淀みはしたがしっかりと答えてくれた。


 《不死鳥に帰って欲しくないとコッソリ悪戯してる。でも他の大精霊にバレて今お説教中》


 流石に自重して退いたと思ったが、結局こうして雨をコッソリ飛ばしてフェニの帰還を邪魔してくる。

 行きでは水の精霊を叱る立場だった当人が帰り道で同じことをして別の大精霊に怒られているらしい。

 これでは火の大精霊のやらかしを叱れない。


 《大丈夫。もうすぐ止む》

 「それなら明日には出られるか」


 しかしその力の供給は既に打ち切られているので、この長雨もじきに止む。

 明日には再び帰路に着くことが出来るだろう。


 (水の精霊って、一つの存在に固執する性質でもあるのか?)


 水の大精霊は幼馴染と呼べる立場の元火の精霊、現不死鳥のフェニに固執する。

 そしてここに居る水の精霊も、火の精霊エンを追って同族の下から離れる。

 迷惑度は雲泥の差ではあるが、どちらも一つの存在への執着ゆえの行動。

 水の精霊という括りが正にそういう性質を帯びやすいのかもしれないと勝手に分析する。


 「お、晴れてきた」


 すると精霊の予言通り、雨は弱まり晴れ間が見えてきた。


 《……いまの》

 「ん?」


 そうして安堵していると、フェニたちとじゃれ合っていた水の精霊が突然手を止め明後日の方角を見つめ始める。


 《………》


 ただただ黙ってその方向を見つめ続ける。

 なんとなく邪魔してはならない空気を感じカイセも、フェニたちも言葉を飲み込み黙る。


 「なんだ?こいつ何処見て――

 《邪魔》

 「ぐふぇ!?」

 

 そんな中で空気を読めないカナタは水で弾き飛ばされ部屋の隅っこまで飛んでった。


 《…見つけた。気配、さよなら。またね》

 「うぉっと!?」

 「いっちゃったー」


 そして少し経って立ち上がった水の精霊。

 そのまま慌てたように飛び上がり、窓を開けて外へと飛び出して行った。

 

 「…エンの気配でも見つけたか?」


 水の精霊がここに居た目的は、エンを探す旅の次いで。

 宛てが無い道行きの一種の手掛かり探し。

 しかしこの雨上がりの中でどうやらその手掛かりを感じ取った。

 ならばこの旅路に付いて来る理由は既にない。

 大事な目的の為に迷いなく旅立ったのだった。


 「数日前とはいえスタートは徒歩だからな。手がかり見つけたなら意外と合流も早いかもな」


 エンを伴う駆け落ち組は移動手段が限られる。

 精霊の速度を鑑みれば、数日程度の差は手掛かりを見失わなければ意外と早く埋められるだろう。

 『またね』と言った水の精霊。

 もしかしたら次に会うのは、あの二人と一緒の時かもしれない。


 (これで精霊とも本当にお別れになったか。果たして次はどんな形で会うことになるやら…)


 本来一生会う機会が無い人も多い精霊という存在。

 しかし加護付きで縁を持ってしまったカイセは、たぶん遠くないうちに再会する。

 これまでも多くの希少存在との縁を持ってしまったカイセ。

 もはや今更、その多くの奇縁は一生付き纏うのだと諦めている。

 

 (まぁせめて、せめて平穏な出会いや再会であれと願いたい…本当にもう…)


 とはいえその度に騒動に巻き込まれるのも困りもので割り切りがたい。

 新たな出会い、久々の再会。

 いずれにしても平穏で何も頭を抱える事のない縁であることを本当に切に願うところである。 


 「おーい、誰か拭くもの貸してくれ…」

 「あ、まて動くな!水が広がる!」


 そうして去った精霊の残り香として、びしょ濡れにされたカナタがしょんぼりしていたのだった。

 

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