御礼選び、地雷あり
「――あの、これは?」
「君への謝礼。エルフからのね。ここから好きなのを好きなだけ持って行って良いらしいよ」
「多くないですか?」
エルフの国での滞在も残り僅か。
だが帰国の前にやるべきこととしてアルフレッド王子の使いに呼ばれここへとやって来た。
すると待っていた王子と、大量の物品。
山積みになったこれらは先の騒動解決に協力したカイセらへの謝礼の品らしい。
「まぁ君だけでなく騎士たちへ渡す分も含まれているからね。好きなだけとは言ったけど、半分は残しておいてもらえると助かるかな?」
「むしろ半分も要らないんですけど?」
「ある程度は貰ってくれないと、彼らにとっては困る貸しになるからね。他に欲しいモノがあるならこちらから要望を伝える事も出来るけど、何も受け取らないは辞めておいた方が良いよ。後々面倒になるからね」
「今がだいぶ面倒ですけど…まぁ見させて貰います」
エルフの国に貸し一つ、という状況も一個人としては不健全。
ここできちんと物品で謝礼を受け取った方が後々の禍根が拭えるのは事実。
なのでカイセは渋々、目の前の贈り物の山を見定める。
「というか…この山の半分が俺の取り分で、残り半分が皆さんでって…配分だいぶ偏ってませんか?まぁ自分で言うのもアレですけど、個人単位でみれば俺の方が貢献度が多くなるのは仕方ないとは思うんですけど、それにしても極端と言いますか…」
「まぁそこは個人と公人の差だね。一応同行者としての監督下にはあれど、君はどこにも属さない個人戦力、対して騎士は王子である私の部下で国の所属。彼らに褒賞を与えるのはあくまでも上司の役目で、お礼の品や対価はあくまでも命じた上司に渡されるものだからね」
「それはまぁそうですね」
騎士はあくまでも公務員。
上司である王子の指示で仕事をしたのだからその功績はあくまでも上司のモノで、褒賞謝礼は上司から受け取ることになるのも当然。
とはいえ流石に今回のゴタゴタに巻き込んで、エルフの国から彼らに何もないのはメンツに関わるという事もあり、王子たち人族の国への正式なお礼とはまた別に少しばかりの謝礼品がこうして用意されたようだ。
カイセ一人でこの山の半分は多いと思う反面、残り半分を騎士や従者たち全員で分けることになると考えればむしろ少なく思える量。
だがそれも実際の功績だけ所属や立場による差でもあった。
「これなにー?」
「グゥ?」
「なんだお前ら、これが何かも知らねぇのか?こいつはぁ――」
すると連れてきたジャバフェニに小人になった二振り目が品物の物色を始めていた。
なんだか気付けば馴染んでいる小人剣。
「ジャバこれー!」
「グゥ」
「これよろー」
「なんでお前まで選んでんだよ」
そのままそれぞれに欲しいものを選び出す。
ジャバフェニはともかく小人剣までちゃっかりリクエストしてくる始末。
被害を受けたジャバフェニは勿論選ぶ権利も受け取る権利もある。
しかし小人剣に関してはむしろやらかした側なのにしれっとこっちに混ざる図太さをしめしていた。
「さて…せっかくだからお土産用にも何かっと」
思い出したお土産の存在もあり、カイセはエルフの国っぽいものも選んでいく。
多分高価なモノなども含まれていそうだが、不死鳥の卵などの非常識な一品がお礼に交じることはないはずなので安心して選ぶ。
(…なんか今変なのあったけどスルーっと)
微妙に怪しい品に見えるモノも交じっていた気がするが、直感と鑑定でしっかりと回避する。
「ほう、いまのは確か噂の…」
その様子を見ていた王子が、何やら思い当たる節があったようで思わせぶりな言葉が聞こえてくる。
(なんでお礼の品なのに警戒しないとならないんだろうなぁ)
なんとなくスッキリとしない宝探しで、いくつか受け取る品を選び出したカイセ。
鑑定も併用しているので、曰く在りそうなものは完全に回避したはずだ。
ちなみに小人剣が真っ先に選んでいたのも正に怪しい品だったので却下してある。
(何か企んで選んだってより純粋に外れ引く不運タイプかな、こいつは)
こうしてエルフの国からのお礼の品をいくつか選んで受け取ったカイセ。
使いとして待ってくれていたエルフの男性の持つ紙にきちんと受け取りのサインも記す。
「おぉ、この短剣良いなぁ」
「この耳飾り、綺麗…」
その後は残った中から騎士や従者たちが、それぞれ一つずつ好きなものを探して受け取る。
彼らには功績毎に後程、国や王子から褒賞が出るのでここでは役職関係なく一律に選び出す。
「…エルマは選ばなくていいの?」
だがその輪の中には入らない鑑定師エルマ。
この中で最も謝礼、いやお詫びの品を受け取る権利のある少女。
「はい、えっと、私の分は別に用意されまして…」
「あぁうん、まぁ別格だよな」
この場ではなく別の、もっときちんとした場できちんとした品を受け取る手はずになっていたようだ。
今回の人族サイドの中で最も割を食った直接的な被害者。
攫われて監禁されたエルマには、きちんとしたルートで国からの賠償が渡されるのは当然と言えば当然なお話。
勿論王子の分も、この雑多な場で済まされるはずはない。
彼らには後程きちんとした場で、国に対する謝礼と共に対応されることになるだろう。
「…せっかくだしコレ貰えないかなぁ」
だがそれはそれとして、この中から興味を惹かれたものがあったらしい王子。
よく見れば例の怪しい一品。
王子自身が何やら呟いていたモノを興味深そうに見つめる。
「いやそれは」「王子、それはお辞めになった方が」
するとその様子を見て、カイセとエルマが同時に引き留める言葉を口にする。
共に鑑定持ち。
特にエルマは怪しい品を『怪しい』と知らせるのもお仕事の役職。
二人揃ってその品を不適切と否定する。
「…まぁ忠言あれば応えないわけにはいかないか」
おかげで踏み留まった王子だが、興味が消えたわけではなく名残惜しそうに視線を外す。
「王子、そんなに珍しい品が欲しいなら、良ければコイツを差し上げますよ」
「いやそれは要らないかな」
「お前らぁ!?」
そんな王子にあえて珍品を、小人剣を差し出してみるカイセ。
だが珍しいとはいえ、その存在の正体を知らされている者として流石に要らないとキッパリと断る王子。
「エルマは要る?」
「…カイセさんからのプレゼント…ですが、名残り惜しいですが…い、要りません」
試しにエルマにも押し付けてみるが、迷い葛藤の末にお断りされる。
「俺…そんなに要らない子なの?あの凄い剣の中身だよ…?」
流石に断られ続けた結果、小人剣も何か落ち込みいじけてしまったのだった。