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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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精霊の戯れ




 「――やっとひと段落着いたと思ったのに、今度は何が来る?」

 

 方舟を無事に着地させ、騒動もひと段落と思ったその矢先。

 あからさまな異音に再び警戒を強める一同。

 方舟の内部に戻り進む道の先。

 進むほどに何かの音は大きくなり、この先で何かが起きているのは確実。

 

 「リーダー!!」

 「お前たちは監視役の…何があった!?」


 するとその先に居たのは騎士たち。

 彼らはカイセらとは別行動で、捕縛した精霊術師のエルフを軟禁していた人々のはずだ。

 それが何故か新たな騒動の中心と思しき場所に先んじていた。


 「リーダー!離れて下さ――『!!!』」

 「なっ…」

 「あれって…琥珀の檻!?」


 だがそんな騎士は、カイセらの見ている目の前で突然琥珀色に飲み込まれた。

 あれは龍の子にすら破れなかった、世界樹の樹液を素材として《琥珀の檻》の牢獄。

  

 「ここから離れろ!決して琥珀玉には直接触れるな!!」

 「彼は…精霊術師の」


 するとその直後、道の先の曲がり角から姿を現したのは例の精霊術師のエルフ【シェルサラマ】。

 彼は炎を纏った剣で、飛び交う琥珀色の小さな球体を弾き防いでいた。


 「カイセ!グファー!!」

 「ジャバ!?」


 すると唐突に炎を吐くジャバ。

 龍の炎は何かに触れて燃やす。

 

 「琥珀の玉…いつのまに」


 それは気配もなく忍び寄っていた琥珀の玉。

 生物でなく、魔法でもない。

 感覚的にはそこらの石ころと変わらぬ程度の存在感しかなく気配で察知しにくいモノ。

 

 「もう一つ来て…はぁッ!――なぁ!?」

 「剣を離して!!」


 すると更に飛んできた琥珀玉を、剣で直接切り伏せた騎士リーダーだったが…斬った瞬間に玉は膨れ上がり、解放された樹液の波に剣先が飲まれる。

 そのまま先っぽだけに留まらず、すぐに刀身の大半に纏わりついた樹液。

 まるでスライムやアメーバのような動き。

 これはまずいと咄嗟の判断で剣を手放し放り出すと…その数秒後には剣の全ては琥珀の檻に捉えられてしまった。


 「せっかくの剣を…すまない」

 「気にしないでください。それよりも、物理的に防ぐのはやめたほうがよさそうです」

 「ですな…」


 琥珀玉は例の《琥珀の檻》の"索敵形態"とでも言うべき代物ようだ。

 自立飛行する小さな玉は、接触した瞬間にスライムのようなドロドロの樹液になり、そのまま触れた相手を取り込み、結果として檻の姿をあらわにする。

 勿論これは事前に知る、ジャバを捉えた琥珀の檻には存在しない未知の機能。

 元々エルフが研究していたソレは、あくまでも樹液を直接掛けて浴びせる使い方だったはずだ。

 

 「エン!やめろ!!」

 「うーん、大事な相棒の言葉だし聞いてあげたいけど、僕も一応義理みたいなものはあるからね」


 すると更に奥から一体の精霊が姿を現す。

 【エン】と呼ばれる火の精霊。

 自我確立個体と呼ばれる、自分の意識を芽生えさせた精霊。

 そして何より…人の言葉を話す精霊。


 「彼は…たしかあの時の」

 「あ、さっきの騎士。無事だったんだね。てっきり何処かでやられるものだと思ってたけど」

 「知り合いですか?」

 「いえ、あの領域で遭遇した程度で、敵意もなかったので少し言葉を交わした程度で…」


 騎士たちは一応は既知のお相手。

 だがカイセからすれば初めまして。

 念話のような形で意志をのやり取りをするのが普通の精霊の中で、あえて人に分かる言葉を発する変わり者の精霊。


 「ちなみに、彼を精霊術師にしたのは僕だよ」

 「ん?え…じゃあ相方と対峙してるの?」


 そしてシェルサラマを精霊術師にした存在。

 彼に精霊の加護を与えた、相棒とも言うべき精霊。

 しかしそんな相棒の精霊に、シェルサラマは剣を向けていた。


 「そうなんだよ!彼さ、相棒の僕に剣を向けてくるの。君たちちょっと彼を止めてよ!」

 「…まぁ無理かな」

 「なんでさ?」

 「危険な琥珀玉ふわふわさせてる相手を信じろっていうのはちょっと難しい」


 敵対する相棒を止めてほしいと、精霊エンはカイセらに伝える。

 だがその要望には応えられない。

 何せ先ほど騎士を捉えた琥珀玉を、背後にいくつもふわふわ浮かせる存在はどう見ても怪しすぎる。


 「そっかー。じゃあ…てい!」

 「《炎弾》!」


 するとさっそくその中のいくつかを、カイセや騎士リーダーに向けて飛ばしてきた。

 当然先ほどのやり取りを見ていたので、物理的な守りではなく魔法の炎で迎撃して打ち燃やす。


 「むぅ。やっぱ正面からはむずかしいか。それにしても、燃やしちゃって良いの?一応世界樹由来の素材が材料だよ、この玉。喰らってくれればある程度再利用は出来るけど、燃やしちゃったら全部ゼロだよ?」

 「そこ気になるなら使うなよ」

 「僕は気にならないかな。再利用とかどうでも良いし。ていてい」


 エルフからすれば大事な世界樹素材。

 しかしそんな大事さ、貴重さなどどうでも良い様子の精霊は、迎撃されるとわかっていてあえて使い捨てにしてくる琥珀玉。


 「はぁ!!」

 「と、シェル。危ないから斬りに来るのやめてよ。折角の相棒を咄嗟の反撃で殺したくないんだよ。僕だって。だから大人しく待っててよ」

 「大人しく待ってたら、何をするつもりだ!?」

 「とりあえずここにある、彼らが一応用意していた隠し玉を全部解き放つくらいかな」

 「なんでそんなことを!?」

 「だってこの結末は可哀そう(・・・・)じゃん。ちょっと一方的というかさ、意を決して立ち上がったエルフたちが得るもの無さ過ぎるというか。余所者の力借りまくって解決!っていうのはこの国も全然変わらないままになりそうだし、せめてもうちょっと彼らの爪痕みたいなものが残る終わり方にしてあげた方が良いんじゃない?ってね」


 クーデターに関わった精霊エン。

 彼が何故その協力を行ったかは分からないが、今の彼はその反乱のエルフたちの為に動いているようだ。 

 彼らが事を起こした理由、その結末は既に敗北。

 だが負けるにしても完全敗北と、惜敗では残るものが変わる。

 精霊エンは彼らが完全敗北している今の状況で、少しでもその比率を変えようとして使われなかった奥の手を引っ張り出してきた。


 「勝敗はもう覆らない。でもせめて最後に一つ大きな花火(・・・・・)を挙げようと思うんだ」

 「ハナビ?」

 「待って、もしかして…大規模破壊兵器みたいなやつの話してないよな?道連れ覚悟の問答無用の…」

 「あ、正解!神の剣の持ち主はやっぱり鋭いね。そうだよ。実は彼らの奥の手の一つとして大規模な炸裂魔法弾が用意してあるんだよ。奥の奥の手の最終手段で、文字通り死なば諸共に…的な考えを持ってた一部のアホが仲間にも内緒で持ち込んでた本当の奥の手がね」

 

 そしてエンが語るのは、名も知らぬクーデター勢力の誰かがコッソリ用意していた全員負けの装置。

 道連れ前提の大量破壊兵器。

 結局使う余裕もなくお蔵入りになっていた面倒が過ぎる爆弾。

 世界樹だの精霊だの方舟だの、超自然・超常的な出来事の先に待っていた身も蓋もない自爆道具。

  

 「さてと…なんか人も集まってきちゃったし、少し趣旨を変えようかな。よっと」

 

 するとエンはすぐ傍にある方舟の窓を開いた。


 「待て!!くッ!?」 


 即座に動いたシェルサラマだが、しかし複数の琥珀玉に妨害されて剣は精霊に届かない。


 「こっちにも!?あぶ!?」


 それらはカイセらのもとにも押し寄せ、処理に手間を掛けさせられる。

 その隙にエンは逃げの準備を終える。


 「人も増えたし、ちょっと趣旨変えるね。せっかくだからここじゃなくて別の場所でボンってやるよ。だいたい三十分後ぐらいを目安で。だからそれまで頑張って僕を探してね?かくれんぼ開始!」

 「な…」


 次の瞬間、窓の外に身を投げたエン。

 すぐに窓の外に視線を向ける一同。 

 だがそこには精霊の姿はなく、完全に見失う。


 ――こうして最後の騒動、精霊探しのかくれんぼが始まるのだった。

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