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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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伐採準備




 「――ではこちらを、お返しします」

 「はい、確かに」


 二振り目の神剣の受け渡し。

 カイセが預かっていたその剣は、再びミコの手に預けられた。


 『余計なことをすれば、分かっていますね?』

 『分かってるからいちいち圧掛けてくるな!』


 二振り目の神剣に舞い戻った中身は完全にカイセの神剣の制御下。

 人手に渡っても悪さは出来ないようにきちんと管理されているので、ミコに明け渡しても問題はない。


 「…ふん!はぁ!…えい!」

 「あれ?」


 そうして受け取ったミコは、早速神剣を振るう。

 しかしその剣筋は先日軽い斬り合いの時に見せたヘナチョコ剣技とは打って変わったもの。

 きちんと相応の剣の振るい方、ちゃんとした剣士の剣になっていた。


 「…小人兵の剣技情報を私の体にも取り込みました。作り物の体と認識したらこういう事も出来るみたいなんですよね。便利です」

 「…なるほど」


 彼女の体は小人兵の延長線上。

 つまり戦闘用小人兵に採用されている戦闘用プログラムを受け入れる事も出来るらしい。

 人ではない体ゆえの特権とも言える。


 「こんな体でも…やっぱり私は生きたいんです」 


 自分の体が作り物だと受け止めたミコ。

 その上で二人目の巫女のようなバッサリとした自己否定はできずに、この体だとしても生き続けたいという意志を露わにする。

 だがそれは本体の巫女の犠牲が前提になるのが今のシステムの仕様。

 ミコがこうして動き続ける限り本物の巫女は眠り続ける。 


 「でも、本物の私にも、これ以上犠牲を強いたくはないんです!」

 

 しかしそれは本物がどうでも良いという話ではない。

 彼女が求めるのはどっちも(・・・・)というハッピーエンド。

 複製の自分も、本物の自分も、どっちも犠牲にならずに済む道。

 

 「だけどこの巫女という悪習は、どうあがいても〔どっちも〕を認めてくれないんです」


 技術者たちが寝ずに調べ続けた世界樹周りの全てのシステム。

 その全てが解析できたわけではないものの、こと最優先で調べられた巫女のシステムには一つの答えが出ている。

 システムの仕様上〔本体も複製もどっちも救う〕という願望が叶わない。

 先んじて解放された二人目の巫女のように、複製を犠牲に本体を目覚めさせる手段は早々に見つかった。

 逆に本体の犠牲と引き換えに、複製の巫女小人兵をシステムの縛りから解放して自由にさせる手段も見つかった。

 しかし…どうあがいてもシステム上、両方救う手段は存在しなかった。


 「――でも、この方法ならどっちもが叶うかもしれない。だからその剣を自ら手にしたんでしょ?巫女はさ」

 「精霊エン…」


 そんな二人のやり取りに、精霊エンが合流する。

 

 「僕が考えた方法、これ成功すればどっちも救えるかもしれない。でも失敗すれば予定通りどっちか、更に最悪の万が一の時はどっちも死ぬ(・・・・・・)かもしれない。それでもやるんでしょ?」

 「はい…その、眠る彼女の意志を確認せずに勝手に私だけで決断するのは大変申し訳ないのですけど…」


 これから行うのはシステムの完全停止。

 巫女のシステムを含め、世界樹に寄生し搾取する為に稼働し続けているエルフ達の装置を壊して終わらせる。

 かつてのエルフ達はどう思っていたかは知らないが、今のエルフ達はこのシステムを〔世界樹を害する悪のシステム〕と結論付けた。

 自分たちの国の根幹を作り出したその装置にノーを突き付けた。

 ゆえにこそ彼らはこのシステムそのものの終わりを望み、その手段として神剣による物理的破壊が選ばれた。

 

 だがそこにはやはり〔巫女達の命〕というリスクも存在した。

 このまま単純に破壊しても、巫女本体と複製巫女のどちらかは助からない。

 しかし精霊エンが見出した方法を用いれば〔どっちも助かる〕可能性があった。

 ただし…そこには逆に〔どっちも助からない〕可能性も僅かながらに秘めていた。

 

 「で、失敗の可能性を口にはしたけど、僕としては失敗する気は毛頭ないから。絶対に成功させる!ちゃんとどっちもを成立させてあげるから、目を覚ました自分になんて声を掛けるかを考えておいた方がいいよ」

 「…はい、よろしくお願いします」


 そんな作戦の発案者であり、最も大事な部分を担うエン。

 彼は可能性は口にしながらも、本当に失敗した時にどちらを選ぶか(・・・・・・・)の話はしなかった。

 もしもの時はミコを守るのか、巫女を守るのかを決めるつもりはない。

 彼もあくまでも両方を求めている。

 その結末の為に、これから自身の糧にしようとしているのだ。



 「さて、じゃあ改めて手順のおさらい!まず一手目は巫女…いや、ここからは彼に倣ってミコと呼ぼうか。ミコがその剣で世界樹の現身をザン!一刀両断でシステムの根幹を破壊する!」

 「頑張ります!」


 そうして改めてこの先の流れの確認。

 最初の一撃はミコの神剣斬撃。

 今もこの部屋の、目の前にそびえ立つ荘厳な大樹の処分。

 かつての彼女ならともかく、今の剣技を身に付けた彼女なら神剣を使って〔世界樹の現身〕を斬る事が出来る。

 現身は世界樹の寄生部位の具現化。

 巫女システムを始めとした世界樹活用装置の心臓部であるため、フェニが捉えられていたあの大樹を両断できれば全てのシステムが機能停止する。


 そんな大事な役目をミコに任されるその理由。

 それは単純に彼女が安牌(・・)だから。

 部外者が…とか実力が…とか一番の被害者の手で…とか、そう言った事情は勿論あるが根本的な理由は巫女以外ではこの場の警備システムを発動させかねないからである。

 ゆえにこそ余計な手間を掛けずに対峙できる巫女が、同じくこの領域に長年安置されていた神剣をもってしてシステムを破壊することが一番の安全策なのだ。


 「そして二手目!ミコが斬った後、この領域の拡張収縮を一秒でも長く遅延させる役目!エルフの魔法技術の意地を見せてみろー!」

 「「「おお!!」」」


 カイセら以外にもこの場に集うエルフの技術者たち。

 そもそもこの《世界樹の領域》自体、本来の世界樹の持つ異空間をシステム装置によって無理矢理に拡張して活用したものである。

 つまりシステムを壊すと、その瞬間から領域の縮小(・・)が始まってしまうのだ。

 安全装置が働く為に、この場の面々が空間に潰されるようなことはなく領域外に追い出されるのみ。

 しかし…本命の作業が終わる前に追い出されれば当然失敗に終わる。

 だからこそ彼らはその領域縮小を一分一秒でも遅延させ、両方を救う策を完遂させるまでの時間をありったけの道具と魔法技術を投入して確保する役目を持つ。


 「そして…その間に僕が眠りから解放された本物の巫女のあの子に《精霊の加護》を与える」


 そして三手目。

 出番となるのは精霊エン。

 システムの破壊によりあのカプセルは機能を停止し、閉じられていた巫女本体は強制的に排出される。

 カプセル内の彼女には一切の干渉が出来ない状態だが、外に出れば通常通り。

 そこで精霊エンが《精霊の加護》を与え、彼女を"精霊術師"にする。


 「あ、一番最初の手を忘れてたね。そこは今やっちゃう。シェル!」

 「あぁ、いつでもいいぞ」

 「それじゃあ…回収!!」

 「…こんなアッサリ無くなるものなんだな」


 だがその前に、精霊エンは今この場にてシェルサラマから《精霊の加護》を取り上げた。

 原則として《精霊の加護》は一体に付き一人にしか与えられない。

 つまり巫女に与えるならば、シェルサラマから取り上げなければならない。

 ゆえにたった今彼は加護を失い、精霊術師ではない普通のエルフに戻ったのである。


 「…良かったのですか?」

 「巫女様たちを救う手になるならいくらでも。このアホ精霊との縁はこの程度では消えませんから」

 「アホっていうなよ。まぁ加護なんて無くともシェルはシェルだよ」


 加護は無くとも二人の関係が失われるわけではない。

 ゆえに両者共にあっさりとした反応。


 「で、この回収した加護を解放された巫女に与える!そして…僕自身はミコと同化(・・)する!これで"繋がりの代役"が完成!」


 そうして回収した加護を解放された巫女に与える。

 そして与えたエン自身はミコと《同化》して、繋がりの代役(・・)を生み出す。


 巫女とミコには〔見えない繋がり〕が存在する。

 エンによる暴露の際にも告げられた"運命共同体"。

 この繋がりがミコと巫女の存在には必要不可欠になる。

 巫女システム的には片方を生かす術は発見されている。

 しかし…両方生かす方法は、この繋がりを維持し続ける以外に見つかっていない。

 だがシステムを停止させて眠る巫女を起こそうとすると、そのまま繋がりも途切れてしまうというめんどくさい仕組みであった。


 ゆえにこそ、解決策として提案されたのは〔繋がりの代役〕。

 システム停止で途切れる繋がりの代わり(・・・)として精霊エンを活用する。

 《精霊の加護》を与えられた巫女と、与えた本人と同化したミコ。

 この両者には〔加護を受けた者と加護を与えた者の繋がり〕が生まれ、この繋がりを巫女の繋がりの代役に仕立て上げようという案だ。

 

 (とはいえ…本当にそれで成立するのかはやってみないとわからないってところらしいが)


 しかしこの案も、実際に成立するのかはやってみないとわからない。

 何せ誰も試したことはなく、前もって試しようのない手段でもあるからだ。


 「…精霊様。本当に良いのですか?」

 「いいよ。別に死ぬわけじゃないからね。一度同化したら二度と解けないってだけで君の中で普通に生き続けるから。君の体が寿命を迎えるその日まで」


 そしてこの手段はエンにとっても一度きりのチャンス。

 何せミコと同化した後、終わったから分離という手は取れない。

 一度同化したらそれこそ運命共同体。

 ひょっこり顔を出すことは出来るが、ミコからは一生離れられなくなる。


 「これは僕の…私達のリベンジでもあるんだよ。同じ結末は見たくないってね」


 エンは本物の巫女と複製の巫女の両方記憶を一部継いだ転生者。

 取返しの付かない時点になって真実を知ったあの後悔や悔しさを後輩に感じてほしくない。

 クーデターの際にわざわざ騒ぎを大きくするような行動を行ったのも、この真実を明かす良い機会だと、そして何より同じ結末を繰り返さない絶好の機会だと感じたからこその行動。


 「それじゃあ僕はスタート地点に移動するよ。加護授けたら全力でこっち来るから!」


 そうして重要な役割を持つエンは、二人のエルフを連れてこの場を去る。

 向かったのは天井を破壊されたプラネタリウム部屋。

 システムが停止すればあの場所のカプセルから眠る巫女が解放される。

 その彼女にエンは加護を与え、その足でまたこちらに戻りミコと同化する。

 連れて行ったエルフ達は解放された巫女を保護する役目を担う。

 この移動の手間もある為に、縮小遅延は命運を左右する役目になる。


 「(カイセ、もしもの時は任せたよ)」

 

 その去り際にこっそり一言、カイセに言葉を残していくエン。

 ここにエルフではないカイセが居るのは、何も神剣の受け渡しの為だけではない。

 予定外の事が起きた時の穴埋め役、対応要員。

 ミコの護衛役のシェルサラマと共に、これからの出来事を見守る。


 「では…始めましょう。世界樹様、どうか愚かな我らにも希望の慈悲をお与えくださいませ」


 そして始めるシステムの破壊、巫女の解放作戦。

 エルフの国の在り方が大きく変わる時がやって来た。

 

 

 

 

 

 


 

  

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