真の姿
「――なんか…オーラが凄い事になってるなぁ。世界樹」
システムの排除の為に手を貸していたカイセ。
彼は領域の縮小により、一足先に外へとはじき出されてしまった。
周囲にはエルフの技術者たちも居り、しかしそこにはまだミコ達の姿は無し。
後は彼らの無事の帰還を祈るばかり。
そんな状況で…彼らが目にしたのは世界樹の変貌した姿。
いや、むしろこれこそが本来の、真の姿というべきだろうか。
「これが、本当の世界樹様の姿」
「なんと神々しい」
「我らは知らなかったとはいえ、この姿を穢し続けていたのか…」
エルフ達は世界樹を向いて跪く。
今の世界樹の姿は、ありていに言って神々しい。
元々特別なオーラを纏っていたその大樹であったが、しかし今はまさに《神気》とでも呼ぶにふさわしいほどの雰囲気を漂わせていた。
搾取システムによって奪われていた世界樹の力。
そのシステムの機能が停止する事で、取り戻した本来の在り方。
(この姿あっての世界樹崇拝…崇めたくなる気持ちも分かるな。少なくともあのポカ女神よりは神様っぽい佇まいだし)
一応、本物の神様を知るカイセからしてもその世界樹の姿は神秘に満ちて神様っぽい雰囲気を感じ取れる姿であった。
むしろポカを繰り返したり、色々な事情に振り回されて右往左往している人間味の強いポカ女神よりもよっぽど神様に見える。
(この姿を取り戻したってことは、システムがしっかりと終わってるってことだけど…)
世界樹が本来の姿を取り戻す。
それは良い事ではあるだろう。
だが当然全てがプラスで終わるわけではない。
既に明確なマイナスを、カイセは感じ取っていた。
《其方は気付いておるようだのう》
「あれ…土の大精霊…?」
カイセのお隣に突如現れたのは、大精霊の一柱となる土の大精霊だった。
《どうやらそのしすてむとやらは、この大地にも恩恵をもたらしていたようじゃな。本来以上の》
大地に住まう精霊として彼は真っ先にその異変を感じ取っていた。
それは大地の変化。
大地から感じ取れる力の減衰。
《元より、世界樹はそこにあるだけで周囲の自然に恩恵を与える存在。しかし例のしすてむとやらはその恩恵にも上乗せを引き出していたようだ》
世界樹周辺の自然が受ける恵み力。
それもシステムはブーストを掛けて、通常以上に引き出し撒いていたようだ。
「これは…まずいですかね」
《悪影響が無しとはいかんな。少なくとも草木や作物の成長には影響は出るだろう。しかし…本来の在り方に戻るだけ。全て枯れたり不作になったりはせんだろう》
ブーストを失ったこの国の自然は、今後今まで通りの成長は望めない。
とはいえそれでも世界樹のお膝元。
余所に比べれば十分過ぎる恩恵は残る。
むしろ健全な状態に戻るのだけなのだから、後はそこに住まう者たちの受け止め方次第。
少なくともエルフ達は自分の意志でシステムを手放したのだからある程度の覚悟はあっただろう。
《水はさほど変化はありませんでした》
《風はちょっとノリが悪くなった気がしますわ。これもまた味ではありますが》
すると更に水に、風の大精霊も何故かカイセの傍にやって来た。
「皆さんは…何をしにここへ?」
《出迎えじゃの》
《そうですね》
《彼らがもうすぐ戻って来るでしょ?見届けようと思って》
そんな彼らが待つのはミコ達。
出迎えにやって来て、その結末を見届ける。
「そういえば…火の大精霊は?」
《お仕置き真っ最中》
「あ、はい」
なおここに居ない火の大精霊はまだ何かしらのお仕置きの最中らしい。
《いっそあのバカを潰して、あの子を引き上げるのもアリかと思ったのですが》
《流石に同化しちゃったら無理よね》
《惜しいの》
むしろ下手をすれば粛清されて、精霊エンが大精霊の後釜に宛がわれていた可能性があったらしいのでお仕置きで許されるのはまだ恩情のようだ。
《と…誰か来たわね》
そんな豪華な出迎えを前に、領域からはじき出されてきた新たな人々。
エルフの女性が一人と、見覚えのある技術者たち。
「あの人が…本物の巫女」
その女性は解放された巫女の本体。
数百年前に巫女となり、そのままずっと眠らされていた当人が支えられて戻って来た。
そんな彼女達に、待機していた治癒師たちが駆け寄っていく。
個体名:サレンディーネ
種族:エルフ
年齢:32
職業:―
称号:"精霊術師"
生命 200
魔力 200
身体 090
魔法 150
魔法(火) Lv.4
魔法(風) Lv.1
魔法(水) Lv.4
魔法(土) Lv.1
魔法(光) Lv.1
特殊項目:
精霊の加護(火) Lv.4
鑑定 Lv.2
精神異常耐性 Lv.7
巫女でなくなればステータスはさほど特筆する点のない内容。
だが巫女の999に上書きされることを鑑みれば、元のステータスなど関係ないのだろう。
ついでに眠っている間は年齢的にも巫女の時代が加算されていなかった。
(…ちゃんと加護は得てるな)
だが重要なのはそこではなく、確認すべきは《精霊の加護》。
まず彼女にそれが無ければ話にならない。
しかしきちんと加護を得て、精霊術師の称号も獲得していた。
「あとはミコの方か」
これで残るはミコとシェルサラマとエンだけ。
そして…三者はその直後に姿を現した。
「…来た」
お姫様抱っこされるミコと、抱えて歩んでいるシェルサラマ。
現れた姿はその二つのみ。
精霊エンの姿はどこにも見えない。
《成功したようですね》
《ですわね》
《あぁ》
その成否を真っ先に認識したのは大精霊の御三方。
それに遅れてカイセも、ミコの中に存在する精霊の力に気付く。
個体名:ミコ
種族:精霊同化体(仮称)
年齢:―
職業:―
称号:―
生命 200
魔力 200
身体 200
魔法 200
魔法(火) Lv.7
特殊項目:
二心同体(火)
生命線
巫女としての世界樹の加護を失い、小人兵としての支援も失い、小人兵の素体としての簡素な力のみが残るミコ。
あくまでもカイセが呼んだだけのその名は、他者にも認知されたことで彼女の個人名として登録されたようだ。
そして肝心の生存条件。
精霊エンとの同化、巫女であったサレンディーネとの繋がり。
その二つを示すのだろう特殊なスキルの獲得。
つまり…博打じみた策は無事に成ったようだ。




