二振り目の処遇
「――さて、これはどうするべきか」
ミコ達の帰還と共に世界樹にまつわる騒動の一段落した。
そしてひとまずは身を休める為に、カイセらは借り受けている自室に戻る。
するとそこで思い出したのは持ち帰ってしまった厄介者。
二振り目の神剣の処遇。
「そうだ。報告と、確認もしてくるか。よっと」
まだ帰ったばかりのカイセだったが、再び部屋を後にしてある場所へと向かった。
「――えっと…これ生きてるの?」
「生きてますよ。神に過労死という概念はありませんから」
そうしてカイセがやって来たのは神様領域。
例の如く多忙さゆえにグッタリしているのはポカ女神。
神様には過労死という概念は無いらしいのでどれだけ多忙で酷使されても死なない。
ゆえにこそブラック環境が是正されない、悲しき職場であるようだ。
「とりあえず、方舟案件が落ち着いた報告に来たんだけど」
「はい、こちらでも把握してます。ご協力ありがとうございました」
代わりに対応するのはいつもの黒天使クロ。
安定して淡々と仕事をこなす彼女が女神の代わりに応対する。
「ちなみにあの方舟、まだあの場所に残り続けてるんですけどこっちで何かした方がいいんですかね?」
「方舟の収納に関しては後日こちらできちんと対応させていただきます。世界樹の環境が大きく変わったようなので少し時間は掛かりますが、方舟はそのうちあの場所から移動させますので大丈夫ですよ」
ついでに方舟の処遇についても確認。
今は地上で静止しているその舟は、そのうちあの世界樹の領域にあった格納庫へと戻ることになる。
だがその帰還には、世界樹回りの環境が変化した事で少しばかり時間が掛かる。
「どうやら、こちらで調べたところ、あの領域は随分と魔改造されていたみたいですね。方舟をあの場所に安置した時代にはどの領域空間との繋がりも持たない孤立空間にされていたはずなのに、後付けて無理矢理に世界樹の領域と接続されて一体化されて…ハッキリ言って再調整が大変です」
そもそも方舟の安置されていたあの空間は、世界樹領域との直接的な繋がりはなかったようだ。
しかし世界樹の力を利用する例のシステムが稼働し、世界樹領域が大きく拡張された段階で隣接空間として無理矢理に接続されてしまったようだ。
本来は人の手が届かない場所に仕舞われていた方舟。
本当に選ばれた者しかあの場所を訪れることが出来なかったはずなのに、接続された事でより多くの不適正な来訪者が触れられる環境になってしまった。
そんな事実が、女神たちの調査によって判明した。
あくまでも前任者の管理時代のお話だった為に資料を目にするまでポカ女神たちも知らなかったようだ。
「でもそれなら、システムが停止して領域が縮小された今はまた分断された状態になるんですか?」
「いえ、つながったままですね。だから調整が大変なのです」
そんな拡張で無理矢理繋がった空間。
なら縮小によって再び分断…とはならずに接続されたままとなった為に、両方の空間領域が現在歪んでしまっているようだ。
今すぐどうこうなる不具合ではないのもの、放っておくわけにもいかないようでまた神様陣営の仕事が人知れず増えていた。
「…うん、まぁ頑張ってください」
とはいえそれは本当に人知れぬもの。
神様視点の問題なので、もう散々に巻き込まれて面倒なカイセは下手に突っ込まずに我関せずのポジションを陣取る。
「ところで…神剣ってこのままでいいんですか?」
そして別のお話。
縮小する領域からの脱出時に預かったままになってしまった二振り目の神剣。
本来この世界に存在しないはずの一品。
その処遇を訪ねてみる。
「出所を調べてみましたが…紛失届の類は出てないですし、本当にどこから流れ着いたのかも分からないんですよね。いっそ滅びた世界の遺産とでも言われた方が納得するくらいに」
しかしその神剣の出処はなおも不明。
現存する多くの世界の記録を漁ってみても見つからず。
むしろ記録が喪失している滅びた世界出身だと言われた方が納得するようだ。
「なので現状、神々による強制回収は行われる事はない代物ですね」
「じゃあエルフの国に残しても大丈夫?」
「…以前なら、ですが今あの神剣には、中身が伴っていますよね?」
「あ、そういえば何か存在証明が云々とか」
以前にここで聞かされた〔漂流物の存在証明〕のお話。
あの時には、二振り目の神剣の中身がないことが存在の抜け道になっていたと言っていた気がする。
中身がない外側だけであれば、神剣が二振りある問題をパスできると。
しかし、今の二振り目には中身が伴ってしまっている。
「なので…出来るならもう一度分離して貰えると助かります」
ゆえにこそ問題解決の為に、外と中の再分離を打診されるカイセ。
「分離さえすれば問題なしって事で良いですか?」
「ひとまずは」
「分かりました。考えてみます」
そしてカイセはポカ女神の復活を待たずに帰っていく。
「――なんじゃこりゃあああ!!?」
その翌日、小さな叫び声がカイセ達の部屋に響いた。
「とりあえず成功かな?」
『お似合いの姿です』
「ちっちゃくてかわいい!」
その声の主を見下ろすカイセと神剣とジャバ。
大精霊たちのもとで英気を養っているフェニ以外の面々が見下ろす視線の先にあるのは小さな人形。
小人兵を模して小人兵よりも更に小さくカイセが作ったゴーレム素体。
自立行動は可能だが、戦闘能力皆無でカイセと神剣の支配下にあるゴーレム。
そして…その中に収められたのは二振り目の神剣の中身。
「せめて…せめてあの小人兵に!俺が組み上げた傑作に入れてくれ!!」
『せめてと遠慮した振りをして最大値を求める、度し難い存在ですねコレは』
この期に及んで例の特別改造した小人兵の体を器として求める図太い二振り目。
当然あんな危険物を預けるはずもない。
「というか良いのか!?俺様は素晴らしき神剣の中身だぞ!?エルフどもに黙って勝手に分離して、怒られても知らないぞ!?」
「あ、そこちゃんと神様陣営の許可取ったから。エルフ側には少し誤魔化さないといけない部分もあるけど、元のままだと世界的に問題が起こるって説明すれば多分大丈夫じゃないかな?あの騒動の後で更に世界案件抱えたくないだろうし。まぁダメなら駄目でその時に別の手を考える。少なくともお前はしばらくコレで」
「ちくしょおおおおおおおッ!!?」
神の作りし剣としてのプライドズタズラなマスコット的デザインの今の姿。
「ペチペチペチ」
「ちょ、やめろ龍!?ペチペチ叩くな!?」
そんな小人を、おもちゃでも見つけたように遊びだした子龍のジャバ。
一応材質的には強固なので、叩かれた程度では壊れないはずだ。
(あと本体はエルフに返還して…で、これはどうするか?)
神剣の中と外を分断したことで、目下世界的な問題は回避した。
だが…肝心で一番の問題点。
この小人の処遇について。
(持って帰りたくないし、どこかに押し付けられると良いんだけど…)
このままだとカイセがお持ち帰りしないとならない厄介物。
帰還の時までにどうにか誰かに押し付けられないかと模索する必要が出来てしまったのだった。