999 VS 999 +α
「――《風刃乱舞》!!」
風の刃が周囲の小人兵を纏めて蹴散らしていく。
だがその残骸の陰に潜む別の刃が、カイセ目掛けて放つ一閃。
「あぶな!?」
「チッ」
背後から放たれた神剣の一振りを躱して事なきを得るカイセ。
「で…また紛れるか。面倒な…」
すぐに反撃に転じるカイセの剣は、盾代わりに使われた別の小人兵を斬るのみで標的には届かず。
暗殺者のように隠れ潜む敵の姿は、再び小人兵の集団に紛れ見失うことになる。
気配の感知もここまで雑多な狭い戦場の中で、最小に抑えられた気配までは判別しがたい。
――新たな巫女とカイセの戦い。
ステータス999同士、神剣同士の戦いはその想定を外れた戦いになった。
(くっそ…小人兵と戦うのはとっくに飽きてるのに!)
戦いの始まりと同時に湧いて来たのは大量の小人兵。
大小入り混じる混合編成の数十体。
少し前に散々潰し続けた、とにかく数が厄介な敵の再登場。
肝心の巫女はその数の森の中に隠れ潜んで、カイセらとの正面衝突を避け続け、こちらの隙を突いての一撃を放ってくるばかりの戦いをこちらに強いてくる。
『6…3…9…1…7…右30!』
「はあッ!!」
「ぐぉ!?…これに合わせてくるって…どんな感知感度してるのかな?!くッ!」
だが次の一撃に合わせて先に剣を振るったのはカイセ。
カイセの神剣のサポート、雑多に紛れる気配そのものではなく周囲の動きや穴から次の一手を瞬時に予測して指示を出し、カイセは言われるままに振るった神剣…その先には予測通りの敵の姿。
予測を外せば明確な隙を生むちょっとしたギャンブル。
だが成功すれば、不意を突く為に構えられた相手の剣は、カイセの剣を受ける為に急な変化を求められ、万全ではない体勢で剣を受けた為に力に押される新たな巫女。
「小人!!」
「うぉ!?」
すると助太刀に割り込んで来る小人兵。
守りの硬いカイセに対してでなく、巫女とカイセの間に入り込み自ら犠牲前提に神剣に飛びついてくる。
物量任せの妨害の邪魔で緩んだ剣圧から巫女はまんまと逃げ切り、再び姿を隠してしまう。
「チッ、逃したか」
『申し訳ありません、指示が遅かったようです』
「(いや…今のはむしろ俺の反応が遅れたのが問題かな)」
あと数秒早ければ、相手の守りより前に相手を斬れていた。
とは言えカイセ自身、相応の反射神経とステータス999の力でほぼ最善に近い形で放った斬撃だ。
普通は反応できない一撃、仮に受けられたとして普通の剣が相手ならそのまま丸ごと両断して終わりだったろう。
ただし相手は同じ999で、この程度は間に合い受けられても不思議ではない。
そして持つ剣はやはり神剣である以上、同格の強度ではなかなかに壊せない。
(相手が999、そして神剣持ちなのはやっぱりしんどいな。しかも…)
『小人兵の補充を確認、推定30体を基準として同時展開しているようです』
更に倒した小人兵は、以前同様にその場からすぐに補充され、常に三十体ほどが戦いの場に展開されている。
その三十の数に対して、こちらが持つ数はゴーレム二騎のみ。
兵力の質はこちらが上でも、数はそのまま難敵と化す。
更にそこに紛れて、絶対に受けたくない一撃を放ってくる巫女のめんどくささ。
きちんと剣の心得を持ちながら、決して剣道騎士道に縛られることなく勝つ為の戦いを攻めてくる相手の厄介さ。
「(いっそゴーレムに構ってくれればその隙をこっちが狙いに行けるのに)」
『それを理解しているからこその放置、小人兵任せなのでしょう』
数の多い小人兵を潰すのに一役買っているこちらのゴーレム二機。
これがいなくなればカイセ一人で小人兵の数を捌くことになり、その処理負荷が増えた分だけ巫女の狙う隙が生まれやすくなるのは確か。
つまり相手は先にゴーレムを潰しに来るのも手としてはあるはずなのだが、完全に放置されるゴーレム達。
ゴーレムを潰せば相手の優位が増えるのは確かだが…その潰す為の行動が巫女にとっての厳しい隙になる事を理解しているようだ。
おかげでゴーレムは未だ健在だが、主導権はあちらのままでカイセは後手に回らざる得ない状況が続いていた。
『1…4…2…9…右3―フェイク左10!』
「あぶ!?」
「チッ」
そのまま繰り返されるやり取り。
神剣の予測の精度は少しずつ高くなってきているが、相手も不意打ちを読まれる前提で更に一手の手間を掛けてくる為に結局紙一重の状況が続いてしまう。
「(あっちの神剣みたいに、中身無かったら俺詰んでたな、この戦い)」
『お褒め頂きありがとうございます。4…5…右6!』
「はぁ!」
「くッ!?」
敵の神剣には何故か中身の疑似人格のサポート機能がない。
だがこちらにはそれがあり、結果として神剣同士の比較は中身の差でこちらが優位に立つ。
(でも向こうには巫女としての力がある…ほんと小人兵邪魔!)
しかし相手には巫女として使える〔この領域の特権〕が存在する。
その一つは目の前の有象無象の小人兵たち。
何処からどれだけ湧いてくるのやら、無限のように思える量産戦力の利用と補充の権利。
神剣の中身の不足の不利を、補って余りある権限の行使。
「この感じ――守りを!!」
だがその小人兵が不自然に減ったそのタイミングで、僅かな予兆だけで唐突に放たれる暴風。
僅かに残存している小人兵ごと丸々この場を容赦なく吹き飛ばす防衛機能。
この風の魔法は巫女が放ったものではなく、この場の施設に備わる侵入者撃退機能の防衛攻撃。
これも巫女の権限で自由にできる権利の一つ。
「《業炎》!!」
「くッ!!」
その暴風に対し守りを取れば、追撃と巫女自身の魔法も飛んでくる。
本来の彼女自身は魔法をよりも剣の人のようでその気質はステータス999を得たとしてもすぐには変えられない。
だが魔法が全く使えないわけでもなく、その力は紛れもなく999の魔法でお見舞いしてくる。
「――やっぱり硬いわね。それに…せっかくのありえないほど高火力を出せる体になったのに加減しないとならないなんて面倒ね」
「そこは俺も同意だよ!」
とは言えこのぐらいの威力ならカイセの守りで受けきれる。
魔力が消費されるので無傷とは言わないが、縛りもあり互いに魔法攻撃は相手を倒しきるには至りづらい現状。
(互いに999の超高威力魔法の撃ち合いっていう最終戦争状態にならないのはちょっとありがたいけど、俺は俺で魔法戦の方が慣れてるからそこ縛るのは難しいな)
互いに魔法の規模に制限を受ける状況。
というのも、その理由はこの場所にある。
世界樹の領域内でも重要な施設となるこの場所。
視界に移る端末群。
ここは一種の制御室であり、領域内の様々な施設や機能をコントロール出来る中枢機関。
ゆえに両者が懸念する、戦いに巻き込んでの施設破壊。
お互い後先考えて〔端末を壊さない〕暗黙の了解を前提のもとで戦っている。
(まぁだからこそ、あそこで眠るミコは比較的安全って話でもあるんだけど)
そんな戦いの場で、今も動けずにいる本来の巫女であるミコは傷つけてはならない端末群の傍に横たわり眠っている
ちゃんと守りの結界を張ってはいるが、事実上敵の巫女にもノータッチを約束された立場であった。
相手にとってもミコは利用はすれど切り捨てるのは難しい存在のようだ。
――互いに持つステータス999は実質互角。
その力の扱いに関しては経験値の差でカイセが上。
しかし剣技は心得のある相手側が上でであり、とは言え魔法戦においては慣れているカイセが優位をとれる…がそこには場の安全を前提とした縛りが含まれる。
神剣の外側は同格で、中身の差でカイセ側に優位。
だがその差を埋めて余りある巫女の権限が相手にはある。
ほかにも細々とした要素はあるが、互いに相手を突き放せるほどの差を生み出せずにいる状況。
結果として999VS999の新たな戦いは、未だ一撃も入らぬままに繰り返されていくことになる。