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めがぽか転生 ~女神のポカに振り回される俺たちの異世界人生~  作者: 東 純司
第七章:エルフの国のもう一振りの神剣
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力の源と怒りの大精霊




 《――調子に乗ってすいませんでしたー!!!》


 綺麗な土下座で地に頭を擦りつけるのは火の大精霊。

 大精霊の1対3の戦い。

 力と数のぶつかり合いは…割とギリギリではあったものの、力で上回るはずの火の大精霊が敗北して事を終えた。


 《ふぅ…なんとかなりましたか》

 《中々に苦労したわね》

 《はぁー疲れた》


 本来は拮抗の取れていた大精霊間の力。

 しかし火の大精霊がパワーアップしたことで、水・風・土の三連合と対峙しても単独で競り合えるものになっていた。

 だが…異変が起きたのは終盤。

 火の大精霊の力が急速にしぼんだ。

 いや正確には元に戻った(・・・・・)


 《で、なんで途中で戻ったんですか?》

 《…力の供給が断たれたんだよ…あのまま続けば押し切れたのに…クソ》


 パワーアップした火の大精霊の力が途中で元に戻り、同格の力での1対3という一方的な本来の戦い戻ってしまった。

 

 《ちなみに…貴方は一体何を使ってあの力を手に入れましたか?》

 《それ言わないと駄目なやつな――言います!言いますから水止めて!!?ぶぶぶぶぶ》


 この期に及んで反省がポーズだけらしい火の大精霊に、たらふく水を浴びせる水の大精霊。

 ある種の拷問のような嫌がらせで、強制的に従順にさせる。


 《ぷはぁ…力そのものは世界樹のものだよ。世界樹から引きずり出した力を我が取り込んだんだよ》


 そして火の大精霊のパワーアップした力の根源は世界樹の力であることを明かした。

 とは言えこれは想定内。

 ほかに出所など浮かばないのだから、第一候補にまず浮かべて当然の内容だった。


 《そんなことは分かっていますわ。知りたいのはその手段ですわ》

 《精霊にとって世界樹の力は確かに有益だろう。しかし同時に()でもある》

 《その不利益を、どうやって無視しているのですか?》


 しかしそれでも不審を向けるのは、その世界樹の力自体が抱えるデメリットの存在。

 世界樹の力は《自然の力》。

 対して精霊たちが扱うのは《自然の中の属性の力》。

 自然の力はいわゆる全属性(・・・)の力。

 精霊の力は各属性単一の力。

 つまりただただ世界樹の力を取り込もうとすると、精霊たちは自分たちにそぐわない属性の力まで一緒に取り込まざる得ない。

 言うなれば不純物が混ざっている(・・・・・・・・・・)のだ。


 《あー…それかー…そこはなぁー…》


 すると目に見えて言い淀み、視線も明後日に逸らす火の大精霊。

 三者の視線がより険しくなる。


 《言いなさい、世界樹の力を取り込むために、一体何をしたのですか?》

 《あーえっと、何をしたというか…あるモノを利用したというか…》

 《ハッキリと》

 《あ、はい言います!!実は――》


 そして火の大精霊が明かしたその裏技の正体(・・・・・)

 それは水の大精霊ウンディーネを、激怒させるに充分なものだった。







 「――はぁ…そろそろ喰らってくれませんか?」

 「そっちこそ!」


 そんな精霊たちを余所に、999対999、神剣対神剣の戦いは持久戦の様相を呈していた。

 どちらも一撃を届けられずに、やきもきしながら次の手を動かす。

 だがその時――


 「え…きゃああ!?」

 「は?ぐぅ!?」

 

 新たな巫女の叫び声。

 振り向けばそこには体を凍らせた(・・・・)姿があった。

 そして同時にカイセにまで襲い掛かる氷結の波。


 「こっちまで…ふん!」


 新巫女に、周囲の小人兵も全て一瞬で凍らせたその力はカイセにも及んでいた。

 幸いにして自動防御が機能したおかげで凍る事は無かったが、強い冷気に充てられた装備がいくつか破損してしまった。


 《申し訳ありません。加減を制する余裕がなかったので》


 姿を現したのは水の大精霊ウンディーネ。

 この氷の世界を、あらゆるものを凍らせたのは彼女の水の変化した氷であった。


 「…彼女を殺すつもりですか?」


 だがその大精霊の表情は今までになく険しく殺意を見せるもの。

 そしてこの氷は、凍らされた生命に対する生存の配慮もない。

 殺さずに勝つ戦いをしていたカイセとは異なり、この魔法は殺しても良いという意思を明確にする。

 巫女となった存在を一撃で戦闘不能にするならば、それこそ殺す覚悟の一撃が必要なのは理解できる。

 それをしなかったからこそ、カイセも、新巫女も手間を掛けて隙を探り合っていた戦い。

 それはカイセの意志であると同時に、出来るなら同族殺しを避けたいエルフ達の思考でもあった。

 なのにそこに関わる予定でなかった大精霊が突如割り込み、カイセやエルフ達の望まなかった殺意の一撃をお見舞いした水の大精霊を怪訝に見つめる。


 《…そうですね、そうなっても良いとは思っています。ですがそれは大精霊としての私が許すところでないもの事実です。なのでギリギリのところで解放しますよ。これ以上何もないのなら》

 

 つまるところ、大精霊としては人殺しは良しとはされないが、個人的感情に任せるならばこのまま殺してしまってもいいと考えている水の大精霊。

 そもそもこの一撃は、999のステータスを持つ巫女の身であってもそのまま即死してもおかしくなかった。

 普通ならば受けた時点で即死の魔法を、喰らう瞬間の僅かな差の機転でギリギリ生存を得た新巫女。

 結果としてまだ(・・)理性が健在な彼女は、ギリギリ(・・・・)を見極める方針を見せた。

 巫女となり人並み外れた生存能力を得た新巫女の、生死の境ギリギリまで苦しめる。

 殺さない代わりの及第点。

 それを示す程度にはまだ理性は残るが、同時にそれほどまでの怒りを抱えていた。

 

 「…他の方々は?」

 《火の大精霊を治療しています。少々やり過ぎましたので》


 大精霊たちの戦いは既に終結。

 敗れた火の大精霊は、どうやら重傷を負い、今は土と風の大精霊に預けられているようだ。


 「大精霊様!」

 「あれ?皆さん?」

 「カイセ殿か。合流出来てよかった」


 するとその大精霊に次いで、エルフと騎士の一団が…分断された突入部隊がようやくカイセと合流できた。


 《皆さん、急いで制御盤を》

 「かしこまりました。皆急げ!!」

 「「はい!」」


 そんな彼らに指示を出す水の大精霊ウンディーネ。

 彼女の指示で一斉に動き出すエルフ達は急いで制御室の掌握に掛かる。

 

 「巫女様!」

 「あ、そっちは消耗して眠っているだけなので、そのまま安静に、休ませてあげてください」

 「分かりました」


 その傍に眠る巫女も保護して、制御室の奪還も順調に進む。


 「それで…それほどにお怒りなのは何がありました?」

 《…すぐに分かります》


 そして今は待つばかりとなったカイセは静かに怒り続ける水の大精霊にその理由を尋ねた。

 だが答えは後にとされた。


 「――基本軸を確保しました」

 《向こうへは?》

 「扉を開きます!」


 すると真っ先に開かれる扉。

 部屋の中央に現れる《転移魔法陣》。


 《カイセ、それと人の騎士、エルフの代表者も一緒に付いてきなさい》


 そしてその転移陣に、水の大精霊、カイセ、騎士とエルフのリーダーがそれぞれに飛び込んだ。

 



 「――ここは…世界樹の間か」

 

 転移先は〔世界樹の間〕と呼ばれる場所。

 〔世界樹の御神木〕に直接お目に掛かれる本殿。

 この領域において最も神聖視される空間。


 「…フェニ!!」


 そして、目の前に現れた世界樹、大樹の幹に取り込まれた(・・・・・・)かのような姿を晒し…同時に弱り果てた不死鳥フェニの姿があったのである。


 


 


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