システムの守護者
――神剣を手にしたミコ。
彼女の手による世界樹システムの伐採。
それは一瞬、斬撃一つで片が付くはずだった。
「…何故、何故邪魔をするのですか!?」
だがその斬撃は世界樹の現身に届く前に阻まれる。
現身の身代わりとなって斬られたのは、割り込んで来た小人兵。
「こいつら何処から沸いて…」
気づけばこの場所にワラワラと湧き上がって来る大量の小人兵たち。
そしてそれらは手当たり次第に、この場に集う人々に襲い掛かる。
「やめろ!!」
「ウコン!サコン!」
すぐさまシェルサラマとカイセが動き出す。
ゴーレム二機も展開し、エルフの技術者達に襲い掛かる小人兵を倒して回る。
「止まってください!巫女としての命令です!!」
直後、ミコが小人兵たちに完全停止の命令を出す。
小人兵たちは本来巫女の配下として巫女の指示に従うモノ。
だが…ミコの言葉で止まった小人兵は居なかった。
「止まってください!!」
「これはもしかして…」
『最優先命令による行動。巫女の命令権限よりもっと上の者による絶対命令を下に行動しているものと推測されます』
「もっと上って!?」
『創造主、このシステムの開発者が一番最初に刻んだであろう〔何よりも優先すべき命令〕です』
小人兵のシステムの生みの親。
既にこの世には居ない誰か。
そんな小人兵たちの創造主である存在が、小人兵のシステムに残した根幹命令。
現場の最高指揮官とも言える権限を持つはずの巫女の命令すら受け付けない彼らの行動原理。
『推測ですが、〔システムを守る〕事を指示する命令であろうと思われます』
カイセの神剣の推測によれば、小人兵たちは〔世界樹を搾取するシステム〕そのものの絶対守護に関する最優先命令であると考える。
何者かによってシステムが破壊されそうになった時、総力を挙げてそれを阻止してシステムを守る。
例え巫女と敵対するものであっても。
「つまり小人兵って、"世界樹の味方"じゃなくて"システムの味方"だったってことか!?」
誰もが共通した小人兵の認識。
彼らは世界樹を守る為に戦う戦士。
巫女と同じく世界樹の守護者であると思われていた。
しかし現実には搾取システムを守る為に、根幹となる世界樹を守っていただけ。
世界樹が大事なのは確かであるが、それはシステムの存続が前提。
システムを継続させるために、コアとなる世界樹を守る。
世界樹の守護者であるのは確かだが、世界樹を傷つける事自体は特に厭わない。
どちらかと言えば利用する人側の味方。
「ミコは任せます!」
「あぁ任された!!」
そして小人兵は、システムに刃を向けたミコにまで襲い掛かる。
カイセとゴーレムは技術者たちの盾となり、シェルサラマがすぐさまミコの盾となる。
「巫女様!大丈夫ですか?!」
「はい…でも…ごめんなさい、彼らは止まりません…」
どれだけミコが命じても、小人兵たちは止まらない。
むしろミコにまで襲い掛かる。
ミコにとってはこの領域に閉じられた自身の生活を支えてくれた、どこか家族のような存在。
絶対的な味方だと思っていた相手が、容赦なく襲い掛かって来たその行動はやはりショックもあるだろう。
「…ごめんなさい。守りをお願いできますか?私は…このまま斬ります」
「もちろん、お任せを」
だがそれでもミコの意志は変わらず。
視線はまっすぐに世界樹の現身へ。
「かつての人々がどんな思いでコレを望んだかは分かりません。ですが…どういう理由があっても人を騙して、騙した人を犠牲にして、そして得られる恩恵など…知ってしまった以上は認めるわけにはいきません!」
このシステムが必要になる正当な理由が、かつてのこの国には、エルフ達にはあったかもしれない。
しかし今の人々にとってコレは、騙した人の無自覚な犠牲の上に成り立つ非情なシステムであるのは変わらない。
「だから…ごめんなさい、小人さんたちが守りたいものを…私は壊します!!やぁあああ!!!」
ゆえにこそミコは再び神剣を振り上げ…そして振り下ろす。
「やったか?!」
「あ、それは…」
『大丈夫です。きちんとやりました』
直後のシェルサラマの言葉に、反射的に懸念の言葉を発したカイセだったが、どうやらフラグにはなりえなかったようだ。
ミコの神剣は確かに世界樹の現身を一刀両断した。
「これは…揺れが…」
「収縮が始まった!!」
「お前ら気張れー!!!」
そして始まるシステムの停止。
同時に拡張された領域の縮小も始まる。
「小人兵たちが止まっていく」
徐々に小人兵たちの機能が停止していく。
だがまだ動ける個体は、最後の命令を全うする為になおも一同に押しかかる。
「あ…力が…」
そんな中で同じく小人兵の体を持つミコにも影響が出始めた。
自立が困難になる脱力。
すぐさまシェルサラマが支える。
しかしその不意に生まれた隙を、小人兵の一体が正確に突いてくる。
「まず――」
『うりゃああ!!!』
「え…腕が勝手に?!」
だがその危機を救ったのは神剣。
二振り目の神剣が勝手に振るわれて小人兵を弾き飛ばした。
「あれってまさか…」
『神剣、です』
二人を救ったのは二振り目の神剣。
用いた手段は一種のゴーレム操作。
ただし操るのは小人兵であるミコの腕。
カイセから権限を与えられゴーレムたちを制御することの出来るカイセの神剣。
小人兵も言うなれば高位のゴーレム。
自身も改造小人兵に収まっていた時期のある二振り目になら、確かにその制御の術もあったかもしれない。
『あとでお仕置きですね』
「うんまぁ…一応人助けだったから程々にな?」
とはいえそれは勝手な干渉。
剣の所持者を守る為という大義名分がありはするが、勝手に所持者の体を操り行動したとなれば神剣的には大問題でもある。
なのでカイセとしては情状酌量を求めつつ、しかし譲れぬ部分のあるカイセの神剣のお叱りを鎮めるまでには至らなかった。
「これは…契約成立です!」
するとあっち側、解放された本物の巫女側の様子をモニタリングしていたエルフからの報告。
精霊エンが彼女との契約を完了した。
あとは再び彼と合流し、その精霊の身をミコが受け止めればよい。
「シェルサラマ!お前さんはあっちに行け!少しでも早く合流できるように巫女様を運ぶんだ!」
「分かりました!カイセさん、ここは任せます!」
「了解!!」
「巫女様、失礼を!」
「え…きゃあ!?」
(おぉ、お姫様抱っこ?)
そしてシェルサラマは不自由になりつつあるミコを抱えて駆け出す。
ミコ的には背負うイメージだったようだが、予想外のお姫様抱っこにちょっと照れた様子を見せる。
そんな二人が目指すのは当然、残る最後の目的であるミコとエンの同化。
それを一秒でも早く達する為に、こちらに向かっている彼を出迎えに向かう。
『え、待って!置いてかないでくれ―!!?』
なおその際にはお荷物な神剣はこの場に放置される。
カイセ達にしか聞こえぬその悲痛な叫び。
『不本意ですが、回収を提案します』
「うんまぁ、置いてくとどうなるか分からないし」
この場に残された人々は、安全装置のおかげで縮小しても放り出されるだけで済む。
だが物品の一種である二振り目の神剣の安全保障は不明。
放っておくと消滅する可能性も考えられるので、ちょっと面倒だが仕方なく回収する。
「あ…これは――」
「すいません、弾かれま――」
そして時間と共に小人兵たちは倒され、停止し、動ける個体は急速に減っていった。
するとエルフの技術者たちにも異変が起こる。
それは安全装置の作動。
順々に時間切れを迎え、この領域から外へと放り出される。
「…成功報告は外に出てから聞くことになりそうだな」
そんな彼らを見守りながら、エンとミコの同化の成否は外に出てから確かめることになりそうだと察するカイセ。
「…間に合え。後味悪い終わり方は見たくな――」
そうしてカイセは最後の結末を見届けることなく、この領域から強制退去させられたのであった。




