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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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システム調査




 ――精霊エンの語る巫女の真実は、映像付きで国中に同時中継されていた。

 世界樹がらみの施設に存在した連絡装置。 

 残念ながら長くは使えずに燃費も悪く、更には一度使うと一定の冷却期間が必要な機能であるようだが、エンの言葉は一言一句違えずに例のカプセルの映像付きで国中に広められる事となった。


 (――まぁ大騒ぎになるよな。そりゃ)


 結果エルフの国は大騒ぎ。

 更に騒動の翌日、巫女関連の施設調査を行った技術者たちによってすぐに、本物の巫女が眠るカプセルが魔力を吸い上げる(・・・・・・・・)機能を有していたと判明して更に炎上した。


 (巫女に選ばれた女性は知らぬ間に眠らされ人形クローンを作られ、挙句眠っている間は魔力を吸われて施設設備の糧にされていた。人柱ってこういうのを言うんだろうなぁ)

 

 眠る巫女から吸い上げられた魔力は世界樹関連設備の、どうしても人の魔力が必要になる部分に密かに回されていることも判明する。

 世界樹の領域回りは世界樹の持つ魔力によって自動運営されているとエルフたちは認識していたが、一部に関しては話が違ったようだ。


 結局、表向きの巫女という存在は『特別な力を与えられた世界樹領域の管理人』という名誉ある役割だったが、現実は『ずっと眠らされ、ずっと魔力を搾取され、勝手に複製人形が作られる人柱』だった。

 これらが本人了承の下で行われたならば問題はなかった。

 しかし現実は本人も、どころか周囲もその真実を知らなかった。

 建国当初から続いていた人権非道を、知らぬ間に肯定し繰り返してきたエルフという種族。

 高潔なエルフ族の誇りや尊厳にもヒビを入れる、その真実ゆえにこそ大問題と化し、エルフの国は大騒ぎの最中。


 (巫女の廃止とか、必要な犠牲とか、いろいろ言い合うのも仕方ないけど…まずはアレらのシステムの調査解析の結果が出ないと何をするにも動けないよなぁ)


 その騒ぎの中で様々な意見が飛び交うが、今この国はあくまでも世界樹周りのシステムの詳細調査に尽力している。

 クーデターを起こした罪人のエルフ達すらも必要に応じて引っ張り出し、より早くより詳細な調査結果を求めている。

 先祖から受け継いで何も疑わずに利用し続けてきた未知の多いシステム。

 それらの調査解析、掌握が現状の急務。

 何せこの先にどんな選択をするにしろ〔壊し方〕も〔止め方〕も現状分からないのでは正直話にならない。


 「すいませーん!こっちにも魔力回してくださーい!」

 「分かりましたー!さて、魔力タンク役頑張るか」


 そんな現状の中で、カイセは今その調査隊への協力者となっていた。

 技術屋のエルフたちと共に再び世界樹の領域を訪れての調査の手助け。

 現在は複数の魔法装置に魔力を供給する電池役(・・・)を担っている。


 「つまりこのラインはこっちに繋がって…」

 「ここを迂回している理由はなんだ?」

 「これがあるなら原理的にはこの辺に…ここのスキャン頼む!」


 騒動の日から続く調査。

 その結果多くの事実が判明し、少しずつ世界樹周りのシステムが暴かれていく。





 「――ぶはぁ!?ふぁ…ふぅ…あれ?私は…確かに巫女に…なってない?なにここ?」


 そして数日後、とある実験が行われた。

 それは巫女を解放する為の第一段階。

 被験者となったのは罪人でもある二人目の巫女。

 クーデターの際に非合法的に巫女となった女性は…無事に目を覚まして実験は成功した。


 「はぁッ?巫女は人形?笑えない冗談…じゃないのよね。わたしそっくりの人形があるし、気持ち悪ッ!この!!」

 「蹴らないでください!!」


 目覚めた彼女の目の前には、動かなくなった(・・・・・・・)巫女型小人兵の姿があった。

 自分ソックリの人形を見て気味悪がるその女性。

 その反応から、確かに両者には意識の共有がないことは理解出来た。


 『こんな作り物の姿で生きるぐらいなら死んだ方がマシよ!実験でもなんでも付き合うから早く本物の私を起こしなさい!!』


 巫女型小人兵の彼女の合意の下で行われたこの実験。

 巫女解放の一つの手段の実証。

 片方を犠牲に(・・・・・・)することでもう片方を救う方法。

 性格には眠る巫女本体を救うために複製を犠牲にする方法。


 元々二人目の巫女は、自尊心を満たす為に巫女になった。

 『巫女になってチヤホヤされたい』という子供じみた欲求の為に巫女という地位を求めた。

 しかしその実態が作りものの人形と化した自分だと知って、複製の巫女型小人兵の人格は自身の生を拒絶した。

 ゆえにこそ今回の実験が行われ、本命へのデータ取りに使われた。


 「あとは本命の…巫女様の方だが…」

 「両方救うにはどうすれば」


 残る本来の巫女達。

 数百年も眠る巫女本体と、カイセと交流のある複製のミコ。

 彼女達に関しては両方救う(・・・・)手段を模索している。

 何せ二人目の僅か数日の月日と違い、ミコは巫女として数百年あり続けたのだ。

 そこには本体とは違う月日を積み重ねた別人とも言える自我が存在する。

 既に彼女は〔巫女の複製〕ではなくミコとして確固たる意義を得ている。

 もはや彼女は『自分が偽物だから』と割り切る事は出来ず、そもそもエルフ達もそれを良しとはせず、なんとか両方救う手段を模索している。


 「へぇ、巫女の中身ってこういう風になってるんだ」

 「…精霊エン」


 するとそんな調査現場に姿を現したのは例の精霊エン。

 かつての巫女の転生者であり、今回の暴露人。

 クーデターの爪痕など吹っ飛ばし、国中の注目を掻っ攫った存在。


 「ねぇねぇ君たち!ちょっと調べてほしいことがあるんだけど!」


 そんな彼は調査員に声を掛ける。

 正直、彼の存在をエルフたちはとても複雑な心境で捉えている。 

 今回の騒動の最終的な中心人物としてマイナス感情を向けられることもあるが、そもそも彼は巫女というシステムの被害者。

 そこにまだ半信半疑な者も多いが、しかし事実なら…と彼に対して拒絶よりも憐れみを感じる者の方が多い。


 「…はぁ?!そんなこと…」

 「まぁまぁ、とりあえず調べてみよ?」


 彼はエルフの技術者たちと何かを話し、その提案に驚かれた。

 突飛な申し出だが、彼はかつて巫女だった存在。

 その言葉や思い付きは新たな着眼点として検討に値するもの。

 すると…その思い付きはミコを救う為の一歩に繋がることになった。


 「――世界樹を斬る!?」

 「正確には《世界樹の現身》を斬る、ですね」


 そして更に数日後。

 昼夜問わず戦い続けた彼らは一つの結論に行き着いた。

 自分たちの行く末を決める決断。


 「カイセ殿も目にしたあの世界樹、領域の奥で…不死鳥様が取り込まれていたあの大樹は、どうやら世界樹様を模した現身のようなものであり、あれが世界樹様への干渉装置になっているようです」


 以前にカイセも目にした〔世界樹の間〕のご神木の大樹。

 不死鳥フェニが接続されて火の大精霊の糧となっていたあの樹木。

 あれはどうやら世界樹そのものではなく、魔法的に写し取った《現身》であるようだ。

 世界樹自身が持つ防壁を、現身を介することですり抜けて多くの恩恵を引きずりだす(・・・・・・・)為の干渉端末。

 この国が手にした〔世界樹の恩恵〕の全てではないが多くはこの現身から引っ張り出したもの。

 つまり…世界樹から『もたらされた』は間違いであり、知らぬまま世界樹から〔搾取〕していた。


 「本当の授かりモノは全体の一割ほど。九割は装置によって人為的に搾取されたモノ。それを我らは世界樹からの授かりモノだと喜んで使っていたのですから、馬鹿げたものですよ…」


 世界樹に選ばれた種族としての誇りがだいぶズタズタにされて自棄気味のエルフ達。

 だが九割は偽りでも、一割は本当の授かりモノであったことが最低限の踏み留めに繋がっていた。


 「それで、現身を斬るというお話は?」

 「単純な話です。あれを斬り捨てることが出来れば、世界樹様の搾取は終わりを迎えるのです」


 その世界樹の現身はエルフが世界樹を利用する上での根幹となる核。 

 それを切り捨て壊せば、システム全体が終わりを迎える。

 本来の、彼らが望む健全な世界樹の在り方に戻る事が出来る。

 ただしそこには…巫女に関わるシステムも含まれる。


 「でもそれだと、巫女の二人は…」

 「そこはこっちで何とかするよ!」

 「精霊エン…」

 「大丈夫!ちゃんと二人とも助ける。その目途は立ったんだ!」


 世界樹システムが終われば巫女の仕組みも終わる。

 だがそれはただ終わらせればどちらかに犠牲を強いるものになる。

 しかし、既に精霊エンはその救い方を見出していた。

 本体と複製、その両方を失わずに済む方法。

 

 「だから…その神剣を貸してほしい。その剣でこそ、あの現身を綺麗さっぱり後腐れ無く切り捨てられる…実質唯一の破壊装置なんだよ」


 そしてカイセに求められるのは、預かっているつもりの〔二振り目の神剣〕。

 世界樹領域に安置されていた、エルフの上層部なら誰もが知る伝説の剣。

 その剣こそが綺麗さっぱりと世界樹の現身を切り捨てられる唯一の存在。

 

 「その神剣を巫女が振るい、世界樹の現身を斬る。それが彼らの出した一つの答えだよ」


 

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