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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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巫女の真実




 「――あの中に眠るのが巫女の本体(・・)だよ」


 壊れたプラネタリウムで語る精霊エン。

 示すのは天井のカプセルの中の、巫女たちと同じ姿をした人の正体。

 彼曰く、あれこそが本物の巫女達であると言う。


 「本物って、じゃあ、こちらの巫女様は?」

 「複製(・・)。正確に言うと巫女として選ばれたエルフと”同じ姿をした小人兵"ってところだね」

 「巫女様が…小人兵?」


 これまで散々見てきた、複数種類の小人兵たち。

 世界樹の力で量産された特別なゴーレムのような人形たち。

 それらを統べて管理するのも巫女の役目だが、自身もまた本人知らぬ小人兵であるという。


 「この世界の生命にこれだけの大きな力を与えられるのはそれこそ、本物の神様関係の領分じゃない?なのにエルフの国では、巫女になれば世界樹様からバカげた加護を授かることになる。考えてみれば、ここ本来は疑問点なんだけどエルフは世界樹を信奉してるからね、盲目的とも言えるかな?」


 そもそも巫女に与えられた《世界樹の加護》。

 ステータス数値を脅威の999に上書きし、あらゆる資質や耐性を得る文字通り強すぎる加護。

 エルフたちは世界樹への信仰ゆえに。

 カイセ自身は同等のステータスを持つゆえにそういうものだと、エルフたちとは別の意味で納得してしまっていた不自然。

 何せカイセの999はあくまでも〔女神様のポカ〕で得たもの。

 事故とはいえ神様直々の付与であり、それは本来神様案件だから可能になってしまったもの。

 しかし世界樹はこの世界のシステム、神様寄りの存在ではありエルフも神のように敬うがあくまでも神様ではない(・・・・・・)

 普通に考えれば、エルフ達に999の力を授ける術など持たない。


 「世界樹が何故巫女に馬鹿げた力を与えられるか。その答えは単純、ただ《馬鹿げた力を持つ小人兵》を作っているだけなんだよ。まぁこれもだいぶ凄いことだと思うけどね。でも人に力を与えているわけじゃない。神掛かった技術力と特別な素材で最強の人形を作っているだけに過ぎないんだよね、これは」


 人に999を与える術などないはずの世界樹。

 しかし現実に巫女たちは999のステータスを持っている。

 そのからくりは単純で人じゃない(・・・・・)から。

 〔人に999を与える〕のではなく〔999の力を持つ人形を作っている〕だけのお話だったのだ。

 

 「だが、巫女様には意志が」

 「残念ながらそれも複製。本物の彼女らから自我や記憶に関する情報を丸々複製して小人兵に植え付けているだけだよ」

 「そっちのパターンか…」

 「ん?神剣の人、そっちってどういうこと?」

 「あ、いや、遠隔操作的な」

 「あぁ、眠る本体が無意識に自分の体として巫女型小人兵を操ってた感じの想像?残念だけどもっと最悪だよ。上の子らは巫女になった日からずっと眠り続けている。彼女らには君との対話の記憶もないよ」

 「おぉ…えぐい…」


 その上で巫女の意識、自我や記憶までも複製品。

 巫女になった時点でのエルフの情報をコピーして巫女型小人兵に植え付けた。

 コピー巫女は自身がコピーだとも、小人兵だとも知らずに本人のつもりで巫女としての活動を開始。

 対して本物の巫女はその瞬間から数百年、今この時もひたすら眠り続ける。

 カイセが話の流れで想像した仕組みよりも、かなりエグイ現実の仕組みが明かされていく。


 「つまりまぁ…ほとんど別人みたいなものなんだよ。上の子と巫女って。元は同じでも数百年もズレがあればね」


 数百年前で時が止まった本物の巫女。

 数百年を積み重ねた小人兵の巫女。

 巫女としての始まりの記憶は同じでも、長い積み重ねの有無の差はその人格に多大な差異を与える。

 それこそもはや両者は別人と言える内面。


「とはいえ…衝撃的すぎるのは理解するよ。その子、ちゃんと守ってあげなよ?その子はただの被害者なんだし」

 「巫女様…」


 当然この話を聞かされたミコは、自身が巫女型小人兵で記憶の根幹までも複製だと知ったショックは計り知れない。

 自分が信じてきた役目には裏がありまくり。

 しかも自分自身も、人ではなく作り物。

 今はただ茫然と事の次第を受け止めきれずに佇むだけのミコ。

 しかしこの後どうなるかはちょっと怖いところ。

 自暴自棄の可能性を考慮すると、しばらくは警戒を怠れない。


 「なんで…なんでこんな仕組みになってるんだ?」

 「流石にそこは分からないかな?大昔のエルフの国の、失伝(・・)するほど大昔のお話だし」

 「失伝…まさか、族長たちも知らないお話なのか?」

 「確証持ってそうだ!とは言えないけど、たぶんそうだと思うよ?こっちで調べてみた限りはね。探せばどっかに秘文の一つでも転がってるかもしれないけど」

 

 あくまでも彼の認識としては、この仕組み自体をエルフの国は既に失伝して現在では忘れられたモノになっていると語る。 

 つまりエルフの人々は、本当に巫女の正体に気付かずに巫女制度を継続して来たようだ。


 「…そもそも、なぜお前はそんなことを知っている?」

 「…まぁそこ気になるよね!」


 そんなやばい真実を語る精霊エン。

 だが疑問になるのは、エルフすら失伝したというお話を何故彼が知っていたのかという事。


 「実は()、前世は巫女だったんだよね。転生者ってやつ!」

 「「…は!?」」


 シェルサラマとカイセが全く同じリアクションで驚く。

 この世界にも存在する"転生者"の概念。

 ただし異世界がどうこうのお話ではなく、単純に〔前世の記憶〕を持つ人という、ちょっと眉唾交じりの都市伝説としての存在。

 だが目の前の精霊は、自分を〔前世巫女の記憶を持つ精霊〕だと語ったのである。


 「それって…あの中に居たってことか?」

 「そそ、あの中に居たよ。まぁその時は眠っていたから、殆ど記憶にないんだけどね!死ぬまでの僅かな時間でちょっと目が覚めて認識しただけ。自分に何が起きていたのかを」

 「目覚めるって…そういえば、役目を終えた巫女様はどうなるんだ?」


 そんな言葉の中でシェルサラマは、自分たちの知る〔巫女の終わり〕について確かめる。

 

 ――そもそも、表に知られた巫女の最期(・・)

 巫女という存在に年齢は存在せず、明確には寿命は存在しないことになっている。

 だが終わりは存在する。

 それは唐突なお告げ。

 巫女に対してのみ伝わる任期終了の報せ。

 ある日突然、巫女たちは『自分の役目は終わった』と強制的に自覚することになるらしい。

 寿命の無い巫女が終わりを迎えるのはその時。

 後は役目を次へと引き継いで、役目を終えた巫女は世界樹の御許で永遠の眠り付く。

 これが表向きの巫女の役目の終わり方。


 「あー、それってまず前提が小人兵だとわかりやすいんだけど、寿命はなくてもモノである以上は耐用限界(・・・・)が存在するんだよ。それが巫女の寿命、終わりの理由かな。小人兵の体がもう限界が近いから壊れる前に、壊れて色々バレる前に役目を終えて眠りに付かせて解体(・・)する。そういう流れになってるんだよ。あ、もちろん裏でのお話だよ?」


 その真相は巫女型小人兵の物理限界。

 小人兵には当然寿命も年齢の概念もないが、この世界に存在する物理的な存在である以上限界は存在する。

 それが一種の寿命のようなもので、巫女の役目の終わりの目安になる。

 

 「単純な負傷は部位パーツの交換で対応できるみたいだけど、脳に当たる部分が替えが効かないみたいなんだよね。だから必ず限界は存在する。限界を迎えれば回収して解体。巫女の役目の終わりの瞬間」

 「まて、それだと本物の巫女様はどうなるんだ?役目を終えたなら…」

 「さっきは別人とは言ったけど、根幹部分は残念ながら繋がりが残っているんだよ。むしろ眠る巫女の生命維持には巫女小人兵の存在が不可欠らしい。詳しい仕組みは不明だけど、システム的に両者は"運命共同体"なんだよ」

 「それはつまり…」

 「巫女型小人兵が引退して解体されたら、眠る巫女の生命維持も打ち切りで終わり。タイミングのズレはあるけど、そう遠くないうちに眠る巫女にも終わりが訪れる。逆に眠る巫女が純粋な延命限界を迎えたとしても小人兵は終わりを迎える。その場合はその時が引退のタイミングとして報せられると思うよ」


 巫女の引退と共に巫女型小人兵は解体。

 同時に本物の、寝る巫女の方も人生を終える(・・・・・・)事になる。

 上のカプセルは仮死状態ではなく実際にまだ生きている。

 普通は寿命をとうに超えているが、そこは世界樹の力で延命させ続ける。

 そしてそのシステムを実現する為の要素として、本物と複製の二人の巫女は常につながりを持つ存在であり続けた。

 だが…そのシステムにも限界は存在し、眠る巫女と巫女型小人兵、その繋がりゆえにどちらかの終わりはもう片方の終わりになる。

 

 「ちなみに、巫女が外にでると時間の帳尻合わせが…とかいうくだりは嘘だけど、あながち間違いでもない。正確には『外に出れば繋がりが途絶えてどっちも死ぬ』だよ」


 そしてその繋がりは距離の制限があり、超えれば途切れてどちらも死ぬ。

 ゆえにこそ巫女は〔外に出られない〕と、能力ゆえの制限やら時間の帳尻合わせなどを建前(・・)に隠されていた。

 実際終わるのは確かではあるが。

 

 「で、()も先に小人兵が限界迎えて、後を追う形で前世の()は死を迎えました。ただ、何故かその直前に眠る()は目を覚まして、まだ繋がっていた巫女型小人兵の記憶の一部が私に流れ込んで来た。それで今語ったあれこれを知って…知ったけど何もできずにそのまま死んだ。で…気づいたら精霊に目覚めた自我としてこの姿でしたと!」


 その終わりの瞬間に何故か認識したその真実。

 自分が置かれた状況を、目の前に迫る終わりを認識しつつ動くことも出来ずにそのまま終わりを迎えた。


 「ん?あれ…もしかして、本物の巫女と、複製の巫女。両方の記憶を持ってるのか?」

 「あ、うんそうだよ。完璧にとはいかないけど本物と複製のどっちの記憶もある程度持ってるよ。二人分ね!」


 そんなトンデモない真実の情報源となる精霊エンの前世の記憶。

 それは本来の巫女の記憶と、終わりの間際に流れ込んで来た複製の巫女の生きた記憶も混ざっているようだ。

 根幹は同じでも、別の時間を生きた複製巫女の記憶人格はもはや別人と言えるだろう。

 だから二人分という認識も間違いではない。

 

 「ちなみに、今語った言葉全てはこの国全体に伝えられた。ここの機能を使わせて貰ってね?だからエルフの皆が知ってる!お客さんも知っちゃってる!さて、みんながどんな答えを選ぶのか楽しみだよ」


 先んじて求めた選択・判断。

 その材料を提示したエン。

 皆に伝わる状況で、明かされた巫女というシステムの真実。

 あくまでもその表面、『なぜこんなものを?』という事情の面はエンからは語る事は出来ない。

 だが実質的な被害者の告発。

 その上で…エルフたちに問われるのは今後のお話。

 この明かされた言葉を前に『エルフたちは何を選ぶ?』という問いかけであった。


 

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