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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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エルフ裁判



 「――以上を以て、其方には労働刑十年を言い渡す」


 目の前で下される判決。

 カイセは今、エルフの国のとある施設に足を運んでいる。

 ここはいわゆる〔裁判所〕のような場所。

 

 「では次の者を」


 そこでは今、幾人ものエルフ達が次々と裁判にかけられていた。

 彼らは先日の騒動の、クーデターに何かしらの形で加担していたエルフ。

 国において"犯罪者"となった彼らは、順々に裁かれ罰が与えられる。


 (あんまりこういうところに興味はないんだけど、一応当事者だから仕方ないか)


 外部の人族であるカイセは、本来このような場に招かれる立場ではない。

 しかし今回の騒動の解決において中心部に関わっていた関係で、この場への立ち合いも望まれた。

 とはいえ基本的には見守るだけ。

 傍聴席で座って見つめて、もしも必要な場面になれば参考人などの立場で呼ばれる事になっているだけ。

 何事も無ければただの見学者で終わる。


 「次の者を」

 「…失礼します」

 (お、あの子は二人目の巫女の)


 すると次いで入室して来た罪人は、カイセも対峙した二人目の巫女。

 騒動の中で無理矢理に巫女になった女性。

 だが巫女の真実が明かされた今、無理矢理叶えた念願の巫女の立場がかなりアレだったという、ちょっと可哀そうな立場にも思える。

 とはいえ罪と罰が消えるわけではないが。


 「――以上を以て、其方には労働刑五十年を言い渡す」

 「ごじゅ…く…うぅ…はいッ…」


 そんな彼女にも言い渡された判決。

 労働刑五十年、一番シンプルな罰。

 不自由な環境下での強制労働刑、それを五十年分。 

 人であれば終身刑にも近い五十年にも及ぶその罰は、長寿のエルフゆえにまだ未来に希望がある。

 あるのだが…それでもやはり五十年という数字には苦い顔をする女性。

 自分のやらかしを棚上げにしてでも文句の一つ二つを言いたいような表情。

 だが…なんとか言葉を飲み込み、そのまま罰を受け入れる。

 

 「…エルマ殿、お願いします」

 「はい」


 そして次々行われるスピード裁判。

 その途中に名を呼ばれ、証言台へと建つエルマ。

 人族である彼女だが今回は明確に攫われた被害者としての立場で語る事を求められる。


 「嘘だ!!その女は嘘を証言してる!!」

 「エルマ殿の証言はその他の証拠とも一致しています」

 

 証言には時々異議の言葉が投げかけられる事もあるが、その度にエルマの証言が正当なものである証拠が提示され、少しでも罰を軽くしようと目論む往生際の悪い罪人は自滅して立場を悪くする。


 「以上を以て、其方には重労働刑十年を言い渡す」

 「重!?待ってくれ!せめて通常の――!!」


 最終的に刑罰が重くなり狼狽えながら強制退場させられる者もいる。


 「――次の者、シェルサラマ」

 「はい」


 そうして続く裁判の中で、やって来たのはシェルサラマの番。

 既に樹官や外交役としての地位は没収され、精霊の加護も返却した元精霊術師。

 彼はクーデターに加担した罪人であるが、騒動解決の際には一種の司法取引が交わされている。

 今回の判決はそれを加味してある程度軽くなるだろう。


 「――以上を以て、其方には追放刑を言い渡す」

 「はい、謹んでお受けします」

 (ん…まって?追放刑?!)


 軽くなる…はずだった罰は、想像以上に重いものになった。

 エルフの国の裁判、刑罰において一番重いモノは〔無期懲役〕。

 長くを生きるエルフにとって死ぬまでの不自由は死刑よりも重いとされている。

 次いで二番目が〔死刑〕。

 そして〔追放刑〕はそれらに次いで三番目に重い罰になる。


 追放刑の内容はその言葉の通り〔エルフの国からの追放〕を意味する。

 故郷を、この国を、この森を大事に思うエルフにとって、国を追い出されて帰って来るなと宣言されるのは人によっては死よりもツライ罰。

 だがシェルサラマは何の文句をも言わずにその罰を受け入れた。

 まるで最初から知っていたような反応。



 「――以上を以て本日は閉廷とする。負傷ゆえに今回沙汰を下せなかった者たちはまた後日に行うものとする。解散!」


 そうして本日の裁判は終わる。

 裁かれたエルフはまだ全員ではなく、今も身動きが取れない者たちに関してはまた回復状況を確かめた上で後日に改めて裁かれることになる。

 例の、主犯格でありながら二振り目の神剣の中身に裏切られた男も、今はまだ安静にという状況らしいので今回は裁かれなかった。



 「――カイセ殿。少々お時間をいただけませんか?」

 「え?あぁはい、構いませんが」


 そして裁判は終わり、人々がこの場を去りだした中。

 カイセはとあるエルフに呼び止められ、別の場所へと移動することになった。



 「――カイセさん、先日ぶりですね。その節はお世話になりました」

 「あれ?ミコ…なんでここに?」


 するとその先に待っていたのはミコ。

 解放された巫女型小人兵の女性だった。


 「そっか、今はもう外に」

 「はい。領域への縛りは無くなりましたから」


 元々彼女は例の世界樹領域から出る事は出来ない立場だった。

 しかし巫女のシステムから解き放たれて、精霊の助力もあり独立を果たした彼女は今はもう自由に外を出歩ける。

 勿論その存在自体が色々複雑なのもあって本当に自由にとは行かないものの、この場にやって来て裁判をコッソリ傍聴するぐらいは許されたようだ。


 「もしかして話し相手は」

 「はい私です。お願いがあって御呼びしました」


 どうやらカイセに声を掛けたあのエルフは、ミコの伝言役であったようだ。

 

 「実は…ご相談がありまして、あ、でもその前に、カイセさんはシェルサラマの判決について、その事情をご存知ですか?」

 「いや、全然知らない」

 「ではそこから説明しましょうか」


 その本題の前に彼女が語るのは、シェルサラマの追放刑の事情。


 

 「――自分から追放刑を望んだ?!」

 「はい、彼は自分の意志で『追放刑に処して欲しい』とお願いしたのです」


 そもそもの追放刑の決定自体が、シェルサラマ自身が望んだ罰。

 普通に考えれば罪人が刑を選ぶ事は出来ない。

 しかし彼の場合は自ら刑を重くする方向の申し出だった点と、そして何よりもミコの口添え(・・・・・・)があったからこそ実現した。


 「いや、貴方もその案に賛同したんですか?」

 「はいしました」


 国は巫女の関係者に対して後ろめたさを持っている。

 ゆえにこそ彼女の口添えを、無下には出来なかったのも理由としては大きいだろう。


 「一体なんで…」

 「ふふ、実はちょっと考えがありまして」


 そしてその理由を問うカイセに、ミコはちょっと悪そうな笑みを見せる。

 明らかに何か〔悪だくみ〕をする顔。


 「それで、実はカイセさんに相談したいお話というはそれに関係するお話でして…率直に申しまして、私達の駆け落ち(・・・・)に協力して貰えませんか?」

 



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