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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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剣の名は



 ――エルフの国の特別な領域で、しかし立ち入れる者であれば割と簡単に触れることが出来た二振り目の神剣。

 使用制限、鍵も縛りも掛けられずに、それゆえに先の騒動では簡単に悪用された。


 「パタン――これで安々とは手に取れぬでしょう」


 そんな二振り目の神剣、カイセが回収して最終的にエルフの国へと返還されたその剣は今度こそきちんとした封をされた。

 頑丈な箱に収められ、きちんとした鍵のある重要保管庫に収められ、簡単には手に取れぬようにされた。


 「あぁ…俺の体が…」


 その様子を眺めて落胆する一つの存在。

 小人の体に収められた、二振り目の神剣の中身。

 管理人格とも言える存在は自らの体である剣が触れられぬ場所に収められる景色を目にして嘆いていた。


 「…まぁいいか。よっと」


 だがその嘆きも僅かな時間。

 意外にもすぐさま平気そうな顔を見せる。


 「そんなあっさりして良いのか?まぁ嘆いてもどうにもならないことだけど」

 「うーん、いやまぁ確かに嫌だぞ?でも考えてみれば分離させられた状態でずっとずっと保管されてきたわけだし…勿論取り戻した時はよっしゃ!だったけどな?でもなんというか今更固執しても…ぶっちゃけこの足の付いた体の方が自由だし。た!た!」


 元々は神剣の中身として生まれた。

 しかしこのエルフの国にやって来て、中身と外身で分離させられた状態で長く保管されてきた。

 その上、例の魔改造小人兵や、今の小さな小人兵モドキの体を手にした中身は、自分の意志では中々身動きの取れない神剣本体よりも自由さを感じている。

 その為か、仕方ないで割り切れるぐらいにはこの状況に達観していた。


 「逆にそういうスタンスなら、やっぱあの神剣に戻して封印しておいた方が良いのか?」

 「まてやめてあの中絶対暗いし狭いし暇だしやめて」


 ならば逆に神剣に戻して一緒に封をした方が安全なのでは?とも思ったカイセだったが縋りつかれて懇願される。


 「それにしても…お前どうするかな?」


 そうして神剣本体の処遇が確定した中で残るのは中身の処遇。

 小人の中で一時預かりの最中。

 だがカイセ的にはどこかに放り投げたい厄介物でもある。

 しかしこの存在は、神側にも、精霊にも、エルフの国にも、人族側にも拒まれた存在。


 「…いっそ適当な自然に還して放置して…」

 「だから待て!いま無力!戦う力皆無!非力な弱者!獣に食われて壊れる!!」


 最悪、不法投棄も視野に入れたが流石にそれは不安も残る。


 「もう諦めてお前が持って帰れよ。我をこんな体にした責任とれ!こっちとしても下手なとこに投げられるよりお前のとこの方が安全なんだよ。体壊れても直してもらえるし」

 

 その中でどうも中身としてはカイセのもとに居た方が良いと考えているようだ。

 下手な誰かに預けられるよりも、管理とメンテナンスが出来て他者の害意をある程度跳ね除けられるカイセの傍の方が生活面では平穏安牌なのは確か。

 打算ではあるがカイセに持って帰って貰うのが吉という判断に至っていた。


 「…当分はそれしかないのかな。まぁジャバたちにも良いおもちゃみたいだし」

 「おいおもちゃ言うな。一応神造物の中身。立派で稀有で凄い存在。子供のおもちゃ扱いするな!!」


 結局押し付ける相手も見つからないので、このままカイセが持ち帰る流れになりそうだ。

 ちょっとした負債ではあるが、しかしジャバフェニは意外にもおもちゃ…もとい遊び相手としてそこそこ気に入っているようなので許容範囲ではあるかもしれない。


 『何かあれば躊躇なく咎めます』

 「まぁうん、その時にはよろしく」


 勿論全てカイセの神剣の監視下で認められる自由。

 少しでも不審があれば上司の鉄槌が下るだろう。


 「でもそうなると、ちゃんと名前がないと色々不便か」


 するお気になってくるのは呼び名。

 神剣でありながら無名の二振り目。

 

 「お?名づけか?ようやくか…素晴らしい名を期待するぞ!」

 「ポチかな?」

 「犬じゃねえんだぞまじでやめろ!!!」


 仕方なしにではあるがお持ち帰りが決定した小人剣。

 ならば何かしらの呼び名を用意しなければ不便な状況かもしれない。

 という訳で…部屋に戻って始まる命名会議。


 「ちっちゃいの!」

 「名じゃねえぇ。次」

 「グゥ」

 「却下。次」

 『ケンで』

 「安直な上に微妙にまた犬でもあるんだよ!次!」


 ジャバフェニ神剣から候補が上がる中、その全てをわんこ蕎麦の如く素早く却下し続ける。


 「…ん?ケンが犬?」


 だがその中で気になる文言。

 

 「なぁ、お前ももしかして漢字が分かるのか?」

 「ん?あぁ、かつて授けられた世界の基本言語は漢字系統だったからな」


 (いぬ)を〔ケン〕と呼ぶのはこの世界の文字文化には存在しない。

 そもそも漢字自体が存在せず、カイセの持つ言語理解能力が自動で親しみ馴染んだ文字へと変換しているに過ぎない。

 ゆえにこそケンと聞いて犬ツッコミ出来るのは、この世界に存在しない漢字文化を知る者だけ。


 「…お前の居た世界ってどんなところだ?」

 

 となればやはり気になるのは、二振り目の神剣の出自(・・)

 女神すらまだ辿り着けていない、流れ着いた神剣の放出元。


 「うーん、どんなとこと言われても…ずっと聖域に安置されたからなぁ」


 その情報が得られればと思ったが、どうも向こうでの扱いもこちらに来てからと対して変わらぬ様子。


 「故郷じゃ結界の核として設置される使い方だったからな。せっかく剣武補助の能力獲得したのに戦闘で使われたことは一度もない。むしろ結界の中心として暇を持て余しつつ領域浄化能力を垂れ流すだけの生活だったからなぁ。なんか神官っぽい誰かが毎日拝みに来るぐらいで人との接触もなかったし」


 故郷では結界の核として据え置かれた二振り目。

 生まれ授けられてからずっとそんな感じだったので、特に明確な目印を持たない。


 「それがなんかある日いきなり、人間たちが大騒ぎし始めて…で、気付けば誰も来なくなったんだよな」


 だがその結界の核としての役割は変わらぬままに何故か人の姿が消えた。

 毎日欠かされなかった拝み、その日を境に一度も訪れなかった。

 

 「で、そのまま放置されたまま…どのくらい経ったか?わかんないけど…ある日急に感覚が全遮断されて…気付いた時には見知らぬ男の手にあった。あれ多分こっちじゃ勇者と呼ばれてた男じゃないかな?」

 「初代勇者か!?」


 そしてよくわからぬままに世界の壁を越え、噂の初代勇者のもとへと届いた。

 だが手にした二振り目の神剣を何かに使うことはなく、そのままエルフの国に預けた初代勇者。

 実際に接点があったのは、ここに運ばれるまでの数週間。

 しかもずっと仕舞われたままで何かを交わすこともなかった。

 いや、正確に言えば渡される直前に、中身と外身で分離させられてはいた。


 「で、剣は正式に里に、中身はとある一族の預かりになったと」

 「だなー」


 結局詳細は分からない。  

 だが流れた神剣を最初に手にしたのが初代勇者というのは出来過ぎた話。

 そこには何かそうなる為の必然があったと考えるべきだろうか。


 「というか名前まだー?」

 「…じゃあカナタで」

 「カナタ…彼方…それ剣に着ける名前なのか?って感じはするが…響きは悪くない。それでよし!」


 そんな昔話も程々に、急かされた二振り目の名前。

 ちょっと迷った末に出てきたのは【カナタ】。

 実は有名な剣の名前でも付けようかとも思ったが、名剣の名をコレに与えるのはなんか癪に障ったので関係ないとこから引っ張ってくる。

 世界の向こう側、遥か彼方より来たりし神剣。

 そこから安直に引っこ抜いた彼方…カナタという名を与えてみた。


 「で、お前はエクスかな?」

 『…ん?本剣ですか?』

 「そう。今までは神剣で通じたけど、なんか二振り目も来ちゃってるし、エクスカリバーからの愛称でエクス呼びにしようと思う。部下が名前呼びなのに上司が総称なのもアレだしな」

 

 そしてもう一つ、元からカイセの腰回りに寄生する本来の神剣の呼び名を改める。

 今までは雑多な呼び名だったが、これからは本来のエクスカリバーという名称から愛称として【エクス】と呼ぶ。

 流石にこのアホ剣に名をつけて置いて、ずっと付いていたエクスだけを総称呼びはしてられない。


 『…了解しました。どうぞお好きなようにお呼びください』


 エクスの了承も得られたので確定。

 これで二振りの神剣、エクスとカナタの名が定まる。


 「カタナ?」

 「違う、それ別の刃物。カ・ナ・タ!」

 「カナッタ」

 「違う!カ・ナ・タ!」

 「グゥ」

 「カ・ナ・タ!!」


 そしてその横では小人剣カナタがジャバフェニに自分の名を覚えさせていたのだった。

 

    

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