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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第二章:聖剣依存の凡人勇者
22/221

嘘つきカイセ

エイプリルフールは全く関係ないです。

本編です




 「――それで、何で私に『どうすればいいか?』って聞いてくるんですか?」

 「いや、元聖女候補なら聖剣とかの知識も持ってないかなと」


 インビジブルスネークに食われていた勇者を救出して、カイセは自宅へと戻って来た。

 勇者はまだ目覚めていない。

 今は部屋で眠り、三馬鹿あたりが介抱しているはずだ。

 そしてカイセは溶けた聖剣を持って、ジャバを撫でているアリシアに相談していた。

 この聖剣の処遇をどうするべきか。


 「知らないですよ。一般的な、伝説のお話なら知ってますけど、聖剣は王家の管轄で教会には儀式や行事の時にちょろっとお披露目される程度ですよ?」


 溶けた聖剣を直して、そっと枕元にでも戻せれば平和だっただろうが、どうやらアテはないらしい。

 こういう時こそ〔星の図書館〕の出番なのだろうが、なまじ閲覧権限レベル10まで行っているせいで、聖剣絡みの本棚と本の数が多すぎて時間間隔が違うとはいえ答えを見つけるのに何日掛かるかわかりゃしない。

 余裕があるなら地道に探るが、勇者が目覚める前に出せるなら何かしらの答えは出したい。


 「普通に溶けた聖剣を渡すのではいけないんですか?」

 「いや、別に無理に直そうとする義務とかは無いんだけど、あの聖剣っ子の勇者だとショック受けるのが目に見えてて何かな……」

 「それ、おじいちゃん子みたいな意味合いで使ってます?」


 そんなわけで、無理なら無理で仕方ないのだが、とりあえず出来る事はないかと探してみる事にした。


 「そもそも、聖剣って溶けるんですか?本当に溶けてるんですか?勇者の持つ伝説の武器ですよ?」

 「ほい現物」


 アリシアの目の前のテーブルに、取り出した聖剣の現物を置く。


 「……溶けてますね。これ剣としては使い物になりませんよね?」

 「ステータス上昇とかの能力効果は生きてるみたいなんだけどな。ただ言う通り剣としては完全になまくらだな」


 ナマクラにはナマクラで使い道が無くはないが、それは聖剣の役目ではない。

 ステータス上昇が生きているのは幸いではあるので、剣として使わずとも利益はあるのだが、直せるなら直すに越したことはない。


 「カイセさん、色々自作で作ってますけど、聖剣の修復とか出来ないんですか?」

 「流石に無理です」


 包丁などの単純な刃物類なら作れるし治せるが、流石に聖剣は無理だった。

 更に壊すのは出来そうではあったが。

 ちなみに神剣にも確認はした。


 『神剣や、神剣より生み出されたゴーレムなどの調整・修復は可能ですが、その他の物に関しては対象外になります』


 とのことなので神剣は役に立たない。


 「修復無理ならこのまま手渡すけど、一騒動起きそうで嫌なんだよなぁ……」

 「とは言っても直せないなら仕方ないじゃないですか」

 「そーなんだけどさ」


 結局、誰が悪いかと言えば自分の身を守れず、自力で脱出する事も出来なかった勇者ロバート自身なので、ショックを受けても仕方はないとは思うのだが……。


 「紛いなりにもお客さんで、尚且つ結構な金額をまき……お支払い頂いてるからその辺のサポートぐらいはしたいと思うじゃない?無理な事はしないけど」

 「それなりには巻き上げている自覚があったんですね」


 環境的には言い値で問題ない場所ではあるので後ろめたさは全くないが、それでもやはり悲しい顔で帰られるのも避けたいと思う気持ちぐらいはある。


 「というわけでアイデアください」

 「と言われましても……直すのが無理ならいっそ新しい聖剣を作って渡せば良いんじゃないですか?カイセさんがあり得ないマジックアイテム作る時の要領で」

 「聖剣は流石に……」


 流石のカイセも、聖剣までは作れない。

 カイセは作れないが……


 「(なぁ。お前の力で聖剣を作れたりするか?)」

 『……条件付きで可能です』


 騎士ゴーレム作成の派生で武具が造れた神剣の作成機能。

 試しに聞けば、聖剣までも作り出せるという返事が返って来てしまった。


 「(条件ってのは?)」

 『そちらのナマクラの正常時と同性能をお望みの場合、まずはカイセ様の現魔力の八割を消費します』

 「(魔力を馬鹿喰いするくらいは全く問題ないけど)」

 『加えて材料が必要になります』


 普通程度の剣を生み出すときには魔力だけで済んでいたが、流石に聖剣作成にはそれだけでは足らないようだ。

 それだけとは言いつつ八割持っていかれてるのだが。


 「(それは何?)」

 『〔ミスリル〕〔オリハルコン〕。これだけは魔力作成で代用する事が出来ないので、現物が必要になります』


 典型的な異世界素材。

 希少な〔ミスリル〕と〔オリハルコン〕が必要になる。

 聖剣の材料として使われているのだから当然と言えば当然か。


 「(このナマクラを鋳潰せない?)」

 『出来なくもないですが、出来れば未加工のほうが良いかと思います』


 新品未使用もしくは原石。

 ……実はカイセには心当たりがあった。


 「ジャバ。ちょっと起きてくれ」

 「ふぁあぁ……どうしたの?」


 アリシアに抱えられながら眠っていたジャバを起こした。

 

 「ちょっとジャバの家に用事が出来たんだけど、アレ(・・)を貰ってきても良いか?」

 「いいよー。だけどお家は壊さないでねー」

 「もちろん。ありがと。それじゃあちょっと行ってくる」


 カイセはジャバのお家へと《転移》した。

 お家と言えど、結局はただの洞窟だ。

 ジャバの寝床。

 その洞窟の奥に、目的の物は眠っている。

 それをそそくさと採掘するカイセ。

 必要量だけ採取して、そのまま《転移》で帰宅する。


 「ただいまっと」


 カイセは持ち帰った採取品を、テーブルの上に放出する。

 

 「何ですかこれ……って、あれ?こっちの石は何か見覚えが……」

 「そっちは〔ミスリルの原石〕だな」

 「……もしかしてこっちは?」

 「〔オリハルコンの原石〕」

 「……どこから取って来たんです?」

 「ジャバの寝床」


 アリシアは何かを考える仕草をしている。


 「……そうですね。魔境の森ならミスリルやオリハルコンが眠る洞窟ぐらいありますよね」


 それが現実を理解した結果なのか、単純な思考放棄なのかは知らないが、どちらにせよスムーズに受け入れられたようなので良しとしよう。


 「というより、もしかして本当に聖剣を作る気だったりします?」

 「いやだって作れるって言うから」

 「誰がです?」


 アリシアには喋る神剣の存在は知らせていなかった。


 「……知り合いが」

 「私の時にも『知り合いが』って言って、それがジャバちゃんだった経験があるんですが、そのお知り合いもトンデモない方だったりします?」

 「ノーコメントで」


 伝説の神剣なのでトンデモない方です。


 「あれ?カイセさん、いつの間に原石をしまったんですか?」

 「え、あれ?片した覚えはないけど……」

 『聖剣が完成しました』

 「(ってお前か。はえーよ!いつの間にか素材は無いし、魔力もごっそり減ってるし!)」


 その手際に気付かなかった以上、今後もこっそり魔力を奪われていても気が付けない気がする。 


 「(とりあえず、魔力を使う時はちゃんと確認してからにしてくれ)」

 『了解しました。ところで完成品をお出ししてもよろしいでしょうか?』

 「(……出してくれ)」


 先程まで素材が置いてあったテーブルに、出来立てホヤホヤの聖剣が置かれた。


 【聖剣イクスカバー】

 〔全ステータス+250〕

 〔魔法適性(全)付与〕

 〔全レベル+2〕

 

 性能は一致。

 見た目は……。


 「うわ、精度がエグい」

 「この辺りの傷って、多分使っていくうちに自然に付いた傷ですよね?そういうのまで再現されてるんですか?――いえそうじゃない…まずはこの短時間で聖剣が出来上がった事に対してツッコミを入れるべきで……けどもう今更で……」


 何か変な迷走に走ったアリシアは置いておくとしよう。

 完成した神剣産聖剣は、正に溶ける前の聖剣瓜二つのものが出来上がっていた。

 あくまで比較しただけで、どこまでの再現度であるかは担い手しか判別は出来ないだろうが、少なくとも溶けている部分以外は全く同じに見える。


 『使用目的に合わせて、傷なども再現しました』


 神剣さんが思ったよりも優秀だった。

 十をお願いして十二が返って来た気分だ。


 「この聖剣を『預かってました』って言って返せば問題は全部解決するよな?」

 「まぁ嘘をつく事になりますが一応は。嘘がばれた時に何か問題が起こる可能性はありますけど、そこは私関係ないんで」

 「『新しい聖剣を作ればいい』って原案はアリシアのものなのでバッチリ共犯です」

 「私関係ないです」 


 兎にも角にも、溶けた聖剣問題は一応解決しそうだ。


 「でも、物の思い出のようなものは継がれていないでしょうけどね。この剣には」

 「思い出はモノではなく人の心に宿るものだから」

 「良い言葉風に言っても特には響いてこないですけどね」

 「……とりあえず共犯増やすか」


 そうして呼び出されたのは、隠密組のリーダーさん。

 溶けた聖剣と新たな聖剣を披露する。


 「という訳で、こっちの溶けた聖剣をお返ししますので、後の事はそっちでお願いします」

 「事後の…バレた時の対応を全部丸投げしましたね」


 聖剣の破損に、新たな聖剣。

 隠密が抱え込む情報としてはかなり重い物になりそうだが、そこはまぁ頑張れ。

 とは言え結局一番苦労するのは王様になりそうだ。

 片側は溶けているとはいえ、国宝の聖剣が二本になったのだから。




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