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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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駆け落ち(偽)のお手伝い




 「――今この時を以てして、罪人シェルサラマを追放する!」

 「今までお世話になりました。それでは…失礼します」


 裁判から二日後。

 追放刑に処される事になったエルフ、シェルサラマはエルフの国を追放された。

 数名ほどの見届け人、そしてそこに同席させて貰ったカイセに見送られ、彼は生まれ育った故郷を追われたのだった。


 (…さて、戻ってこっちも準備を済ませないと)


 そんな別れの時間だが、カイセは特に感慨もなくせっせと戻って別の準備に勤しむ。

 エルフの国にとっては大事の追放刑の早期実行。

 あちこちで『厳しすぎたのではないか?』というエルフ達の声が聞こえる中を抜け、そんな前座(・・)でなく本命となる夜に備えて動くカイセであった。




 「――そろそろか。それじゃあジャバフェニ、あとアホ剣。留守番よろしく」

 「はーい」「グルゥ」「アホいうな!」


 そして迎えた夜の時間。

 借りている部屋にジャバたちを残して、カイセは一人で出かける。


 「この装備、意外と再登場の出番早かったなぁ」


 カイセが纏うのは隠密装備や魔法。

 道具や魔法によって最大級の見つからない存在になっての行動。

 以前にダンジョンに忍びこむ際に纏ったそれらの再登場。

 ただしここは魔法や知覚に優れるエルフや精霊の住まいである為、幾分調整は施したマイナーチェンジ版。

 夜のエルフの国、その森の中をバレないように移動する。


 「えっと…指定された場所は…こっちだな」


 そんな本気装備で移動するカイセが、向かうのはあらかじめ指定された場所。

 指定された時間に指定された場所に。

 その約束に向かう。


 「よし着いた。あとは待機と」


 そうしてやって来たその目的地。

 だがそこにはまだ何もなく、その時が来るまで待機する。


 「……遅れてるかな?」


 既に到達した約束の時間。

 しかし待ち人は未だ来ず。

 元々あくまでも目安の時間なので、遅れるのは考慮の内。

 ただ…次の時間(・・・・)もあるのでまだ余裕はあるが、あまり遅くなると計画が頓挫する心配が出てくる。


 「…誰か来る」


 すると十分ほど過ぎてこの場に近づいてくる気配を感じ取るカイセ。

 恐らく待ち人、その独特な気配。

 だがそれが本当に待ち人である保証がまだないので警戒は解かない。


 「ふぅ、はぁはぁ…あの…いますか?」

 「いるよ。ここ」

 「きゃ!?」


 その来訪者が待ち人であると証明された瞬間に、カイセは隠密を緩めて顔を出す。

 すると唐突に現れたその姿に驚く女性。


 「あ…すいません!ビックリしてしまって」

 「うんまぁ仕方ないけど、できれば静かにね」

 「はい、ごめんなさい」


 隠密、秘密の行動中の二人は大声など言語道断。

 その再確認をした後に、二人は改めて向き合う。


 「ふぅ…お待たせしてすいません。カイセさん」

 「ううん大丈夫。そっちこそお疲れ様、ミコ」


 やって来たその女性はミコ。

 巫女型小人兵として、今は自由の身になった彼女。


 「…付き添いの人は?」

 「すいません。ちょっとトラブルがあってそちらの囮になってくれました」

 「そうか。じゃあこのまま続行で良いんだね?」

 「はい、お願いします」


 予定より遅れたのは想定外のトラブル故。

 とはいえ肝心のミコはしっかりと、この場所にまで辿り着いた。

 囮になってくれた誰かの為にも、あとはカイセが役目を全うするのみ。


 「じゃあ早速行こう。有効範囲の都合もあるから背負わせて貰うけど大丈夫?」

 「はい!お任せします」

 「そんじゃ…よっと」


 そしてカイセはミコを背負う。

 しっかりと背にしがみつくミコを含めて、改めて隠密の再展開を施す。


 「じゃあそのままじっとしてて。揺れるけどそこは我慢で」

 「はい!」

 「そーりゃ!」

 「ひゃ!?」


 カイセはそのまま、ミコを背負ったまま程々速度で走りだした。


 「――時間は?」

 「…大丈夫です。間に合いました」


 そうして二人は次のチェックポイントに着く。

 すぐさま時間を確かめると、予定の時間には間に合った様子。

 そのまま二人は予定時間がやって来るのを静かに隠れて待つ。


 「…そろそろだな。それじゃあカウントお願い」

 「分かりました…来ます、十秒前!」


 するとやって来る次のミッション。

 始まるミコのカウントダウン、秒単位で言葉にされる。


 「3…2…」

 「行くよ!!」

 「1…ゼロ!」

 

 その数字がゼロになる前に駆け出し、ゼロになると同時に壁を踏みつける。


 「カウント20!19…18…」


 直後、ゼロになったカウントを再び二十から数えだすミコ。

 カイセはその数字を聞きながらも足を止めずに壁を蹴り、そのまま壁を登っていく。


 「…十秒前!」

 「越えた!!」


 そのカウントの半分が過ぎた時、カイセは大きな壁を登り切った。

 勢いそのままに向こう側へと、エルフの国の外(・・・)に飛び出した。


 「着地!…ふぅ。ここさえ越えたらもう大丈夫だな」

 「2…1…ゼロ!結界戻ります」


 再びゼロを迎えた数字。 

 瞬間、国の結界はまた元の姿を取り戻した。

 この二十秒間はエルフの国を覆う結界に穴が開く(・・・・)僅かな時間。

 唯一の出入り口となる厳重警備の国門以外に出入口が出来る二十秒間。

 その隙間にカイセとミコは国の外に人知れず出る事が出たのであった。




 「――さてと、そろそろ待ち合わせ場所が近いはずなんだけど」


 そうして密出国した二人は、国の外に広がる精霊の森を歩き、そのまま例の宿泊所へと向かった。

 エルフの国に訪れる際の慣らしの場所、次のチェックポイント。


 「…あ、あれですか!」

 「あぁ、アレだな」


 そしてそのチェックポイントを見つけた二人。

 特に巫女は辿り着いたその場所に、駆け足で寄っていく。


 「…来た」

 「シェルくん!」

 「こんばんは、ミコ様…うぉ!?」


 するとその宿泊所で待っていたのは、昼間に追放されたシェルサラマ。

 ミコはその姿を見つけて飛びつく。


 「おぉおぉ熱いなぁ。お二人は」


 そんな二人の間から、ひょこっと顔を出す精霊の姿。

 現在ミコの生命線として、同居状態の精霊エン。


 「エン!?出てこれるのか?」

 「ここは精霊の森、こういうところでなら顔を出すぐらいは出来るさ」


 ミコと同化しても意識が消えたわけではなく、ミコの中でミコと共に生き続けるエン。

 その上でこういった精霊の森のように、精霊や自然の力が濃い場所ならば一時的に文字通り顔を出す程度のことは可能だという。


 「それよりも二人とも、早く次行け。二人はもう進むだけだけど、彼は時間までに帰らないとお尋ね者扱いなんだぞ?」

 「あ…すいません、カイセさん」

 「まぁ気にしなくていいよ。一人だけなら無茶も出来るし」

 「無茶しないで済むように、早々に出発しますか。準備は出来ていますから」

 「そうですね」


 カイセに任されたお仕事はここまで。

 この場所で待つシェルサラマに、ミコを送り届けるまでが役目だった。




 『駆け落ち?』

 『はい。正式にそういう話という訳ではないのですが、対外的にはそういう形にして、私はこの国を出ようと思います』


 裁判の後のミコの相談。

 それは駆け落ちを模した国外脱出。

 自由になったミコは、エルフの国を離れる決意をしていた。


 『皆さんに救われた私の命ですが、今後この国のトゲ(・・)になる存在でもあります』


 あのシステムを手放してまで救う決断をした国の人々には感謝しかないミコ。

 しかし今後彼女の特殊な立場が、文字通りの生き人形としてのミコはこの国の新たな火種になりかねない存在となってしまった。


 『だから国を出ようと思います。正式な出国許可は多分でないので、密出国する形で』


 ゆえに人知れず黙って、この国を離れる決意をしたミコ。

 多くの人に迷惑を掛けるが、しかしそれでも将来的な不安の解消にはつながる。

 そう判断して出国を決意した彼女は、その護衛役(・・・)にシェルサラマが名乗りを上げた。


 『彼には挨拶だけのつもりでしたが、同行の名乗りを上げられまして…断り切れずに、結果あえて追放刑を受ける事で、彼自身が伴う火種を沈めつつ私の同行者として旅に出てくれる事になったのです。ちょうどいいので駆け落ちの形を装って』


 シェルサラマはあえて追放刑を受ける事で、ミコとは違って合法的にエルフの国を出国する。

 その上で密出国して来たミコを連れて世界に旅立つ同行者兼護衛となる。

 結果だけ考えれば二人一緒に密出国でも良いのだがそうすると罪人の彼は国外でも指名手配されかねない。

 ゆえに一度公的に罰の清算を受けた上で、ズルをするのは絶対に出国が認められないミコだけ。

 そして対外的には駆け落ちという形を取る事で、そのズルにも理由付けを行ってその後の騒動の方向性を制御する。

 ただでさえ同情が集まるミコの立場、そこで駆け落ちと聞いて深追いは出来まいという目論見。


 『で、俺はその協力を?』

 『はい。私を外で待つ彼のもとへと送り届けて頂きたいのです』


 そんな茶番(・・)のお手伝いをお願いされるカイセ。

 国にとっても、当事者にも大事なはずだが…茶番というには理由があった。 


 『…実は楽しんでますよね?』

 『はい!』


 肝心のミコが楽しそうな点。

 色々問題を回避するための自己犠牲の体を表には出すが、その内心では未知の世界への旅立ちを楽しみにする心がある。


 『楽しみなんです。外の世界が。ワクワク』


 国の外に出た事のないエルフが、そのまま巫女となりあの領域に捕らわれた。

 そんな人生を過ごしたミコにとって、外の世界は夢の場所。

 かつて一人のエルフの少年が青空に憧れて国の外に夢を見たように、実はミコも外に夢を持っていた。

 巫女である限り叶うことは絶対になかったそれが叶う可能性があるのだから、ワクワクするのも無理はなかった。


 国に残る火種の始末と夢の実現の一石二鳥。 

 その為の駆け落ちの茶番。

 追放されたシェルサラマを追いかける乙女の構図は良い隠れ蓑になるだろう。


 『(まぁあながち嘘ではなさそうだけど…多分あっちは本望なんだろうなぁ)』


 それはそれとしてシェルサラマ。 

 ミコの同行者となる彼も、恐らくは本望な作戦。

 カイセの勘が間違いなければ、彼はミコに気がある(・・・・)

 ゆえに駆け落ちというお話もあながち完全な的外れでもないのだろう。



 「――そんじゃ、ここまでご苦労さん。気を付けて帰れよ」

 「ありがとうございました。カイセさん」

 「その、色々お世話になりました」

 「うんまぁ、気を付けて」


 そうしてカイセは役目を果たして、去り行く三者を見送った。

 追放者と脱国者の、体面的に駆け落ちの成就。


 「…さて、俺も帰らないと。次の結界が緩む時間は…間に合わなければ違法出国ばれて俺がお尋ね者だからなぁ。よっと」


 そしてカイセはカイセで帰宅ミッションに挑む。

 協力者によって結界に穴が開けられるのは二度。

 その二度目で国の中に戻れなければ、違法出国扱いでエルフの国のお尋ね者にされてしまう。

 カイセは時間までに戻って、我知らぬと駆け落ちにも関わってない素振りで朝を迎えなければならないのだった。


 


 



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