彼方の世界
「――あ、カイセさんのもとで管理されるなら大丈夫そうですね。中身」
「基本全部エクスに丸投げするけどな」
カイセが対峙するのはいつものポカ女神。
神様領域に再びやって来て、二振り目の神剣に関する処遇を伝えた。
外身の剣はエルフの管理下に、そして中身は小人としてカイセのもとへ。
「それにしても…エクスカリバーでエクス、名づけのセンスが相変わらず安直ですよね」
「ほっといてくれ」
ついでに並ぶ安直な名づけセンスに一言突っ込みを貰う。
「ですが二振り目に関しては…カナタですか。それらに比べればちゃんと考えた方じゃないですか?一応剣だった存在に付ける名前なのかは疑問ですけど」
「ぱっと思いついたのがそれだったんだから仕方ない」
「まぁ実際、遥か彼方から来た剣なのは事実なんですけどね。また何とも言い難い世界からよくこちらまで流れ着きましたよ」
「…ん?もしかして出所判明したの?」
「はい。二振り目の…神剣カナタの出身世界は何とか特定してくれました!天使たちが!」
すると話の流れで出てきた、神剣カナタの流出元。
あの剣が授けられた世界の特定。
なおその成果は相変わらず天使よりもたらされたもの。
当人達は今日は見当たらないが、彼女たちの残した資料を女神は引っ張り出す。
「あ、それ引っこ抜くと…」
「きゃあ!?」
「うん、崩れるよな」
積み重ねられた資料を無理に引っこ抜き、タワーを盛大に崩して埋もれる女神。
ポカ女神の些細なポカで、以前より整理されていたこの場は再び散らかることになる。
「……それで、あの神剣の出身世界が判明しました」
「後で片付けなよ?自分で」
散らばるそれらを見つめながら、何事もなったかのように本題に戻る女神。
なんとなく天使の仕事がまた増えそうな気がしたので一応一言添えておく。
「出所はやはり滅びた世界。残念ながら既に存在しない世界でした」
そして語るその世界のお話。
ただし既に終わってしまった世界の話。
「あの神剣、カナタは本来の世界にもたらされた際に《神具》として神殿に奉られました。そしてそのまま神殿の守護、守りの結界の起点としての役目を与えられていました」
カナタ自身から聞いた話とも符合するその在り方。
人類にもたらされた神剣は、神聖なものとして大事に奉られ、同時に守りの道具として活用された。
「ですが…詳細は語れませんが、その世界に危機が訪れました。そしてその世界の人類は危機を乗り越えることが出来ませんでした」
そんなカナタの世界で、起きてしまった世界の危機。
本来ならばそれらの危機に立ち向かう為にも使用される神剣だが、その世界では本物の危機に対しても振るわれることはなかった。
それが何かしらの心理的・政治的な理由なのか、単純に剣の活用が不適切な危機だったのか分からない。
しかし現実としてカナタは世界の危機にも安置されたまま…その末に人類は危機を乗り越えられなかった。
「結果その世界の人類は、保護プログラムが適用された少数を残して滅びてしまいました」
「保護プログラム…もしかして方舟的な?」
「役割的には似たようなものですね。詳しくは語れませんが」
そしてその世界の人類は滅びた。
だがその裏で、あの方舟のようなシステムによって完全な無だけは回避できたようだ。
どの世界においても世界の危機には、何かしらの緊急装置がある様子。
それこそカイセの前世、日本地球の世界にも何かが眠っていたのだろう。
「そしてそんな滅びの世界、人類を始め生命体が全て消えた世界に、あの神剣は取り残されました」
そうして世界の危機に人類は滅び、保護された極少一部もそのまま世界の上からは消え去った。
結局回収も、持ち出されることなく神剣は神殿に安置されたまま置いて行かれたような形になり、そのまま滅びゆく世界に放置されていた。
「そのまま神剣は滅びる世界と共に運命を共にした…と思われていました」
最終的にその世界は世界丸ごと滅びて消えた。
件の神剣もその時に、世界と運命を共にしたと思われていた。
ゆえにこそ流出記録には刻まれなかったその行方。
「ですがより詳細に調べた結果。その滅び、消滅の間際に何かが世界の壁を越えた痕跡があったようです」
しかし世界の滅びの際に、要因不明ながらも神剣は世界の壁を越えていた。
「それが何をキッカケにしたのかは分かりません。しかし滅びの際する観測の大乱れに隠されてしまった形で流出したものが例の神剣、そして辿り着いた先がこの世界だと判断するのは状況的には自然な流れだと思います」
実は確固たる証拠はない。
だが実際に、見つけた世界にはカナタとソックリな神剣の記録があり、その世界は滅び、その滅びの間際にそれらしき観測データがあった。
状況証拠を繋げればそれっぽいストーリーが出来る。
ただし…やはりその原因、〔何が神剣を引っ張り出して、この世界に招き寄せたのか?〕は不明のまま。
全て偶然の可能性もあるし、何かの意図があった可能性もある。
(正直、初代勇者のもとに…って時点で怪しさ拭えないよなぁ)
しかも受取先が勇者ともなれば疑惑の目も当然だろう。
「勿論謎はまだ残りますが、いずれにせよ出所が判明しました。なので何の憂いもなくカナタの存在証明を発行出来ました!ルール上は自由にできるのですが、後からイチャモン付けられることが心配だったのですが…相手にその資格が残ってないことが分かって安心しました!」
そんな謎はまだ謎のまま残したまま、女神は不安が一つ消えて安堵する。
この世界における〔存在証明〕の発行。
流れ着いた漂流物をこの世界の存在と認める処理。
これ自体は正当な行為だったのだが、神剣ゆえにその流出理由次第では後からイチャモンを掛けられる可能性を気にしていた女神。
しかしその心配がないと分かってようやく一安心。
「という訳で正式に保管される剣と、小人化した中身に存在証明を発行しました。これで彼らもこの世界の正式な存在です」
「ちなみに、別々に存在証明付いてるなら一つに戻すのは不可?」
「いえ、出来ますけど…フルスペック状態の神剣が二振りある状態は正直どこから嫌味で突かれるか分からないので出来ればバラバラのままを維持してくれると私としては助かります」
「相変わらず理由が女神っぽくない」
出来れば一つに戻すなとお願いされたが、これで神剣カナタの処遇は安泰。
一応問題児扱いのカナタだが、無力な小人の体でエクスの監視下に居る限りは何かを起こすのは難しいだろう。
「と…そうだ!そうでした!この件で一つ聞きたいことが…初代勇者が何故あの神剣を入手したのか分かりませんか?こちらのデータベースでも把握できなくて…」
「全然分かりません」
そうして安心していた女神が初代勇者について尋ねてきた。
二振り目の神剣を何故か入手した彼のその理由。
その上でエルフの国に渡した理由なども含めて謎の多いその行動。
そんな疑問の根本を尋ねられたカイセだが、勿論全く分かるはずもなく。
「まぁですよね。ではお願いですが、もし何かしらの情報を入手したら知らせて貰えませんか?」
「うーん、いやまぁ良いけど、もしかして何かマズイ事?」
「マズイかどうかを判断する為の情報集め、と言ったところですかね?」
流石に女神も何も出ない前提でとりあえず尋ねた様子。
だが代わりに何かしらの情報を入手した時には共有するように求められる。
振り返れば初代勇者には不審な行動が多い。
魔境の森に隠した神剣と、それが安置されていたあの空間に更に隠されていた多くのギミックの真意。
更には隠れ家にあった漂流物のバスに、今回の二振り目の神剣。
この世界で普通に暮らすには必要無さ過ぎる謎の数々。
女神もそこを気にしての打診なのかもしれない。
「それともう一つ…これが最も大事なお話になります」
すると更に深刻そうな声で告げるお話。
女神の真面目な表情にカイセも身構える。
「…エルフの国にある私を奉る祠。もう少しだけで良いので立派なモノにして貰えるようにお願いして貰えませんか?!」
「どうでもいい話しか残ってないみたいなので帰ります。それじゃ」
「カイセさーん!?どうでも良くないです!御神体って結構大事で――」
世界樹や自然が第一のエルフの国の信仰。
一般的な女神への崇拝はあくまでも二番目な彼ら。
その結果として余所に比べてだいぶ簡素で外に置かれた女神の神殿。
女神直々にそんな扱いの向上を求められたが、どうでも良いので適当に流して、カイセは現世に帰るのだった。




