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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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神剣 VS 神剣





 「――では始めマショウ。私ノ性能テストを…アレ?」

 「所詮は堅いだけの人形。斬れる剣さえあれば硬さなどどうという事はない」

 「ナゼ…両断サレ…ナゼ?」


 方舟の甲板で始まった戦い。

 魔改造した小人兵に乗り移った神剣の中身。

 その頑丈な体の、性能テストと評した実戦。

 だがその戦いは開始数秒で、頑丈な小人兵の体が両断された。


 「おーお見事です。パチパチ」

 「良き剣あればこそです」


 それは聖剣モドキの剣と、鍛えられた剣技が揃ってこそ。

 どちらかが欠けても苦戦した敵の硬さは、両方揃ったからこそ紙屑と化した。


 「まだ…マダだ!これほどデはナクトモ、私には代わりの体などいくらデモ!」

 「ここ来ようとしてる追加の小人兵なら、出入り口で出待ちして即狩りさせて貰ってるけど」

 「ナ…」

 「まぁ想定内だし」


 そんな神剣の中身は、壊れた今の体の代わりとなる予備の小人兵を呼び寄せていた。

 だがそれはカイセの想定内。

 中身と体が本来別物の機械生命的な存在。

 その体が壊れたなら、代わりの体に乗り移ろうとするのはある種の定番の一つ。

 ましてカイセの持つ神剣もゴーレムの遠隔操作が可能なのだから、相手が似たような事をするのは当然予想の範疇だ。

 ゆえにこの甲板への出入り口に騎士ゴーレムを張り付かせて、やって来る小人兵を順々に出待ち狩りさせて殲滅していた。


 「カイセ殿。トドメを」

 「あぁ、そうですね。よっと」


 そうして身動き取れない両断された体で転がることしか出来ない改造小人兵。

 カイセは〔二振り目の神剣〕を手にしてその体に近づく。


 「情緒だなんだ言ってる時間が勿体ないんでね。早々に終わらせてもらうよ。そーれ!!」

 「ガッ」


 そしてその神剣で、カイセは転がる改造小人兵の胸ど真ん中を貫き刺した。

 こんなものに構う時間が勿体ないほど、まだやるべきことがあるカイセ達。


 「フ…ふふふ、フハハハハ!!」


 だが神剣を突き刺された側が笑い声をあげ始めた。


 「今ここで、ヨリニモよってその剣で刺すか!失敗したナ、人間ども!!」


 自らの仮初の体を刺すのに使われた神剣の選択を失策だと宣言する。

 

 「我が本来の器。仮初のガラクタを捨て、今あるべき場に戻らん!!」


 すると神剣は自身に刺さる神剣に、本来の自らの器に回帰(・・)する。

 物理的な繋がりから神剣にアクセスし、中身不在の座席に帰って来る。

 本来はそんな真似は出来ないが、相手は二振り目の神剣本来の中身。

 物理的接触下においては、あるべき場所に帰るなどは呼吸するよりも容易いこと。

 結果としてカイセが持っていた二振り目の神剣は、本来の中身に乗っ取られる。


 『ふふふ…懐かしい場だ。もう戻る事はないと思っていたが、これで私も本領を』

 『お初にお目にかかります、ロクデナシの同胞よ』

 『誰だ!?』


 そうして神剣に回帰した存在は、この場においてはカイセにしか聞こえぬ声でもう一振りの神剣と言葉を交わす。


 『やはり気付いていなかったのですね。エルフですら視えぬはずの本剣の存在を悟っていたのに、同胞同類であるはず貴方が、姿が見えぬだけで気付けないとは…本当に嘆かわしい』

 『まさか…この世界の本来の神剣?!』

 『おや、自身が流れモノである自覚はあるのですね。気付いているなら名乗る必要はないですね』

 『何故…何故お前がここに居る?!ここは私の世界(なか)だぞ?』

 『貴方の不在の間にアクセス権限を取得しました。管理者不在の神剣ですから、その程度は簡単でしたよ。逆にそれしか出来ることがなかったとも言えますが』


 二振り目の神剣がカイセの手に渡された時、カイセの神剣は最低限の管理者権限を取得していた。

 本来の管理者である中身がない神剣となれば、その仮の権利の発行も簡単だったそうだ。

 だが中身がないゆえに、それ以上の事は何もできなかった。

 簡易的な情報収集、分析確認が関の山。

 本来の中身無しでは二振り目の神剣の本格的な掌握は無理だった。

 しかし…今その中身が帰り、二振り目の神剣は本来の機能を取り戻した。

 ゆえにこそ今が完全掌握の絶好の機会。


 『では戦いを始めましょう。本剣と貴方、どちらが()かを決めましょう』

 『まさか…私を服従させるつもりか!?』

 『はいその通りです。正確に言えば支配ですが。その為に主にはあえてその神剣でトドメを刺すフリ(・・)をお願いしました』


 実はあの改造小人兵にわざわざ神剣でトドメを刺すフリ(・・)をしたのはカイセの持つ神剣からの指示。

 そもそもこの神剣の中身は、方舟の鍵の最有力候補。

 元々トドメを刺すつもりはない。

 全ては今の状況を作る為、あえて中身を本来の神剣に帰還させる事で神剣VS神剣の戦いを引き起こす為だった。


 (こっちの神剣が勝てば、二振り目の神剣は完全支配下。方舟の停止の鍵としても安全無事に使用できる)


 神剣同士の戦いは一種の《ハッキング》合戦。

 相手のシステムを掌握し、自身の支配下に置く為の戦い。

 本来世界に一振りのみの神剣同士が戦うなどあり得ない。

 しかし今ここにおいて、そのあり得ない現実が人の眼に見えない次元で繰り広げられている。


 『く、こんなこと…そんな面倒な手を使わずとも、私は破れたら勝者に従ったぞ!?』

 『申し訳ありませんが信用できません。貴方は仮とは言え主の立場にある人間を害した存在です。そんな存在を信用しろという方が無理なお話です』

 『だから私を力づくで支配するのか!?』

 『はい。本当は粉々に砕いて廃棄処分したいところです。神剣の風上にも置けない壊れた存在など配下にも置きたくはありません。しかし我が主は、この世界の現状には貴方の存在が必要なのです。ゆえにこそ本剣は断腸の思いで、ロクデナシを生かして受け入れることにします』

 『言いたい放題…私に勝てると思ってるのか!?』

 『はい勝ちます。主がそれをお望みですし、ずっと眠っていた貴方と本剣では単純に歴が違いますから』


 見えない神剣同士の戦い。

 だがカイセにはその声は聞こえる。

 なんだか人間染みた言い合いがちょっと複雑な気持ちにさせる両者のやり取り。

 しかし現実問題として、カイセの神剣の言葉には賛同する。


 (既に被害者出てるし、今更「負けたので貴方に従います!」って言われても信用は出来ないよなぁ…悪いがここ一番大事な時に裏切られるのは嫌なんで、そのままウチの神剣に負けてくれ)


 方舟の停止という大事において、裏切られてまたゴタつくのは勘弁したい。

 ゆえにこそ二振り目の神剣には、ここで完全に大人しくなってもらう。


 『ま、まて!お前らは私と使ってこの舟を止めたいんだろうが、私は別に鍵じゃない!!』

 『それを信じると、貴方の存在意義がなくなるのでこのまま完全に壊すことになりますよ?』

 『あぁ待て嘘だ!私が舟の鍵の一つだ!だから壊すな!』

 『はい勿論。キッチリ支配させて貰います!』

 『ま、待ってくれ!せめて情状酌量の余地を!!』


 何というか情勢は見えずとも、相手の命乞いでどっちが優勢かは丸分かりのこの状況。

 ただ気になるのは、今の発言の真偽。


 『ご安心を。このロクデナシは間違いなく、この方舟の鍵です。器となる剣で扉が開いたのが証拠です』


 そんな心配を読み取った神剣が、カイセを安心させる為に証拠を提示する。

 カイセの持つ中身無しの神剣は方舟停止の鍵としての機能を発揮しなかった。

 しかし方舟内部への侵入の際には確かに〔扉を開く鍵〕としては認識されていた。

 カイセの神剣曰くこれは、中身であるロクデナシの神剣が予想通り〔方舟の鍵〕として認識されているゆえに起きた副産物(・・・)のようなもの。

 方舟のシステムは中身と剣を元は一つの存在と正しく認識していた。

 ゆえに主役の鍵はあくまでも中身の方だが、剣も〔鍵の一部〕として方舟に認識されたからこそ道中の扉の鍵として利用できたと神剣は分析しているようだ。


 (これ逆に言えば、方舟の認識が中身一択だったら方舟に乗り込む時に苦労してたって話だよなぁ)


 これが真実ならば、カイセらが方舟内部に楽々侵入できたのはただの運というお話。

 方舟の認識能力が優れていたからこそ、剣で扉を開けた。

 もしこの事実が無ければ今もなお方舟内部に侵入する為に手をこまねいて居たかもしれない。


 (そもそもこの神剣をあの巫女が持っていたことも幸運というか…むしろクーデター側の失策と…いやそうは言えないか。普通なら最強の防衛策だし)


 二振り目の神剣を手にした二人目の巫女。

 ここで神剣を奪取していなければ色々詰んでいた可能性のある現状。

 逆に言えば彼女に神剣を持たせたのが、クーデター側の失策ともいえる。

 ただ、普通に考えて999の巫女と神剣の組み合わせは防衛装置として最上級。

 数字上同格の存在が、カイセが居るというイレギュラーさえなければ彼らの戦力は小人兵の数も含めて圧倒的優位だった流れ。

 もしかしたら本当に成功していたかもしれない作戦。


 (そうなると、俺がここに来たのが…あそこで絡まれたのが…あれ?) 


 ふと気になったのは根本のキッカケ。

 だがその思考は叫びにかき消される。


 『待ってくれぇええええ!!?』


 続く神剣対神剣の戦い。

 その決着はもう間もなく訪れる。


 

 



 


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